COLUMN #242 しんでもしなん

Topic: ColumnWritten by yusei kawamata
2026/7/16
242

目の前の愛おしき当たり前の日々を零さないよう、僕は毎朝死を想う。

「朝から?重」なんて思うかもしれないが、朝からだ。重いのだ。それと同じように当たり前も重い。

そして眠るときに生を想う。眠れば考えられないからだ。

そしてまた朝が来る。生が、始まる。

「いつか死ぬとき、なんしてるときに死にたい?」という質問に、散歩してるときがええかな、と僕は答えた。

あ、死ぬ。と思いながら死にたないので事故は嫌。

もう夜やん。と、夕暮れと夜の境目を認知することができんように、曖昧に、溶けるように死にたい。

死というものについて、幼いころからとにかく考えてたような気がする。

年齢いうんは死んでない年数で、死は見えても分からんって、それに大人になればなるほど死を受け入れるって、どないなってんのって。

それが解りきってることならいつから解りきったことになったの?と聞けば

おかんは「そんなもん」と言う。

さんざん考えても、死そのものについては結局分からんし、本を開けば誰かが先に考えたことしか並んでへん。

結局「そんなもん」

理解できても納得できんかった。

自分の死やのに、自分だけわからんとか。

そこで、僕は死という概念そのものについて考えるのを一度やめ、僕だけの死に様を考えることにした。

それこそが、散歩してるとき。

右、左と足を出し、あれこれ浮かんでまた一つと零れ、ぼーっとしているようで世界は良く見える。

白い陽の下で、蝉が鳴く。

影は濃く、キャッキャと走る子供は上目遣いで年老いた僕を見る。

なつかしくてくやしくてうらやましくて

僕は杖を離して走りだす。

壁に手をかければ熱く、アキレス腱を伸ばせばふくらはぎは白く焼ける。

足裏の皮膚は捻れ、地の硬さが骨に響く。

鼓動は高鳴り、全身に血が駆け巡る。熱い血。

白い陽の煌めきは視界と解け混じる。

吐く息は掠れ、蝉の音が内側から騒ぎ立てる。

吹きこぼれた。空は広かった。

手を膝につけて息切れ。汗の粒が影をさらに濃くする。

仰向けになって天を仰ぎ、大きく息を吸う。

草木はむせるほど薫ってる。

そして僕はしんでもしなん。自分の死体すら超えてやりたい。と言う。

子供のような面持ちで。

MIDORI.so Newsletter: