INTERVIEW We Work Here case #26 "誰かのことを思うこと、それがインテリアデザイナーの真髄"

Topic: InterviewWritten by Yuko Nakayama
2020/8/17
Taisuke Moritani

みどり荘永田町メンバーの守谷太助さんは、現在インテリアデザイナーとして店舗をデザイン、設計する事を生業としている。まだ何一つ描かれていない空間に対して、どんなことをイメージしながら、立体的に設計図という一つの絵に線を重ねていくのか。守谷さんが大切にしている姿勢、感覚、そして今後の視野など守谷さんの「働く」についてインタビューをした。

Interview / Text / Photo Yuko Nakayama

Edit Miho Koshiba, Moe Ishibashi


「店舗のデザイン、設計をしています。元々働いていた設計会社の仕事は9割は飲食店でしたけど、最近は元みどり荘メンバーのSTUDIO DIG.さんと一緒に仕事をするようになって、飲食店以外のインテリアデザインのお手伝いもしています」

「インテリアデザインの仕事における登場人物は大きく分けて3者います。仕事の依頼をする施主さん、その施主さんからお金をお預かりして設計やデザインをするインテリアデザイナー、それを実際に形にしてくれる施工会社さん。その中で、僕はインテリアデザイナーとして現場調査から始まりレイアウトの作成、パースによるデザインの提案、それを設計図に起こして実際の現場での設計管理まで一貫してやっています」

図面

パースを描き、設計図に起こすとは具体的にどのようなプロセスを踏んでいるのだろうか。

「パースは、店舗などの場所の雰囲気を伝えるためのCGの外観図です。施主さんがその外観のデザインを気に入ってくれたら、天井設備の収まりや排水はどこにいくのか、キッチンを作るのであればどう防水すべきか、面積による避難動線の設定や排煙や防災の計画など、あらゆることを頭の中に巡らせながら、設計図に落としこんでいく。そして、空間を真上から見た平面図、横から見た立面図、その中を切った断面図など、様々な角度の図面を描いていきます。実際に人が立った時にどれくらいの棚の高さが良くて、食器や備品がカウンターに収まるかなど、まだ形になっていない場所に対して、想像力を張り巡らせて全てを考えることが設計です。ミリ単位まで指定するので数字を間違えれば大きなミスに繋がります」

「実際にその場所を使うお店の人や、そこを訪れるお客さんのことを第一優先に考えることが、設計する上で大切にしていることです。インテリアデザインは、誰かのことを思うことが仕事。何もない場所に人が集まって、話して、食べて、飲んで、笑ったりする風景を思い浮かべながら、図面を描きデザインをしていくことは楽しいです。ただ、人の感覚は人それぞれ違いますから、見え方だけではなく、実際に座ってみた時の目線やにトイレが近かったら匂いがするかもしれない、光の当たり方によっては眩しいかもしれない、エアコンの風が当たりすぎて寒いかもしれない、と空間に対して人が五感でどう感じるかをイメージします。実際に出来上がった場所に行かないと分からない感覚を加味して設計することがいい設計士だと思っています。だから、妄想力、想像力はとても大事です」

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生まれは兵庫県明石市。神戸の街を一望できる六甲山が近くにそびえ立ち、海がそばにある環境で育った。大学では心理学を専攻し、海外への憧れから海外支社のあるアパレル会社から内定をもらっていたが、大学4年生のある日、インテリアデザイナーの道を突如志した。

「将来に対してこれといって何かやりたいという気持ちはなく、自分の部屋に買ってきたレンガを積んだり、色を塗った構造合板の上にスピーカーを載せたり、自己流にインテリアデザインをすることが昔から好きでしたが、仕事にしようとは考えていませんでした。大学4年生のある日、知り合いの美容室に置いてあったバリのホテルの写真集をたまたま手に取り、ホテルの内装を眺めながら、床とソファが同じ高さで、寝そべるような座面のレイアウトが日本にはない空間で興味深かったんです。その時に、空間を作り出すインテリアデザインという仕事自体に気持ちが傾き「これしかない」と直感。思い切って内定を断りました」

「心理学しか勉強していなかったので、インテリアデザインの会社は絶対に受からないと分かっていました。ハローワークの職業訓練学校で数ヶ月住宅設計を学び、そこに教えに来ていた先生のもとで半年くらい設計のお手伝いをしました。その後は、色々なデザイン会社に応募したけれどなかなか受からず、受かった会社は設計と施工両方を事業としている会社でした。施工現場をコントロールする現場管理の仕事を任され、百貨店に行ったりすることもあったので日中はスーツのまま、現場対応がいつでもすぐにできるようにカバンの中にはインパクトドライバーや金槌を入れ、朝から晩まで3年くらいは馬車馬の如く働きました」

設計・施工の会社で働きながら蓄えたお金で、インテリアデザインを学ぶために兼ねてから憧れていた海外に留学。アートや音楽などカルチャーの勢いが盛んなイギリスの語学学校に通い、後にインテリアデザインを学ぶ。日本に帰国してからは7年間設計会社にて、設計のスキルを培っていった。

「当時は学生ビザでもバイトができたので、語学学校に通いながら現地に住む日本人の住宅内装専門の大工さんのもとで、木を切ったり石を斫ったり、住宅の内装工事を手伝っていました。インテリアデザインを学びに通っていた大学では、本来だったら1年目はファンデーションコース、そこから各人専門的な事を学ぶんですが、内装の基礎知識があったので僕が取ったのは1年だけのエデュケーションコースでした。このコースはキャリアチェンジをしたい人のためのコースだった。グラフィックデザインにも特化したコースがあったので、校内で学生たちの作品をよく目にしては、日本っぽくないデザインが単純に格好いいという印象を受けました。学生の作品ということもあるかと思いますが、色使いやレイアウトが大胆で、全体のバランスを大事にする日本的な感覚とは違った迫力があったのを覚えています。

そのままイギリスでインテリアデザイナーとして働きたかったんですがワーホリが通らず、日本に帰国してからは飲食店がメインの施工会社で働きながら、図面やパースのスキルを実践と共に習得していきました」

「どうしても学んでみたかったグラフィックデザインを学ぶために、7年間務めた前会社を退社し、再度イギリスに飛びました。グラフィックデザインの学校でしたが短期集中で3ヶ月で即戦力をつけるコースだったので、コンセプトの提案、ブランディング、プレゼン手法などビジュアル以外の知識も学ぶことが出来ました。インテリアデザインは3次元のデザインですが、2次元のグラフィックデザインを勉強することで空間デザインをする上での手法に厚みが出来たと感じています。帰国後は、どこかの会社に就職しようかと頭によぎりましたが、もう一度会社に勤めて働く自分のイメージが湧きませんでした。22歳の時にインテリアデザインをやりたいと決めてこの道に入ったんだから、失敗しようが自分でやらないと気が済まないと思ったんです。その後はしばらく前の会社の仕事を手伝ったりしながら食いつなぎ、フリーランスのインテリアデザイナーとして独立することにしました」

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守谷さんの屋号「デザインスタジオ モンタージュ」のモンタージュの語源は映画の撮影手法だ。フリーランスとして独立した守谷さんが、モンタージュに込める思いとは。

「モンタージュとは色々な場面を組み合わせて統合し一つのシーンを作るという手法で、インテリアデザインにも共通する手法だと思ったんです。お店を作ることは物語を作ることに似ていて、施主さんが[原作]インテリアデザイナーが[脚本家]実際に現場の工事をしてくれる施工屋さんが[監督]。原作だけがあってもお店はできないし、それを実際に現場を見て形にするための図面を描いてデザインを提案する脚本家が必要。それでも形にならないから実際に現場で組み立ててくれる監督もいなければならない。そうやって映画のワンシーンを作っていくこととお店を作ることが似ているなと感じたんです、と格好の良いことを言いましたが、モンタージュにしようとしたきっかけは、僕の中学の頃のあだ名が『モンタ』で、フリーランスとして独立しようと思っていた矢先に、幼馴染と一緒に見に行った東京のある展示会の1つの作品名が「モンタージュ」だった。僕のあだ名と似ていたから幼馴染と一緒に『これでええやん』となったんです」

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インテリアデザイナーとして独立してもうすぐ2年が経つ。守谷さんにとって働くとは。

「仕事=人生だと思います。よくドラマで『仕事と私どっちが大事なの?』という話がありますが、仕事は自分自身と思っています。僕からしてみたらあの質問は『あなたと私どっちが大事なの?』と聞いているようなもんなので、ナンセンスだなと思います。最近まではコロナによってリモートで家で仕事をしていましたが、人と打ち合わせをする時もオンラインだと熱量を感じられなかった。やっぱり人と関わることは楽しいですし、人と繋がることが仕事かなと思っています。お店をデザインすることで人との繋がりも生まれ、僕にとって仕事は、誰かと繋がるための一つのコミュニケーションツールと考えています」

「どこかのお店に行ってもつい内装を見てしまうし、オペレーションを見たり、壁をコンコンと叩いたりしてしまいます。職業病という言葉はいい言葉だと思っていて、いい意味で中毒ですね。フリーランスと前の会社で働いていた時の違いは扱っているお金が大きかったゆえに、常にプレッシャーがあったし、時間にも追われていました。物件によっては1億近い工事費になることもあったし、ミスをしないようにと吐きそうなくらい心配にもなりました。締め切りは今でもありますけど、フリーランスはやり方も働く場所も自由だし、みどり荘という居場所もあるし、場所と時間に関してはストレスが少なりましたね」

まだ存在もしていない空間にいつかは訪れるであろう人々のことを想像しながら、未来の場所に図面を引いている守谷さんの姿勢には、空間に対する優しさがある。今後どんなことを視野に入れいて働いていこうと考えているのか。

「最近は、三分一博志さんという瀬戸内芸術祭などで活躍している建築家の本を読んだりしています。彼は建築を地球のディティールとして考えていて、建築物を立てる場所を23年かけてリサーチして、その土地の自然、風土、歴史や人のみならず「動く素材」である風、水、太陽や月などまでを念入りに観察・分析することから始めます。一方でインテリアの業界は建築に比べると寿命が短くて、作り込んだかっこいいお店でもオーナーさんの経営の状況で1年で終わってしまう店もある。クローズすると居抜きで転用することもありますが、基本的に全てを壊して白紙に戻して、またゼロから作るのでゴミも出るし環境への負荷が多い職種です。三分一さん思想のように『あるものを生かして、ないものを作る』ことができたらいいと思いますし、僕がそれを仕事に生かせるかというと難しいところはありますけど、もっと具体的に何かをしていかないと思うようになりましたね」

「今までは、設計やデザインの勉強をたくさん経験してきましたが、新しい顧客を掴むということを今までしてこなかったので、そこが今最大の山です。設計やパースを描くことが仕事のメインになっていますが、このような外注作業のよくもあり悪いところは、図面を描いたらそこまでで責任範疇が少ないことです。本当はもっと施主さんと11100パーセント責任を持ってやりたいです。リスクも多いですし、失敗することは怖いけれど、手がかかる子ほど可愛いし、出来上がった時はより嬉しいです。今後はさらに自分のデザインと言えるお店を作っていくことが目標ですね」

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みどり荘とは?

「プライベートと仕事の中間のような場所ですかね。仕事をしに来ているんだけど、あまり仕事仕事していない不思議な空気感。オフィスでやっていると同僚がいたり、お客さんや業者さんなど基本的には仕事の関係者しかいないけど、みどり荘は僕の仕事には関係ない人がいたり、僕の席の横にはスーパーウェブデザイナーの人がいたり、私生活でも会社でも会わない人とも会えるので、そういう意味でプライベートと仕事の中間領域を感じます。CO(Community Organaizer)とも世間話したり、結局仕事をするということは人と繋がることだと思いますし、みどり荘では背伸びせず日常的にそのような状況が生まれることもありがたいことですね」


守谷 太助 / Taisuke Moritani

Interior designer / Graphic designer

大学で心理学を専攻し認定心理士を取得するが、就職活動に際し兼ねてより興味のあったインテリアデザインをライフワークとして選択する。卒業後ハローワーク主催の建築設計デザイン課を受講し、修了後に講師であった建築家の元でオープンデスクに参加。その後、店舗の設計施工会社に就職し大阪支社にて現場監督として3年間、工程や全体スケジュール、コスト、人材や材料の管理等を多岐に渡るプロジェクトを通して学ぶ。海外での生活に興味があった為、退社後イギリスへ留学し英語を勉強する傍ら現地で住宅の内装工事に携わり、解体から基礎工事、仕上作業まで実際に自分の手で行い、管理とは違った形で物作りの深さに触れる。その後、ロンドン芸術大学にてインテリアデザインを学び、帰国後東京の設計事務所にて7年間店舗の設計デザインに携わり、国内外100を超えるプロジェクトに携わる。

退社後再度イギリスに短期留学しグラフィックデザインを学び、帰国後201812月にDESIGN STUDIO MONTAGEを設立。

https://d-s-montage.myportfolio.com/work





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