INTERVIEW We Work Here case#15 “ 「仕事とは何か?」とあまり真面目に考えないほうが良いのでは、というのが僕の中の結論です。”

自分が一体何者なのか。社会における自分自身の役割を職種や肩書きとして名付けられると、不思議とこの社会のどこかに位置づけられているという安心感が芽生える。一方でその名を持つことに気にも留めず、自分自身の好きなことに向き合っていった結果、肩書きに縛られずに仕事をしている人もいる。それが社会においては何者かと一言で表せないにせよ、これからの働き方はマルチに仕事をしていくことが当たり前になっていくのだろう。
クリエイティブディレクション、UI/UXデザイン、エンジニアリング、コピーライティング、ブランディング。彼の仕事の幅広さを聞けば、たちまち彼は一体何者なのかという一つの疑問が浮かび上がる。それと同時に好奇心がふつふつと湧く。ユーモア溢れるコミュニケーションの中に、彼の生きざまが垣間見え、何者かと定義づける必要はないと教えてもらっている気がする。なぜ彼がここまでマルチに仕事をするようになったのか。そして、彼自身の生きざまから見る仕事の在り方とは。永田町メンバー 中原寛法さんをインタビュー。
中原「nD では、最近は、僕のパートナーと “幸せの循環” をコンセプトに掲げた「満月のGHEE」というウェルネス・スタートアップをやっています。
インドに古来から伝わるギーという最上のオイルをアーユルヴェーダにもとづき、純国産・グラスフェッド・発酵にこだわって、放牧地の整備から取り組んでいます。
超少量生産の製品を、わたしたちの想いに共感してくださる方へ直接届け、双方に顔の見える関係と信頼をつくっていけたらと考えています。
最近で言うところの、D2C のようなモデルが近いかもしれません。」

また、別会社のAlternative Startupで、クリエイティブ領域の人へ、ファイナンスや事業開発の側面から支援する事業をしています。
中原「何をしていますかという質問に答えるのがとても苦手です(笑)。肩書きは一応『クリエイティブ・ディレクター』にしています。企業の新規事業開発やスタートアップのアドバイザリ、プロダクトやサービスのデザイン、インターネット周辺のデザインをやっています。」
地元岡山の高校を卒業し、千葉大学工学部画像工学科で海色リモートセンシングのリモートセンシングの研究、同大学院ではデザイン学科で心機一転ユニバーサル・デザインを学ぶ。20代を振り返ると、とにかくお金がなかったと語る中原さん。けれども、そうも悲観的な学生ではなかったようだ。
中原「大学はどうしても東京に行きたかったんですが、思いが強すぎて、東京を通り越して千葉の大学に行ってしまいました(笑)。20代は本当に仕事もお金もなく、時間はたっぷりあったので、ひたすらデザイン、コードを書き続け、もの作りをしていました。仕事はないけど、労働意欲のあるニート(Not in Employment, Education or Training)のような状態でしたね(笑)」
「当時は、これからフリーランスが増えていく時代だと俄かに言われていました。在学中は、就職活動は一度もしたことはなかったです。周りに演劇や音楽をやっているフリーの人が多くて、そういう人たちが別に就職しなくても楽しそうに生きていることを知っていたので、暮らしていけないこともないなと思っていました。なんとでもなると。仕事がなければ、日給1万円のバイトをすればいいと思っていた。いつでも電話ができるように某パン工場の派遣の電話番号を携帯に登録していました」

20代は、ひたすらいろんな仕事を請け負っていたものの、依頼された仕事ばかりをしていると、自分の中の「つくりたい」という気持ち、「つくる」楽しさがなくなる気配を感じ不安や恐怖心が芽生えてきたそうだ。そう感じ始めた中原さんは、思いついたアイデアのプロトタイプをひたすら作っては、付き合いのある会社の担当者や知り合いに見せていたそうだ。
中原「待っていても仕事はなかなかやってこないので、打ち合わせに行った際にお客さんに自分で作ったものを見せたりだとか、企業に企画書を持っていったりしていました。それをやっていなかったら、絶対に今の仕事に出会えていなかった。時間だけは死ぬほどあったので、ひたすらアイディアを考えて、デザインとコードを書いてました。お金がない中、自分で色々と作ろうとすると、色々なことをやらざるを得ない。ロゴを作らなきゃいけない、コードも書かなきゃいけない、コピーを考えなきゃいけない、プレゼンしなきゃいけない、あれもこれもと一人制作会社、代理店状態(笑)。自然とそういうところまで考えざるを得ないといけないので、色んなことが身に付いたんだと思います。ゼロイチを作るのは好きで、向いていると思っています。」
そうやってつくったアイディアを見せていた方の知人の広告代理店の方が、GoogleJapanの最初のキャンペーンで、Googleマップを使ったキャンペーンを企画をされていました。アイディアのひとつにGoogleマップを使っていたものがあり、それがそのキャンペーンの仕事につながりました。」

中原さんはゼロからモノを作りだすゼロイチを純粋に楽しんでいる。自分が面白いと思えることをし続けている中原さんにとって、働くとは何なのだろうか?
中原「難しいですね。僕は割とワーカホリックだと思う。真面目に話すと、『仕事とは何か?』とあまり真面目に考えすぎない方がいいというのが、僕の中の個人的な結論です。」
「イギリスのバンド、ピンク・フロイドの『Time』という曲があるんですけど、中学生の時に衝撃を受けました。僕がある日死んだら、やるべきことが書かれていた几帳面なノートが残るだけだっていう歌詞があるんです。仕事をするとやるべきことが出て来ますけど、結局死ぬ時にはやるべきことが書いてあるノートが残るだけ。結構皮肉だなって。あとは、みうらじゅんさんが言っているように、人生は暇つぶしなのかもしれない。個人的には、いろいろな理由を日によって使い分けるくらいのほうが、精神衛生上きつくない。真面目に働くとは何かと問い続けるのは、僕個人はあまり興味がない。日によって、今日はお金を稼ごう!とか。今日は自分の職能を社会に還元しよう!って」

いろいろな事業を手がけている中原さんだが、その中の一つに自身が代表取締役を務める株式会社nDのロゴがシンプルで印象的。どのような意味が込められているのか。
中原「社名を考えようと思って、いろんな字面のパターンを山ほど試して、一番しっくりきたのが、小文字のnと大文字のD (笑)。裏テーマでは「Nakahara Designかも!」って、相手が勝手に認識・理解したりしても、謎解き感があって面白いかなと。実は、そんなに意味はないです。先輩に領収書をもらうときに、長いのが大変だよと言われていたので、短くしたというのもあります。」
「nD の掲げている『Creative and Calm』というタグラインは、3年ほど前からなのですが、パワフルに仕事をするというよりは、穏やかに仕事できた方が僕自身はクリエイティブでいられるなと思ったからです。
仕事をする上で大切にしていることは?
中原「余白じゃないですか。きっちり計画通りにやろうと思いすぎないようにしています。絶対こういうデザイン、スケジュールでいくんだと意気込んでいても、うまくいくことはあまりない気がします。そういう意味では余裕をもったり、ミーティングも笑いながらするほうが、いいアイディアが出るような気もする。僕はなるべく積極的にギャグを言いうことを心掛けています(笑)。硬めなミーティングでも極力、笑ったり柔軟な頭でできたらと。」
「アイディアを考える時って、ベタなアイディアはすごく簡単に出るんです。『人を増やしましょう』『ウェブ広告を出しましょう』。それは当たり前なことで、言わなくてもいいじゃないですか。アイディアの地図のど真ん中ばかりをずっと探り続けるのはあまり可能性が広がらない気がする。それはあまり意味がないと思っています。一番外れのギリギリを狙っていったほうが、アイディアの地図が広がるんじゃないかなと。誰かが率先して言ってそういうことを言ったほうが、みんながでど真ん中を狙いあうよりも、他の人たちもちょっと違うことを言ってもいいのかなという雰囲気になる。結果、ウェブ広告を出すという答えになったとしてもそういうプロセスでやったほうが、アイディアが広がる気がします。なるべくアイディアの地図を拡げる『それはないでしょうー!』と笑われるようなアイディアも考えようとしています」

思いもよらないアイディアを追求しているからこそ、中原さんのアイディアは他とは一線を画しているのだろう。そして、常に新しいアイディアを求めている世の中だからこそ、中原さん自身のアイディアや、新しいモノを生み出そうとする彼の姿勢そのものが必要とされているはずだ。
中原「例えば、広告を出すとします。なぜ広告を出すのかというのを、一個ずつロジカルにレゴのブロックのように組み立てていき、ガコッと外すと少しおかしな形になる。そういうことを頭の中で普段からやっている気がします。ひょっとすると、大きな会社だと、直球の正解を言っている人が求められるのかもしれません。より精度よく真ん中に球を当てにいったほうが必要とされる気がします。ただ、僕はそうではなく、いかに変化球やフェイントを効かせて『え!?』と思ってもらうか。そうしない限り、結局僕にボールは来ない。僕が正論を投げても、大きな企業の正論の方が絶対に強いです。僕が言っている当たり前のことよりも、絶対にしっかりとした名刺を持っている人の正論が刺さる。そうなると僕がやるべきことって、そこではなくて『あれ?お!』と思うことをやったほうがいいんじゃないかなと思っています」

最後にみどり荘とは?
中原「すごく斬新なシェアオフィスだなと思っています。いろいろなシェアオフィスに打ち合わせに行ったりするんですけど、コミュニティ・マネージャーにいきなり「中原さーん!」と声をかけられたり、相談を求められることは他ではありえない(笑)。その良し悪しは人によるとは思います。でも、そういう雰囲気の中でこそ、化学変化は起きるのかもしれない。シェアオフィスなのか?もっと違う定義の場所なんじゃないか?超集中のためというより、面白い偶然か起こりそうな気がする場所(笑)」
「働き方を考えてもずっと集中していればいいという話でもない。ひたすら集中し続けることもない。多分使いようだと思うんですよね。基本は毎日やることを決めているんですけど、みどり荘に行く日はあまりやることを決めていない。何をもって生産性が上がるかは人によっても、状況によっても違う。一日集中力をあげて、生産性高くやってくださいというのは、無理だろうから」
Profile
株式会社 nD Founder / Creative Director
中原寛法 / Hironori Nakahara
1978 年岡山県生まれ。千葉大学大学院デザイン科学専攻でユニバーサル・デザインを研究。大学院修了の翌日の 2003 年 4 月 1 日 からフリーランスとして活動後、2009 年に株式会社 nD を設立。インターネットに関わるデザイン、エンジニアリング、ディレクションを手がける。主なクライアントワークに、Google「未来を選ぼう 衆院選 2009」、au「 RUN&WALK」、大塚製薬「オロナイン」、ソーシャルデザインを掲げるメディア「greenz.jp」など。また、ソーシャルギフトのスタートアップ「giftee」の創業や、スタートアップ企業数社のデザインアドバイザリー、 企業の新規事業開発のアドバイザリーも務める。株式会社 nD 代表取締役、株式会社 Alternative Startup 取締役、株式会社 giftee 共同創業者。
MIDORI.so Newsletter: