就職(してもしなくてもいい)相談会 トークセッションレポート 第2部 「働くの未来2」就職・起業・継ぐ・他には 多様な『働く』

2023年10月28日、MIDORI.so SHIBUYAにて開催した『就職(してもしなくてもいい)相談会2023』。本イベントは、具体的な会社や職業を探すことを目的とした就職活動のための相談会ではなく、参加型トークセッションやマーケット、相談会など、参加者が自由に意見を交換する場を作り、就職する前にまずはこれから自分がどう生きたいか・働きたいかを考え、より良い社会をつくる仕事や人と出会えるような機会を通して「働く」に対する視野を広げてもらうことを目的とした。
本レポートでは、相談会第2部『「働くの未来2」 就職・起業・継ぐ・他には 多様な『働く』』で語られた内容について紹介。ゲストスピーカーは、株式会社SISI CEOの澤田実加さん、株式会社エッセンス 代表取締役の西村勇哉さんの2名。MCはMIDORI.soコミュニティオーガナイザーの増田早希子。
Writing : Tamao Yamada
Photo : Reiko Matsunaga & Popi Takahiro Yanakawa
Edit : Miho Koshiba

澤田実加さん(株式会社SISI CEO)
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、REVAMPを経て、MARS(外資系消費財メーカー)にてブランドマーケティングを担当。その後、マーケティング会社に参画。スタートアップ及び大企業のマーケティング戦略立案及び、TVCMの開発、ブランドの開発など複数のプロジェクトをリード。2020年3月に株式会社SISIを設立。

西村勇哉さん(株式会社エッセンス 代表取締役)
1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学の修士を取得。人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2011年にNPO法人ミラツクを設立。セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築と、大手企業の新領域事業開発支援・研究開発プロジェクト立ち上げの支援、未来構想の設計、未来潮流の探索などに取り組む。2021年に株式会社エッセンスを設立。先端研究者メディア「esse-sense」をリリース。2023年9月に、研究者への継続的な資金提供の社会システムサービス「月額パトロンサービスesse-sense」をリリース。知のアクセスを実現する「Knowledge Tech」企業として研究知と社会の接続に取り組む。滋賀県大津市在住、3児の父。
就職活動ってしてた?

多様な「働く」を考える上で、最初に伺ったのはトークゲストそれぞれの経歴について。現在自分で会社を経営をするお二人も、大学生の頃に就職活動を経験している。起業をする前に、それぞれどのような気持ちの変化や仕事の経験があったかについて話が展開された。
西村:大学生の頃は勉強はせずにずっと弓道をしていて、大学院では、論文をカバンの中に詰めてチベットやボリビア、ペルーなど色々な国をバックパッカーをしていました。大学・大学院で心理学を勉強していたので、仕事でもその分野を役立てたいなと思っていたんですけれども、僕が学生だった20年程前は、心理職というと教育分野や行政での仕事がすごく多かったんですね。僕の担当教授も犯罪心理学者で少年院の鑑別をやっていました。僕は、心理学をビジネス界で生かすような仕事がしたかったので、新卒で受け入れてくれるベンチャー企業を探して願書を出していました。
澤田:大学生の頃は、就職することが当たり前だと思って就活をしていました。私は、物がどのように作られてどのように売れているのかという消費財のマーケティングに関われるような仕事をしたいと思っていたのですが、ちょうどその時期がリーマンショックがあった直後くらいで、ものすごい就活難だったんです。書類を出しても出しても通らない。それでも就職はしないといけないと思って、エントリーシートをとにかく出して、面接して、何とか入った会社で、システムエンジニアの仕事をすることになり、そこで3年間働いたところからキャリアがスタートしました。でもそれが全く向いていなくて。時間を使っているのに全然上手くならない。多分全然好きじゃないから上手くならないんだろうなと思い、それだったら好きなことを一生懸命やれるような仕事っていうのをやりたいと思い、元々新卒の時に希望していたマーケティングの仕事に3年半目に転職しました。
西村:僕は3年も粘れず、1年半ぐらいで転職しました。新卒で入社した会社は研修業界だったのですが、競争が激しくレッドオーシャンな業界で、研修時間以外の組織内のコミュニケーションやルール、外部のステークホルダーとの関係構築が企業の変革に影響するので、そのような視点から仕事をしたいと考えた結果、転職することにしました。
澤田:最初の会社もチャンスがあれば早く辞めたほうが良かったかもしれないと思うこともあるんですが、社会人1年目の何もできなくて苦しかった時代に一緒に働いてた人が今になって助けてくださることがあるんです。向いてない職業でしたけど、振り返ってみるとどこに行っても一生懸命頑張るというのは無駄にはならないんだと、やっと感じられるようになりました。
起業するとは思っていなかった

大学生の頃に起業を考えていなかった人も、経験や状況の中でその道を選んでおり、個々人のとって幸せな働き方には様々な選択肢があり、起業家も紆余曲折を経てその道を進んでいる。様々な選択を経た中で、どのように起業に至ったかについてトークゲストにそれぞれお話を伺った。
澤田:私は大学を卒業してから普通に会社に入って働いていたのですが、3社目では、色々なスタートアップのマーケティング支援をするような事業をしていたので、スタートアップやベンチャー企業で働く人と会う機会が増えたんです。社長が同い年、中には私より全然若い人もいて、段々と「起業」が自分の選択肢にも入ってくるようになった。たまたまその会社で、化粧品の事業立ち上げに関わる仕事をした時に、自分がすごく一生懸命になれているっていうことに気が付いたと同時に、自分がずっと化粧品や肌の事業をやりたいと思っていたことを思い出したんです。でもその事業は、自分で立ち上げたものではないから、何もリスクを取ってない中で自由にできることは案外少ないということに気がついて、自分がやりたいことを100%するために、思い切って会社を辞めて起業したという感じです。
西村:僕は起業というより「会社を辞めた」っていうのが正しくて、2007年に転職して、翌年にミラツクの元になる任意団体を作ったのですが、当時はプロジェクトという感じで、渋谷のカフェを貸し切り、みんなが集まれるような時間を毎月作って、アクティビティをやり始めたんです。そのアクティビティが面白くなって、クライアントも増えていき、仕事も忙しくなってきて過労で倒れてしまったんですけど、何かを止めないといけないと思って、仕事をやめました。
増田:西村さんは、NPO、会社、研究者、学生といろんな側面をお持ちですが、何をやって何をやらないかという判断基準を、どういう風に決めてらっしゃるんですか?
西村:僕が責任を持っているものが、NPOと会社、お父さん。組織においては、今年やるべきことがあるので、それをちゃんとやって事業を回し続けること。そのために年1回1ヶ月お休みを取って何をするかをしっかり考えています。僕の場合はそれ以外に、研究にも時間がかかるし、声がかかった時に面白そうだからやれるという状態でいたい。そのために、自分がちょっと興味があると思ったら、とりあえず言ってみてます。それでやってきたものをただ受け取っているっていう感じですかね。営業に例えるとわかりやすいかもしれません。営業は回数と確率の世界。それは就職活動も一緒で、最終的に必要な数って多くないんですよ。失敗を沢山しないと、母数が埋まっていけないわけだからいつまで経っても成果は出てこないですよね。
やってみたいことにとことん時間を費やしてみたらいい

トークは終盤に差し掛かり、学生時代に戻ったとしたらどんな選択をするかという話題に移る。ゲストスピーカーのお二人にお話を伺った。
澤田:今起業していてとても楽しいので、もし大学生の時に自分のやりたいことが明確に決まっていたとしたら、私は起業すると思いますね。
西村:とにかく好きなことをやった方が良いと思います。もちろん起業も良いと思うし、図書館にひきこもって本を読みまくることでも、麻雀を極めることでも、社会的なことと関係なくても全然良い。でも、やるんだったらやり切った方がいいと思います。私は大学院生の頃に、バックパッカーで色々な国に行った経験が本当に良かったなと思っています。今はチベットやボリビアなど、後ろで銃弾が流れているような危ない国に子どもを連れて行くことは難しいですし、面白い場所に行けるタイミングってあると思うんです。学生は自分で自分の責任が取れる大人でありつつ、かかる迷惑が非常に少ない時期。働くのは後でも良いから、自分のやってみたいことにとことん時間を割いてみたらいいと思います。
そして最後に、「働くとは?」について伺い、それぞれの働くについて伺った。
澤田:私は「登山」です。一人で会社を始めてから、だんだんと仲間が増えてきて、直線距離で進みたいけど、上手くいくことばかりじゃないから、迂回して、たまに落ちてを繰り返しながら、みんなでこの山登ろうと決めて進んでいる感じがあるんです。苦しいことももちろんあるんですけど、やっぱり楽しい。
西村:前提として僕はのんびりしていたいんですが、働くとしたらどういうことをするか。働くとは「誰かの役に立つこと」です。そのために、起業しても就職しても何でも良いのですが、まずは役に立つというのが大前提。あとはそれをどのようにやるのか、値付けはどのようにするのか、そうやってビジネスになっていくだけ。人がこういうことしたいと思っていることにどれだけ貢献できるか、やっぱり相手のことをよく知ることの方が大事だと思います。本当に自分ができるかどうかの見極めは、やってみた後からついてくると思います。

今回のトークでは、働くとは何か、そして自分の人生をどう歩んでいくかについて、ゲストのお二人の経験や考えが語られたことで、働くことの意味や喜びについて考える機会となった。起業も就職も、働き方の選択の一つに過ぎず、自分のやりたいことや興味を追求することで、幸せな働き方への道を開くきっかけが生まれる瞬間があるという話は、人生の選択肢を広げる視点のひとつになると感じる。また、「働く」とは単に収入を得るためだけではなく、誰かの役に立つこと、そしてその中で自己成長や満足感を得ることが大切であることも再確認できた。
就職(してもしなくてもいい)相談会 EVENT
就職だけでなく、働くを考える。
今から社会に出ようとする学生たちにとって、「会社に入る」以外の選択肢に触れられる機会が限られているため、多くの人は、社会人=会社人になることになります。就職サイトや会社説明会では、会社の中にいる人の声しか聞くことができないという実情もあります。限られた情報を基に就職活動をして、希望の会社に入れたのはよいけれど、会社に対する不平や不満がすぐに湧いてきたり、こんなはずじゃなかったと悩んだり、あるいは会社に酷使されて身体を壊してしまう人もいます。その原因は採用した会社だけにあるのではなく「働くとは何か」をよく考えずに就職するしかなかった学生自身、あるいは、そのような「働く」の多様性や選択肢を提示できなかった社会にもあるのではないでしょうか。
本当の「仕事」は求人票や就活サイトの中だけにあるものではありません。これから就職活動をする学生や今の仕事に悩んでいる人たちに、「就職」の前に「働く」ことをまず考えてもらうこと。それが本人にとっても、会社にとっても、社会にとっても、重要なのだと考えています。
就職だけでなく、働くことを考える。それが『就職(してもしなくてもいい)相談会』です。
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