INTERVIEW We Work Here case#36 「食を通じた未来の種まき」

Topic: InterviewWritten by MIRAI INSTITUTE
2021/9/25
Miyuki Endo

MIDORI.soで開催しているコミュニティランチ会のケータリングを担当する1人、遠藤みゆきさんは料理教室M’s Cookeryを主宰し、Marianという屋号で無農薬フルーツジャムの製造とECでの販売、さらにはお惣菜の卸もしている。自分たちが何を口にし、それがどう体に影響するのかについて遠藤さんは日々考え、彼女の料理には誰かの刺激となり得るであろうエッセンスが散りばめられている。彼女が食の世界に目覚め、自分のスタイルを確立していったストーリー、そして働くことの意味について、インタビューをした。


家族に自信を持って食べさせたいもの、つまり美味しくて安心して食べさせられるものを、提供することが食に対する大前提です。言い古されている言葉かもしれませんが、医食同源という言葉の通り、食べたものが自分の体を作るということをもっと色々な人々に気づいて欲しいという思いがあります。

料理教室では、料理のレシピを教えるだけではなく、食の大切さや面白さを伝えていくことこそが私の仕事であり、役目だと思っています。育った環境や経験が、その先の人の人生を作ると考えがあるからこそ、料理教室の生徒の方々のその先にいる子供たちにも、何か影響を与えることができたら良いなと思いながらやっています。「こういう野菜もあるんだ」「こんな鶏を飼育している人がいるんだ」「どうしてこのお弁当はこんなに安いんだろう」「お惣菜屋の野菜はどうしてずっとパリパリしているんだろう」など、食を通じて世の中に対する発見や疑問を持つきっかけを与えられたら嬉しい限りです。

Miyuki1

それにやっぱり人生にワクワクは不可欠だと思っているので、ワクワクを感じてもらえるような料理を作ろうと思ってやっています。。最近は週に1度、白金のエスコミートというとてもこだわりのあるお肉屋さんにお惣菜を卸しているのですが、品数が多くて大変そうと友人から言われることもあります。ですが、いざ自分がお店に入った時のことを想像すると、ショーケースに数品しか並んでいなかったらガッカリしてしまうと思うんですよね。どれにしようかなというワクワク感を大切にしたいんです。また、私が娘のお弁当を作っていた頃は、マイルールを設けていました。それはお弁当を作っているときは絶対にキッチンを覗てはいけないこと。「今日の弁当は何かな」とワクワクしながら、お弁当を食べるときの楽しみを味わって欲しいから、あえてそのような決まりを設けてみたんですよね。今でもその気持ちは変わらず、食べることはエンターテイメント。食の記憶はその人の人生を豊かにしてくれる、という実体験があるからこそワクワクを大事にしているのかもしれません。

Lunch food image

13食のご飯にだってガッカリしたくないと話すほど、食べることも大好きな遠藤さん。彼女の食に対する目覚めは中学生の頃に近所のアメリカ人Marianによってもたらされた。

両親は共働きで、特に母は週末も働くほど忙しい人だったので私はいつも鍵っ子でした。そんな中学生の頃に、近所の外国人向けのマンションに住んでいたアメリカ人Marianとの出会いがまさしく私の食の原点となりました。Marianは日本語があまり分からない一方で、私は英語が習いたてで使いたくて仕方のない年頃。次第に学校終わりに彼女のお家に遊びに行くようになり、キッチンを覗けばアメリカ仕様の大きなウォールオーブンや冷蔵庫があり、当時の私からしてみたら全てが驚きと興奮で、行ったこともないアメリカに惹かれました。そして極め付けはMarianお手製のアップルパイ。今思えば大味だったかもしれませんが、私の中で美味しいアップルパイと言えば今でもMarianのアップルパイなんですよね。それから食に興味ち始め、食器やテーブルコーディネートなど含めてトータルで食空間を提供していく仕事をしていきたいと思うようになりました。大学4年の頃にテーブルコーディネーターの木村ふみさんに師事し、テーブルコーディネートの基礎を学んでいきました。

大学卒業後は、就職はせずに食の勉強のために留学の道を考えたものの、当時の現地の治安を考えて断念。料理研究家のアシスタントとして食の仕事を始めるようになるが、子育てを機に食の素材自体に関心が高まっていく。

料理研究家の先生の元で数年間働いた後、結婚をして子供を産んでからは、なかなか出産前と同じようなパフォーマンスができないことを思い知り、子育てに専念することにしました。ふと自分の食べたものが母乳となり、子供の体を作っていくことに気づいてから、自分が普段口にしているものにとても興味が湧きました。段々とナチュラルフードやマクロビオティックなど、食の素材について知りたいと思うようになり、美味しいものばかり追求していたた日々から、今度は食べ物の素材自体の探求をし始めるようになりました。

自然食レストランが主催してた食の講座で生徒として学んでいくうちに、講師の勧めで講師をすることとなり、同時に自宅で素材にこだわった料理教室M’s Cookeryをスタートさせ、気づいたらまた料理の仕事をしていました。MIDORI.soとの出会いは、当時講座の生徒だった珈琲小学校というコーヒー屋の吉田先生*からランチ会のケータリングの話をもらったことがきっかけです。、初めてのケータリングで、自分の料理を食べた人から直接「美味しかった」などと反応をもらえることに面白さを感じました。ちょうど、自分の料理を「美味しい」と言ってくれる父が亡くなり娘も大きくなって、一緒に食卓を囲むことが減ってくる中、このままでは料理に対するモチベーションが減ってしまうことが目に見えていた時期でもあったので、誰かに自分の料理を食べてもらいながら食の大切さを伝えていこうと思うきっかけになりました。

*MIDORI.soで毎週バリスタとしてコーヒーをを淹れてくれる私立珈琲小学校の吉田亘さん

https://www.instagram.com/coffeeelementaryschool/?hl=ja

Cooking_moment

食べることが好き好きで料理好きのみゆきさんにとって思い出深い土地、それはアメリカカリフォルニア州 バークレーにあるシェ・パニーズというお店だ。2012年に娘さんと旅行で初めて訪れて以来、その店に魅せられたみゆきさんは、シェ・パニーズで働くことを夢見るようになる。

ロスに戻ったMarianに会いに行った帰りに、バークレーに寄ってシェ・パニーズで食べて帰るというのが私と娘のお決まりのコースでした。初めてシェ・パニーズを訪れた時は、自分の直感が「ここだ」と言っていましたね。とにかくキッチン含めてお店の雰囲気然り、食べた料理と空間が素晴らしくて、絶対にここのキッチンで働いてみたいと強く思いました。サービスの人に「ここで働かせてくれないか」と直談判したり、ジェネラルマネージャーにメールを送ったりしましたがなかなか相手にされませんでした。しかし、シェ・パニーズでインターンの経験がある人と出会えたことで、事がスムーズに進みました。当時の政治情勢上、3ヶ月の観光ビザでしかインターンができない状況でしたが、高校生だった娘にも応援してもらい、2019年についに長年夢描いていた職場で働くことができました。

当たり前のことですが、お店はそこで働く人々によって良くも悪くもなりえます。もちろんオーナーのアリス・ウォーターの魅力によって人々がシェ・パニーズに来るということもあると思いますが、シェ・パニーズで働く人々が自分たちのやっていることに誇りを持っているからこそ、良いものが創られ、良い循環が空間に流れ、訪れる人々を自然と魅了させていくんだと実感しました。シェ・パニーズまではいかないにせよ、自分も同じように良い気が流れる食空間をこれからも創造していきたいと強く思います。

今はまだ漠然とですが、自分が生まれ育った街に貢献できるコミュニティ作りとして、空き地を借りて半分は畑にして、半分は採れた野菜が食べられるカフェスペースにして、子供や老人など年齢問わない人々が「おはよう、元気?」と挨拶を交わすことができる居場所を作れたらいいなと思っています。それは誰に言わせても、商売ではなくボランティアであると言われてしまうので、柱となる収入源があってこそできることなのかもしれませんね。そういう活動を将来的にできたらいいなと頭の片隅に思いながら、これからも食の大切さを色々な角度から伝えていけたらいいなと思っています。

自分のやってみたいことを、実直に叶えてきたみゆきさんにとって働くとは

今自分に与えられていることをやっていれば、きっと次に進む道が与えられると信じているので、自分がやってみたいと思ったことはとりあえず何でもやってみるようにしています。そうすると、また次に道が与えられる。おそらくその積み重ねが人生なんだと思います。だから「働く」とは、次の道を与えられるための過程なのかもしれないですね。

実際のところ、自分がこうしたいと思っていても、今の自分に適していないときはそういうチャンスは来ないとも思っています。だけど、私がシェ・パニーズで働きたいと強く思ったように、ぼんやりとでも良いから思っていれば、いつか実現できる時がくるはずだと信じています。その間はチャンスを与えられるまでの、準備期間に過ぎない。今やっていることは、この先の5年後10年後の自分のためにやっていると思って、没頭しエネルギーを注いでいます。

Community lunch scene

最後に、MIDORI.soとは。

ケータリングの原点であり、ホッとできる場所であり、私はみんなのお母さんになった気分で「ほらご飯できたよー」と料理を作っています。知っている顔が自分の料理を食べに来てくれて、リアクションをダイレクトに返してもらえることも嬉しいです。MIDORI.soにいると、自分には理解ができないような仕事をしている人が世の中にいっぱいいるんだなと、刺激をたくさんもらっています。


遠藤みゆき|Miyuki Endo

Food Creator

大学在学中テーブルトップコーディネーションを学び、後に料理家・空閑晴美氏のアシスタントを勤める。その後マクロビオティック及びナチュラルフードを学び、講師を勤める。発酵食や素材にフォーカスした料理教室 'M's Cookery' を主宰する。また、都内のオーガニックレストラン勤務を経てアメリカ、バークレーにあるシェ・パニーズにてインターン。

https://www.marian-tokyo.com/

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