COLUMN #223 ケア経営試論

Topic: ColumnWritten by katsunari takeda
2026/2/20
223

最近考えていた「ケア経営」というコンセプトについて書いてみたいと思う。


振り返ると、学生起業から始まり、数十を超える事業の立ち上げに当事者として関わってきた。

酸いも甘いも経験する中で、多くの経営・イノベーションに関する理論に触れてきた。


MBA、デザインシンキング、リーンスタートアップ、Zero to One、マーケティング思考、データドリブン、パーパス経営それらの多くはとても示唆深く、私自身、何度も助けられてきた。


すでに確立されたイノベーション理論を活用しながら会社経営を経験するなかで、最近自分なりのスタイルのようなものを見つけたので、それを言語化してみたい。


それが「ケア経営」というスタイルだ。


倫理学の世界において、キャロル・ギリガンらが提唱した「ケアの倫理」は、抽象的な正義や原則ではなく、具体的な他者への応答と関係性の維持を重視する。多くの経営理論において、イノベーションの起点は「リサーチ」とされるが、ケア経営においては、イノベーションの起点は「ケア」だ。


顧客の困りごとをヒアリングするに留まらず、それに応答し、解決する。そしてそれを繰り返す過程で、イノベーションの種を見つけるというのがケア経営のスタイルだ。


これは小さな仮説検証を繰り返すリーンスタートアップと似ているが、決定的な違いがある。


リーンにおいて、顧客との対話は「学習」の手段だ。仮説が外れれば、その過程は「失敗」として処理される。目的(イノベーション)に到達しなければ、プロセスの価値は失われる。


ケア経営では、目の前の人の課題に応答すること自体が目的だ。その結果としてイノベーションが生まれることもあるが、仮に生まれなくても、誰かの課題を解決したという事実が消えることはない。


実験的にではあるが、この考え方を取り入れて自社のSaaSを運営したところ、業界水準を大きく下回る解約率を実現できた。目の前の顧客に応答し続けることが、結果的にプロダクトの改善と信頼の蓄積につながったのだと思う。


ケアという方針だけで、うまくいくほどビジネスは単純ではないかもしれないが、実存はビジネスに先立つと考える。


この理論の種が、誰かのケアに役立つ日のために、温めて発酵させておきたい。

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