INTERVIEW We Work Here case#14 “自分という才能を使い切って、死ぬまで引退はない

Topic: InterviewWritten by Yuko NakayamaAt MIDORI.so Nakameguro
2019/7/8
Kohei Kyomori

なにものにも邪魔されず、自分の内なるものを表現し、時代を超えて生きた証を残したい。しかしながら、世間を渡り歩いている中、自分の行く手を阻むものを知らず知らずのうちに、自らが作り出してしまうこともあるだろう。一体どうしたらその壁を乗り越え、純粋に自らが表現したいと思えるものを表現することができるのか。アートディレクターとしてデザインの仕事をする傍ら、アーティストとしての活動を前に前にと進めている中目黒メンバーの京森康平さん。彼の奥底に秘めいている絵を描くという行為を突き動かすものを、一度は彼の言葉で聞いてみたかった。中目黒メンバー現代装飾家の京森康平さんをインタビュー。

text / photo: Yuko Nakayama

06/21/2019


京森「現代アートの中の位置付けとして、装飾性をテーマに作品を制作しているので、『現代装飾家』と名乗って活動しています」

Artwork1
Artwork2

作品は色鮮やかな色彩感覚ときめ細かやな装飾柄で構成されている。絵の中のあらゆる場所に目を向ければ、何度見ても飽きないほど、様々な装飾柄が施されている。

京森「密度の高いものが感覚的に好きです。イタリアに留学したときに、建築物や鉄格子、タイルなどの装飾物に魅了されました。自然の物をそのまま絵として形にしているのではなく、人工的にデザインされているものが装飾だと思います。装飾性というものが、世界中のどの国やどの地域にも歴史上の文脈として残っている。それぞれの国で独自に作られたものだったり、国同士の貿易によって繋がったり、国が分断されたりして、それぞれが持つ装飾という美学や美術品が進化を遂げながら形作られてきている。色々な共通点がそれぞれの国や違った場所で生まれ、そういうものを掛け合わせていくことで見えてくる、我々人類は先祖では繋がっているということ。共通の美しいものに対する感覚や感性みたいなものが同じということ。そういうルーツを知ることで偏見や差別をなくせるんじゃないかという想いが、僕の描く装飾の絵柄には込められています」

「作品ごとのテーマ設定はしっかりと考え込むんですが、装飾の柄やモチーフに関しては色々なところから集めてきたものを、自分の中で落としこんで組み合わせます。感覚的に合いそうだなとか気持ちいいなというところを探っていきます。デジタルで作成したものを、キャンバスにプリントして岩絵具やUVレジンで上から塗り重ね、厚みや立体感を出して制作します。デジタルツールを使用する事で、シャープな線や細かなディティール、色の組み合わせを何度でも、納得がいくまでシミュレーションできる事で完成度をあげていると思っています」

Process

高校卒業後、地元愛媛から上京し、職業能力開発総合大学校 ・産業デザイン科にて、グラフィックやプロダクトデザインを学ぶ。

京森「そんなに明確な行動力と思想を若い頃は持っていなかったですね。CDとか日常的に目に触れるものを見ている中で、グラフィックデザインというものはかっこいいというイメージを持っていた。アートで食べていくイメージが湧かなかったし、当時は美大の勉強をしてまで美大に入るってことが選択肢になかった」

「東京に出てきて、ファッションというお洒落なものに感化されました。職業学校は、厚生労働省が管轄していて、就職させるための学校という考え方がメイン。みんな就職をしていくんですけど、2年間デザインの勉強をして会社に就職するという事が自分には考えられず、ファッションを本気で学びたいと思いました」

東京のファッションに感化された京森さんは、就職はせずに文化服装学科に入学。そして、成績優秀で神戸ファッションコンテストで賞を取り、イタリアミラノに留学。イタリアのマランゴーニ学院にて1年間マスターコースに通い、もう1年は学校の提携先の企業にファッションデザイナーとしてインターンする。

京森「自分が服を着るのも好きだし、自分のアイディア、感性を形に表現できる仕事、服を作って売るというシンプルな構造は自分が独立してすぐに売り出せるというイメージが湧いた」

「日本のファッションは若い人たちがお金がなくても、好きという気持ちがあれば好きな服を買い、楽しめる。ところが、イタリアでファッションを勉強した時に、お金持ちの人しかファッションを楽しまないラグジュアリー文化だなと感じた。いわゆるファッションの本国と言われるファッションの世界の金持ち文化に辟易した。なんか合わないなって。戻ってきてから、自分がやりたいファッションのジャンルがわからなくなってしまった」

帰国後、アート色の強いファッションブランドFUGAHUMの三嶋章義さんの元で働く。現代美術とアートディレクション、グラフィックデザインやファッションブランドのディレクションなど、全てを手がけている三嶋さんに憧れ、弟子入りしたという。そして、3年の時を経て、フリーランスとして独立。CAPTAIN UTOPIAを立ち上げ、アートディレクションやデザイン業務に勤しむ。

京森「みどり荘に入る時に、CAPTAIN UTOPIAの立ち上げとアート活動を大々的に始めました。アートは自分の個人名義で、デザインの仕事はCAPTAIN UTOPIA名義で活動しています。UTOPIAとは「理想郷」。理想的な世界や思想をデザインによって、先導していきたいという意味を込めています。またアート界で使われいてるユートピアという言葉が好きだったという理由もあります」

Kohei1

今までデザイナーとして生きてきた京森さんだが、彼の頭の中には、長い間アートで自分を表現していたいという気持ちがあったそうだ。

京森「『アートはお金を稼げない』は言い訳で、表現したいことを表現する勇気がなかった。考えすぎてしまっていました。デザインを仕事にしながら、自分で場所を借りて作品を発表することに『それって何かなるの?』という壁を長い間越えられなかった。

美大を出ているわけでもなく、絵をひたすら描いてきているわけでもなかったので、自信を持てずに悶々とした日々を長い間過ごしていました。」

「色々と考えた結果、コンテストだったら評価軸があるから、評価される場所に自分のアート作品を出せば、きっかけが掴めるかもと思いました。アート活動を始めたきっかけがスパイラルのコンペ、SICF(スパイラルインディペンデントアワード)だった。出すとやっぱり変わりますよね。最初の壁が一番高くて、それを乗り越えれば、あとは周りからの評価がついてくるし、次なる挑戦のきっかけが掴めるので、前に前に進んでいけました。」

Kohei2

その根底にある絵を描きたい想いは何なのだろうか。

京森「どうして絵を描くかというと、なぜアーティストになったのかのきっかけもそうなんですけど、デザイナーとして活動していく中で、やっぱり世にあるデザインって、トレンドや流行があって、時代の流れとともに早い回転をしながら、消費され続けているものだと思います。消費のループの中に身を置くだけではなく、自分の生きたことを残したいんです」

「美術館に行って絵を見たときに、感動しますよね。それはアーティストが作品を作った当時の時代背景や、どういう考え方を持ってその作品を作ったのかなどを想像します。自分も同じように、自分の作ったもので、世代を超えた未来の人たちにも、感動を与えたり、時代の流れに思いを巡らせてもらいたい。時代を超えることは一番大事な点であり、存在証明です」

デザイナーをしている時とアーティストとして活動している時の違いはあるのだろうか。そして両者を両立させることは可能なのだろうか。

京森「クライアントワークにおいては、コミニケーションを大切にしています。デザインには明確な目的や使命があるので、それを達成するためにはどうするのかを考えます。また、チームワークも重要で、各業種のプロフェッショナルな方たちと、どうやってより良いものを生み出すか、それぞれの能力を引き出すための協調性や気遣い、下準備など、自分自身もプロフェッショナルであることをとても重要視します。その一方で、アートは何にも縛られず、自分自身との対話の中から生まれる。自己の解放となるので、思い切り表現を追求します」

作品を作る上で大切にしていることは?

京森「常に挑戦するということが大切だなと。同じところに留まらないことを大切にしたいと思っています。目標設定を圧倒的に高くして、超えられるかどうかの瀬戸際を楽しむ。次の六本木の個展でも、今までの4倍以上の大きな絵を描くんですけど、今までにない挑戦なので、正直足がすくみますがその先の成長した自分を見たいです」

Artwork3

9.17-9.28 個展「あはれび」六本木の Hideharu Fukusaku Galleryにて開催される

京森さんにとって働くとは?

京森「自分が働いていると思っていないので、難しい質問ですね。自分が生きた証を残すための活動。自分が生きた存在を作品として残し、それを未来に繋げること。僕は生涯現役でいいと思っていて、自分という才能を使い切って、死ぬまで引退はない。死ぬ時まで絵を描いていたいと思っています」

「ワークライフバランスという言葉がありますよね。仕事と生活のバランスを取りましょうって。いろんな意味の捉え方があると思いますが、僕は生活と仕事が分かれていない方がいいと思う。僕には家族もいるし、子供もいる。何時までに仕事を上がって、子供たちと時間を過ごすというのって世間的にありますよね。でもそこではなくて、やりたいことをして生き生きしている大人、親を見せることが、子供にとっての一番いい親の姿勢とか教育かなと思っています」

Nakame members1
Nakame members2

最後に、みどり荘とは?

京森「個々を尊重して、人と人の調和が取れた空間。刺激の場であり、癒しの場です。人がいるっていいですよね。アーティストは内に内に入ってしまうので、トントンと話しかけてくれると、いい意味でリフレッシュします」


京森康平

Kohei Kyomori

1985年 愛媛県生まれ。

2008年 ISTITUTO MARANGONI fashion master course 卒業

ヨーロッパでの海外留学の際、密度のある装飾美術に感銘を受け、作品の制作を始める。 歴史やルーツを紐解くことで見えてくる、国境や民族間を越えた文化の響き合いを現代の装飾絵画として描き出す。

個展

2017年「enso flowersMIDORI.so2 Gallery

2019年「A-UNTHE MICRO MUSEUM

主なグループ展

2017 Spiral Independent Creators Festival 18

2018年 「fragment2018GALLERY ART POINT

2019年 「NAU21世紀美術連立展」 国立新美術館

2019 Spiral Independent Creators Festival 20

2019 IAG AWARDS 2019

受賞・入選歴

2018 7FEI PRINT AWARD 大賞

2019 Spiral Independent Creators Festival 20 準グランプリ受賞

2019 IAG AWARDS 2019 IAG / シアターアートショップ賞 受賞

web : https://www.kohei-kyomori.com/

instagram : https://www.instagram.com/koheikyomori/?hl=ja

twitter : https://twitter.com/KoheiKyomori

MIDORI.so Newsletter: