COLUMN #254 憧れ

Topic: Column / Written by sanae namiki /
2026/10/15
254

ふとした折に思い出す人がいる。

その人の身近な人が、その人の話をいつも楽しそうに聞かせてくれる。あまりにもおもしろい人だから、笑い話として語られることが多い。それなのに最後は決まって「でも、本当にかっこいい人なんだよね」と言われる。私も直接話したことはあるけれど、数えられるほどなので、自分の中で多少イマジナリーに膨らんでいる部分はある。それでも、ずっと気になる憧れの存在だ。

まず、その人はとんでもなく腰が低い。知らないことへの好奇心が高く、興味を持ったことには驚くほど貪欲だ。「好き」を好きなままで終わらせない人なのだと思う。

意見には筋が通っていて、おもしろいと思ったことをふいに共有してくれる。でも言葉には慎重さがある。その節々に相手への敬意と配慮があって、不思議と親近感を抱かせる。自分の失敗をエンタメにすることが上手な人でもある。

グラフィックデザインが生業なのに、「もう少しブラッシュアップしたい」と、長い歳月、締切を延ばしていたことがあるらしい。期間を聞いて思わず笑ってしまった。つくりあげることへの執着と、少し抜けたところ。その両方が同居しているのも、その人らしいと思う。

そして何より「この人と仕事がしたい」と言う人が、とても多い。私が憧れているのはその人の仕事だけじゃなく、その人の中に積み重なったものだ。興味も、視点も、癖も、どれも削ぎ落とされずに同居している。私は、それを「厚み」と呼びたくなる。

そう考えていると、私はどうなりたいのだろう、と思う。

私も、いろんなものを削ぎ落とさずに持っていたい。まだその形は探っているところだけれど、誰かの話を聞いて、知らないことをおもしろがること。自分の中に生まれた違和感を、急いで答えにせずしばらく持っておくこと。そういった小さなものを拾い集めていけば、自分がどんな人になりたいのかが分かってくる気がしている。

憧れは、目指す場所というより、自分の輪郭を教えてくれるものなのかもしれない。

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