COLUMN #188 B

Topic: ColumnWritten by takashi araki
2025/6/6
188

ふと手に取った昔のシングルCD

A面には誰もが知るメジャー曲が、B面にはアーティストの遊び心や挑戦がそっと詰まっている。


僕が小学生の頃、初めて買った平井堅さんのCD「大きな古時計」もそうだった。

当時A面ばかりを繰り返し聴いていた僕は、B面に〈PAUL〉という愛犬へのラブソングが収録されていることにまったく気づかずに過ごしていた。


そして20年の時を経て偶然B面を聴くことになり「こんな素敵な名曲があったんだ!」と小さな驚きと喜びを噛みしめた。ふとそんな現象を自分自身に置き換えてみたくなった。


CDB面があるように、僕にももうひとつの顔がある。

30歳でオーストラリアへ旅立った僕が1年過ごして気づいたもの。それは「A面」は社交的でいつも明るくコミュニケーションを楽しむ自分、「B面」は海辺で本を読みカフェでのんびり過ごす静かな自分だということ。これまで『最強の陽キャ』だと信じて疑わなかった僕だけど、実は人と話す前には心臓がバクバクして、言葉を選びながら一歩を踏み出していたということ。


でも、オーストラリアの風景はそんな弱ささえも包み込むように、人に気を遣う「A面」と自分に気を遣う「B面」があるということをそっと引き出して教えてくれた。B面は特別な瞬間だけに現れるわけではない。朝の柔らかな陽ざしを浴びて深呼吸するとき、満員電車の窮屈さに「ふうっ」とため息をつくとき、カフェでコーヒーの香りに浸るとき、あるいは夕暮れの海をぼんやり眺めるとき、そんな一瞬一瞬に、自身のB面は静かに顔を出す。


見落としがちな小さな違和感心地よさをキャッチすることで、自身の中に眠っていた新たな豊かさや可能性が花開く。自身のB面を何度も再生し、そのたびに新しい自分と出会っていく。まるでCDB面を何度もリピートするように。

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