INTERVIEW case#54 We Work Here "面白がって、挑んで、のめり込んで働く"

Topic: InterviewWritten by Tamao Yamada
2025/3/10
Naoto Kayukawa

MIDORI.so BAKUROYOKOYAMAメンバーの株式会社ネイビー代表取締役 粥川直人さん。東京大学の大学院を卒業後、美大やDJの仲間たちと音楽活動をしながら、広告代理店に就職。現在は会社の経営者として、ユーザーが自分で商品をスキャンして会計を行うセルフレジの仕組み「レジゴー」を展開する。研究の世界からカルチャーの世界へ、広告業界へ、そして小売市場へ。少年らしさと武士道を携える彼の精神性はどこから生まれ、何を思いながら仕事と向き合うのだろう。粥川さんの「働く」とは。


千葉県船橋市出身拾った家電を分解したり廃材を組み合わせて秘密基地を作ったりするような機械・仕組み好きな小学生兄に倣ってなんとなく中学受験し渋谷教育学園幕張中学校に入学ホームセンターで色んなモノを買ってきて部屋を改造・改装しまくる周りの影響でなんとなく医学部を志望数学塾にハマり数学と物理だけできるようになる理数系と医者との道で揺れながら東京大学(以下、東大)の理三を受けるも浪人よく考えたら医者になりたいわけじゃないと思い東大の理一に進学体育会のバスケ部に入ったものの退部友人に貰ったターンテーブルをいじり始めるヒップホップ、ソウル、ファンク、ソウル、ジャズ、ブラジル音楽などを掘りまくる→DJの同級生と仲良くなりアナログのオーディオを買って自宅で爆音で聞く毎日東大や美大の先輩と銀座のギャラリーを借りて夜間にオーディオ機材や照明機材などを持ち込んでパーティーを始める周りの院生への敗北感・研究者の世界の狭さを感じ、就職を決め電通に入社想像よりも体育会系の環境でしごかれながら、ソフトバンク・孫正義さんとの仕事を通じて死に物狂いで働き続けるソフトバンクアカデミアの外部一期生に株式会社トライアル(以下、トライアル)と共同でレジアプリ「レジカート」を展開スマートレジカートとスマホアプリの両方を導入した「レジゴー」を展開し現在に至る


Interview / Writing : Tamao Yamada

Photo : Kaira

Edit : Miho Koshiba


「僕が高校生だった1990年代後半は、ギャル男文化が全盛期で、ストリート感のあるヒップホップ系はまだあまりおしゃれだと見なされてなかった。僕はそっち側だったんですよね。大学ではバスケ部に入ったけど、友達からターンテーブルを譲ってもらってからはレコードばかりいじるようになって、ヒップホップからソウル、ファンク、ブラジル音楽とだんだんと音楽の世界にハマっていきました。僕は、音楽はもちろん音も好きだったので、オーディオを安く買って修理したり、研究室から回路を持ってきてコンデンサーを変えたりと、自然と音響にもこだわるようになっていった。2000年初頭は、テクノやハウス、ヒップホップ、ロックが一緒に流れていて、本当に良い時代だったんです。みんなが新しい音を求めていて、お互いの音楽を認め合って再解釈するような感じ。そこで、僕のカルチャーの幅も広がっていきました。」

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大学では理学部物理学科に所属し、理論上証明されているものの未観測の現象や、これまで見たことのない現象を観測するために、電子の動きを研究していた。大学院には「みんなが進学するから」という理由で進んだが、最終的に就職を選択。その背景には、研究の世界の狭さや、自らの限界を感じたことによる敗北感があったという。

「当時はITバブルやベンチャーバブルで学生起業が流行っていたのですが、学生の狭い範囲での課題を解決するビジネスはすぐに飽きてしまうだろうなと思っていました。常に新しいことに触れていたいというのが僕の性分なんだと思います。電通に就職したのは、DJの先輩からの勧め。既に電通に入社していた他の先輩を紹介されて、電通はあらゆることをやってるぞと言われて興味が沸いたんです。実際にOB訪問に行くと、電通には遊びのあるおじさんが多くて、当時学生だった僕からすると、他とは違うおしゃれさがあって、より面白そうに感じたんです。CMには特に興味がなかったけど、DJも続けながら働くのもありだななんて気持ちを持ちつつ、自分に合いそうだなと。実際、入ってみたらものすごい体育会系だったんですけどね(笑)。」


「例えば、クライアントの偉い人が遅れていて、クライアントのご担当者と待っていた時、先輩から、『お前、面白い話しろ』と突然振られたんです。その当時はヒドい話だなと思ったんですけど、後々ほかの先輩に「じゃあお前はそこで何もしないでどうしようと思ってたの?お客様気分だったわけ?」と指摘されてハッとしました。内容が面白くなくても、それなりにちゃんと話ができることが能力として評価される業界。そこで気づいたのは、ただ受け身でいるのではなく、自分から場を盛り上げる姿勢や準備が求められているということです。企画とはそういうもので、期待をどう超えるか、どう裏切れるか、自分がその場をどう作るかという主体的な姿勢が求められます。そうやっていたら仕事も任せようかなという信頼が生まれてくる。最初は何だここはと思っていたけど、そういった姿勢に価値があるんだと徐々に分かって理解できるようになるまで、2年ぐらいかかりましたね。」

当時はまさにネットの黎明期。有象無象を見てきた粥川さん。ソフトバンクがボーダフォンを買収し携帯事業に力を入れるタイミングで、担当チームに入ることになり、そこで、孫正義さんと出会ったことが大きなきっかけとなった。

「孫さんはみんなを鼓舞する力がすごく、挑戦に対してはしっかりと報いてくれる人でした。本当に辛かったし、全然寝れなかったし、家に帰れない日もあったけど、それでも楽しかった。当時、ソニーの最年少役員になった方やみずほの元副頭取、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツから直接電話がかかってくることもあって(御本人曰く)、そんな環境で働けることがとても面白かったんです。『夢』とは個人的な目標で、『志』とは世の中全体を良くするための高い理想。世の中を大きく変えるためには、人の力が不可欠で、志がなければ誰も賛同してくれないんです。孫さんはよく『大志を抱き、善なる志を持て。人に協力してもらいながら大きなことを成し遂げよ』と語っていたのですが、その精神は僕の仕事の基盤になっていると感じます。」

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一方で、企業の熱狂を外側から支える広告代理店ではなく、もっと内側から関わるインサイダーになりたいと感じ始めていた粥川さん。孫氏の後継者を発掘・育成する「ソフトバンクアカデミア」の一期生に選ばれ、そこで、資料に頼らず心に訴える起業家たちのプレゼンスタイルを目の当たりにした。ビジネスの世界は広告業界とは異なる視点で動いていることを実感し、広告以外の領域にも視野を広げていった。

「ソフトバンクとの仕事を通じて、いろんなビジネスアイデアが生まれたので、起業を考えたこともありました。当時、ソフトバンクの状況も変化し、僕自身も経営者向けのコンサルティング的な仕事が増えていた中、九州のトライアルという会社の創業オーナーから、『いくらCMで認知を作っても、スーパーに並ばなければ意味がない。今はもうCMの時代じゃないぞ』と言われ、一緒にECをやらないかと声をかけてもらいました。実際、流通産業はどこの国でも大きな産業でしたし、当時中国ではネット流通企業たちが、広告産業や物流産業まで飲み込むような大きな地殻変動が起きているという情報も聞こえてきている状態でした。広告代理店の存在価値が薄れ始めていたんですよね。とはいえ、すべての買い物がオンラインになるとは思えなかったんですよ。確かにネット流通は便利ですが、実店舗の価値は世間が考えているほど低くなかったし、株価も過小評価されているように感じていました。」

「だから僕は、実店舗のデジタル化を進めて、小売業に入り込んで、デジタルマーケティングの仕組みを作ることで、メディア業として起業できるんじゃないかと考えたんです。例えば、レシートに印字された広告を、その人の購買履歴に基づいてカスタマイズするような仕組みとか。過去に購入した商品を再び購入するきっかけになるような広告を実店舗で展開できれば、EC企業に対抗できるのではと。」

レジゴーは、カートにタブレットを設置し、バーコードリーダーで商品をスキャンしてリスト化する「レジカード」を原型とし、さらに広告表示機能などを追加することで、買い物体験の向上を目指した。しかし、トライアル側との方向性のズレを感じ、粥川さんは電通を離れることに。その後、ソフトバンクアカデミアで知り合ったファイナンスの専門家の助言を受け、イオンとの商談が決定。「株式会社いらっしゃいませ」を設立し、スマートレジカートとスマホアプリの両方を導入した「レジゴー」をスタートさせた。

「レジゴーの発想は、店頭に設置された端末をお客さんが手に取るだけで、登録なく簡単に始められるというシンプルさを追求したものでした。ボタン押すとカメラが立ち上がり、商品バーコードをスキャンしてくれるので、支払いするだけでセルフレジが完了するので、レジ待ちの行列がほぼなくなります。そして、そこが広告のチャンスです。顧客にアプリをインストールしてもらうコストって、すごく高いんですよ。1人あたりの顧客獲得コストは約4万円掛かることもあると言われているのですが、店頭にすぐに使える端末を置く方がむしろコストパフォーマンスが良いだろうと。当時はまだ名前はなかったので、コピーライティングも何でも相談できる妻に相談しながら、レジという言葉に勢いを感じさせる『GO』をつけて、とにかくわかりやすく『レジゴー』という名前をクライアントに提案しました。レジゴーには店頭ではあまりハウツーを細かく説明しておらず、興味を持って近づいたら誰でも操作ができるようなデザインになっています。『レジ待ちなし』というメリットはあえて前面には出さず、楽しそうな雰囲気だけを感じられるような設計にしています。ブランドキャラクターもスーパーの店員さんたちが勝手にいじるだろうなと思って、シンプルで汎用性の高いデザインにしています。」

「レジゴーの発想は、店頭に設置された端末をお客さんが手に取るだけで、登録不要ですぐに使えるというシンプルさを追求したものでした。ボタンを押すとカメラが立ち上がり、商品バーコードをスキャン。そのまま支払いを済ませるだけでセルフレジが完了するので、レジ待ちの行列がほぼなくなります。そして、そこに広告のチャンスがあると考えました。顧客にアプリをインストールしてもらうコストは非常に高く、1人あたりの獲得コストは約4万円かかることもあると言われています。それなら、店頭に誰でもすぐに使える端末を設置した方が、むしろコストパフォーマンスが良いだろうと。当時はまだ名前も決まっていなかったので、コピーライティングなど何でも相談できる妻と話し合いながら、レジという言葉に勢いを感じさせる『GO』をつけ、とにかくわかりやすい『レジゴー』という名前をクライアントに提案しました。

レジゴーの店頭設計も、細かい操作説明をせず、興味を持って近づいた人が直感的に使えるようデザインしています。『レジ待ちなし』というメリットはあえて前面に出さず、楽しそうな雰囲気を重視。ブランドキャラクターも、スーパーの店員さんたちが自由にアレンジできるよう、シンプルで汎用性の高いデザインにしました。」

レジゴー
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粥川さんにとって働くとは?

「メイクマニーじゃなくていいから、やっぱり世界を股にかけるようなことをしていたいです。僕は仕事そのものが好きで、楽しくてついついのめり込んでしまうこともあるので、半分は暇つぶしのような感覚でもあるかな。尊敬する孫さんやトライアルのオーナーはいつも楽しそうなんですよね。自分の意思で生きている人たちは、常に現場でファイティングポーズを取りながら戦っているのでかっこいい。死ぬ間際まで『あのプロジェクトが・・・』と考え続けていられるような人生に憧れます。自分の子どもたちにも『大人は楽しいもんだぞ』ということを伝えたいですね。」

最後に、粥川さんにとってMIDORI.soとは?

「人との繋がりがある場所だと思っています。僕は少しでも興味があれば、新しい場所に行って人と話すタイプなのですが、周りの人が何をしているのかを見たり話を聞いたりするだけでも、状況は変化していくと思うし、新しい仕事のパートナーを見つける可能性だってあるかもしれない。前に、MIDORI.so BAKUROYOKOYAMAの屋上でビアナイトに参加した時、他企業や人との会話から事業に役立つアイデアが得られる機会になったので、ああいったイベントが拠点を横断しても面白いかもしれないですね。」


粥川直人 | Naoto Kayukawa

電通のプランナーを経て、スタートアップへ。電通在籍時に関わったスマートレジカートの実証実験をきっかけに、リテールAI研究会の発足に参画し、初代理事。リテールテック2社の経営を経て、2022年からネイビー代表に就任。東京大学理学部物理学科卒、同大学院卒ソフトバンクアカデミアの外部1期生。






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