INTERVIEW We Work Here case#20 “モヤっとしたものの画素数を上げていく”

人それぞれがもつそれぞれの働き方。その「それぞれ」には多様さ、豊かさに繋がる意味もあれば、時として不自由さを感じることもあるだろう。いい大学を卒業し、いい会社に入るといったお決まりのコースを歩んでいればさえ良かった時代はとうの昔のことのように感じる。人生の時間の大半は「働く」が占める。正解がないからこそ、隣の芝生を覗けば青く見えることもあるが、実は自分自身も青い芝生の上に立っているのかもしれない。彼らの仕事は、その自分自身との向き合うべき対象をはっきりとさせ、それぞれの進むべき矛先を共に定めていくことだ。
キャリアデザインスクールを運営する我究館は、自分の将来を考える就職活動中の大学生や転職を考える社会人のキャリアの相談を受け、彼らに対して面談、講義などのコーチングを施す。何千人もの人々の将来と向き合ってきた彼らの働くことへの姿勢、キャリアデザインスクールとしての我究館のこれからの在り方、館長の熊谷さんを中心にセクレタリーの田中さん、コーチの藤本さん3人にインタビューをした。
[ Interview / Text / Photo ]
Yuko Nakayama
[ Edit ]
Miho Koshiba, Moe Ishibashi
2019.12.20
熊谷「最近は就活塾や転職塾という言葉がすごく使われていますけれど、この言葉が生まれたのは10年くらい前の話。我究館は28年前のバブル期に創業し、その頃はそういう言葉は当然なく、大企業に入ったら一生勤め上げるのが当たり前でした。そのような時代において創業者である杉村太郎は、しっかり自分と向き合い、将来何を成し遂げたいのかを考え、社会に出ていく若者を増やそうとした。どうやって生きるのかを創造しようとしたのが我究館」

1年を通して約300人の学生、約100人の社会人が、自分自身の今後の生き方・働き方について疑問を抱き、彼らの元を訪れる。
熊谷「社会人の方は、キャリアの選択は多様です。転職する人もいれば、青年海外協力隊に行ったり、医者になったり、副業もキャリアの選択肢としてお伝えし、副業を始めたりと、いろいろな人たちがいます」
熊谷「今いる会社で頑張ろうが、外に出ようが場所が変わるだけなので、何が一番ベストなのかということを考えていく。場所を変えるのが一番とは限らないです。だいたい社会人スクールに来る方の半分は働いていた会社に残ります。『転職したい』は、上司と馬が合わないとか、仕事がつまらないとか、外部要因によって愚痴を言っているだけだったりする。ちゃんと分析するとその会社を選んだ理由は当たり前だけどあるじゃないですか。その方にとって何が満たされればいいのか、一緒に考えて戦略を練っていきます」
熊谷さん、田中さん、藤本さん、八木橋さんを合わせて、我究館は4人の事業チームで構成されている。熊谷さんは我究館の館長としてコーチングをやりながらも、講演や取材対応、執筆活動など、我究館の顔でもある。田中さんは、法務、情報システム、マーケティングもを網羅するバックオフィス機能を担いつつ、熊谷さんのセクレタリーとして、彼と同行することもしばしば。藤本さんは学生校のほぼすべてのクラスを受け持つ我究館のコーチを務める大黒柱のような存在。八木橋さんは、藤本さんと同じくコーチで、ご自身が1児の母であることから、女性のライフイベントも含めたキャリアデザインに強みを持つ。
藤本「ずっと中高の体育の先生になろうと思っていました。でも、先生になる前に大学生の頃から興味があった青年海外協力隊に行きたいと思い、ケニアに行きました。協力隊が終わり、JICAのキャリアカウンセラーから我究館のコーチにならないかと紹介してもらい説明会に行ったんですが、その時の自分のキャリアがぐちゃぐちゃで、具体的に何をしたいのかが見えていませんでした。そこで、コーチになる前に我究館の講義を受けて、自分自身を整えてからコーチとして働き始めました」
熊谷「その『整える』についてお話しすると、モヤっとしたものの画素数を上げていくと、何をしたらそこにたどり着けるのかがイメージしやすい。それを、整えるとか、スッキリさせる、描き切るとか、そういう言葉で表わします。でも別にそれは全員がやる必要はないと思っています。将来のビジョンが鮮明でないと頑張りずらい性格の人は世の中にいる。結局ビジョンを持った経営者が人気な理由は、みんなモヤモヤしていて、誰かのストーリーに乗っかりたいということ。ソフトバンクの孫さんのように、未来からタイムマシーンに乗ってきて、過去のように未来を語れるとかがいい例」
訪れた学生や社会人に、具体的にどのようなコーチングをしているのか。
熊谷「“講義”と“面談”に分かれていて、講義はグループワークみたいなものです。ホワイトボードを使って、グループコーチングをします。グループで自己分析をしたり、そもそも一番大事にしている価値観はなんだろうと僕らがグイグイと聞いていくんです。何かにモヤモヤするんですよねと相手が言ったら、じゃあそれはどんな風にモヤモヤするんですか、具体的にどういうことですか。何が満たされたらそれって晴れるんですかと、人の心の中に入って行きます」
藤本「熱量というのは、僕らの中ですごい大事なところ。仕事をしている時は、突然松岡修造のようになります。(笑)」

館長の熊谷さんは、元リクルート、トップ営業マンになるという目標をクリアできたタイミングで、我究館の社会人スクールに通い始める。敬愛してやまなかった我究館創業者の杉村さんから声がかかり、杉村さんの余命が短いという事実もあり、悩み抜いたあげく我究館で働くという決断に至った。今までの11年間で、約3,000人のキャリアデザインを共に考え抜いた。その蓄積されたありとあらゆる情報から、今の日本の企業をどう捉え、どのようなアクションをしていきたいのか。
熊谷「夢を語れる管理職を増やしたい。昔から我究館のことを知っている人は知っているので、我究館の研修を管理職に受けさせたら、夢を描いて逆に会社を辞めてしまうのではないかと思われがちだったんです。でも、この数年で、夢を語れる人材の育成に力を貸してほしいという声を、企業側からもらうことが多くなりました。その背景で起こっていることとして、日本の企業って爆発的に成長しているところは少なく、昔は一生懸命仕事をしたら出世して昇給、昇格が当たり前だったけど、それが全然成立しなくなってしまっている。なので、個人でもビジョンや夢を語れる管理職を増やさないと、熱意を持って入ってきたはずの新入社員が『10年後魅力のないビジネスマンになりたくない』と思って辞めていく。そんな負のスパイラルをなくしたいと思っています」
熊谷「その兆しは、今まで社会人の受講生たち約3,000人の蓄積された情報からいろいろな仮説を立てて感じています。他とは入ってくる情報の質が全然違う。パーソナルなところで言うと、家族構成とか、コンプレックスとか、いいところ悪いところ全部ひっくるめて、人の心に入り込むから。今どこで何をしていて、その会社の中でどんな課題があって、何に苦しんでいるのかということをミクロとマクロの両方で情報を得られる仕組みの中に僕らはいます。オールドエリートの人々は、古い価値観の中で自分を殺さなければいけなくなかったり、会社と合わないとわかっていながらも他の生き方を知らないゆえに、苦しんでいる人が多いと思います。『違うな』という感覚を大切に、自分を変化させていきたい人は、自分の中にある価値観をアップデートさせて、ニューエリート的な生き方を模索してみてほしいと考えています」

皆さんにとって働くとは何か。
藤本「生きることかな。ワークアズライフと言われていますが、僕はまさにそうだと思います。仕事をするということと生活するということの垣根がほぼない。ワーカーホリックなんですね、確実に(笑)。いいかどうかの問題は確かにありますけれど、僕の人生的にはそれでいい、楽しいので。境目がなくて嫌だというのはないですね」
田中「確かに境目が私も全くないです。前の会社にいた頃は違ったと思うんですけれども、なくなってしまいました。いいリーダーがいるからですね(笑)」
熊谷「実は働いているという実感があまりないです。『働く』を定義できるほど、働いているという感覚は全くない。昨日は就活を終えた学生のメンターチームと飲んだり、『我究館で働く』ということは、『出会うこと』と思っています。僕らはいろいろな人の人生と出会い、我究館を卒業してからもずっと付き合いがある人もいる。最高ですよね、仕事をしているだけでどんどん素敵な出会いがある。こんな楽しいことなくないですよね。この事業部隊は、最強にして最高」
仕事をする上で大切にしていることは。
熊谷「話していることと自分の生き方が一致していることです。「こんな仕事を辞めてやる!」と言いながら、講演では「夢っていいですよね」と言っていたら、なんだそれってなりますよね。そうしたら、あっという間に僕は喋れなくなります(笑)。僕らは、本当は思ってもいないことを、表では綺麗に取り繕って話せるタイプではないです」
キャリアコンサルタントという名前を耳にする前から、我究館は28年間もキャリアデザインスクールという名を冠し、その中で熊谷さんたちはキャリアデザインのコーチングを行うコーチとして位置付けられる。時代や経済状況、社会の変化とともに、今まではキャリアコンサルタントという個人に対してニーズがあったものが、今は企業や組織にもニーズが増えてきているそうだ。
熊谷「今のサポートあるいはサービスみたいなものを継続しながら、持続可能な成長を期待しています。あまり急拡大は好きではなくて、仲間を増やすことや受講生を増やすことも雑にならないスピードで成長していきたいと思っています。今、キャリアコンサルタントという資格が国家資格になり、2024年までにその資格を持っている人たちを10万人まで生み出すという厚生労働省の方針があるんです。人生100年時代とか、夢を描けないとか、どうやって生きっていったら良いのか、わからない人たちがとても増えているので、その相談に乗れる人を10万人作ろうという国を挙げての戦略。だから僕らにできることは増えてきているし、僕らが営業をかけてコミュニケーションを取らなくても、向こう側から僕らに声をかけてくるようになりました。これからもニーズは高まっていくんだろうなと強く思っていて、そのニーズに対して僕らが持っているリソースで最大限貢献しながら、その対象となる方の人数さえ少なかったとしても、インパクトは大きく与えていきたいと思っています。そういう存在になっていくというのが目下の挑戦ですね」

最後に、みどり荘とは?
藤本「僕にとってみどり荘とは、学びや気づきをもらえる居心地いい場」
熊谷「変わった人が多いですよね。そこがいいです。普段、いわゆる“オールドエリート”ばかりと接していると、ここにいる方たちは“ニューエリート”って感じがする」
田中「『働く場』としては、いろいろな価値観をアップデートしてくれる場なんですけれども、個人的に居心地の良さは、完全に『家』と思っています。柔らかく、ガチガチのルールがあるわけではなく、ちゃんと秩序が保たれていて。運営のみほさんやCO(Community Organizer)の方々がいるからこの場があるんだなと。そう考えると、この空気作りがすごいことだなと感じています」
Gakyukan
Career Design School
1992年創業。日本初のキャリアデザインスクール「我究館」。夢やキャリアデザインの描き方の指導と、その実現に向けたコーチングを行っている。現在までに9200人が受講し、卒業生は各分野で活躍を遂げている。
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