INTERVIEW We Work Here case#34 「誇らしく、胸を張って、世の中と未来に伝えていく」

Topic: InterviewWritten by Yuko Nakayama, Miho Koshiba, At MIDORI.so Nakameguro
2021/6/15
Kohei Okura

MIDORI.soメンバーの大倉皓平さんは、PR Directorとして日本橋兜町にあるK5や広島県瀬戸田にあるAzumi Setodaなど宿泊施設や、その周辺エリアの街の魅力を世の中に届ける広報PRを生業にする一方で、オリジナルブランドとしてジンジャーシロップの企画・販売もしている。コミュニケーションを軸に生きる大倉さんがなぜジンジャーシロップを作ることになったのか。また、大倉さんがこれから世の中に伝えていきたいモノ、コトとは何か。大倉さんの人生を紐解きながら、「働く」についてインタビューした。

Interview / Text / Photo Yuko Nakayama

Edit Miho Koshiba

2021.06.15


KIIIRO Inc.PR Director / CEOとして、宿泊施設などの「点」とその周辺地域の「面」、両方を意識したコミュニケーション(情報発信)の設計をしています。事例としては20202月にオープンした日本橋兜町にある「K5」と近年再活性化が進む兜町全体のPRを担当しています。それに付随して、メディアサーフコミュニケーションズが企画する兜町のウェブマガジンKontextの編集担当として、街の魅力を発信しています。同様に、今春話題となった広島県瀬戸田の新しい旅館「Azumi Setoda」と、周辺地域にある「しおまち商店街」のPRにも関わってきました。また青山ファーマーズマーケットには、イベント企画や企業のプロモーション案件にも携わっています。。その他、自社製品として企画・販売しているジンジャーシロップブランド「peligro」は、この度615日にローンチしました。

K5
K5

横浜育ちの大倉さんは、高校生時代にアルバイトしていた現パンパシフィックホテル横浜のロビーの空間に圧倒された。その体験から建築というジャンルに興味を持ち、大学は建築学部を専攻した。

建築家を目指して、大学在学中にインテリアデザイン事務所でインターンシップをしていました。周りのデザイナーの方々と接していくうちに、彼らのセンスの良さや1つのことを突き詰めていく姿勢から、果たして自分はそのようなスタイルで働くことができるのか、と一種の疑問を感じました。元々はホテルのロビーの空間に影響を受けて建築を学び始めた背景があるので、別の切り口で空間を通して社会や人とデザインを結びつける仕事ができないだろうかと自分の将来と照らし合わせながら考えを巡らせました。考えていく中で、0から1を生み出すデザイナーやクリエイターではなく、その1をどのように広めていくかという仕事にだんだんと興味が湧き、大学4年生の時に広告/PR代理店の道に舵を切りました。

就職した広告/PR代理店は、なかなかハードな環境でしたが社員同士の仲がとても良く、アットホームな会社でした。営業としてホテル、車、教育、食品などさまざまなジャンルのクライアントに企画書を書き、クライアントとコミュニケーションを取りながら、広報PRの経験を積んでいきました。「どうすれば自分たちが関わっている商品やサービスが世の中に伝わっていくのか」ということを考えて、より相手に届きやすくするためのコンセプトやキャッチフレーズなどの言葉を作っていくことが好きでした。クリエイションによって生み出されたゼロイチが、戦略の立て方やPRの仕方次第では届くべき人に届かないことも考えられます。見方によっては、その広げ方もある意味で0から1であり、その1になるまでの過程から関わることができるのが、PRの楽しさだと知ることができました。

5年間勤めた会社を退職し、バックパッカーになる道を選んだ大倉さん。30歳手前にして世界を見ようと決めた大倉さんの決断は、企業で働く周囲の人からしてみれば大胆不敵だったはず。カナダから始まった旅は、メキシコ、ベリーズと南下していき、スペイン語習得のためにグアテマラに辿り着いた。語学学校の数が豊富で、年中欧米人が遊びに来るような街、アンティグア・グアテマラの語学学校に通い始めた大倉さんは、ふとした出会いをきっかけに6年間グアテマラに根を張る。

当初は2ヶ月間スペイン語を学んだ後は、他の国に旅する予定でした。しかし、アンディグア・グアテマラの街を歩いていたら、ふと貸しに出ている素敵なアンティークの一軒家を見つけてしまったんです。勢いと好奇心も相まってゲストハウス「Casa Menta Antigua」を始めることとなり、現地でスタッフを採用。世の中でairbnbが軌道に乗り始めていたこともあり、1年中欧米の旅行者を中心に賑わいを見せていました。ゲストハウスの運営が落ち着いてきた頃にまたしてもいい物件を見つけ、今度は妻の意向もあって日本人が家で食べるような家庭料理を提供するレストラン「Origami Organic & Oriental」を始めました。現在自社製品として販売しているジンジャーシロップのレシピは、実はそのレストランで提供するドリンクを考えた際に生まれたものです。グアテマラでは生姜と言えば、体調が悪い時に輪切りにしてお湯に煎じて飲む程度のもので、アジア圏内のように料理に使われてなかった生姜に前々から可能性を感じました。試しに自家製のジンジャーシロップで作ったジンジャーエールをお店で提供してみたら現地の人からも好評で、それから現地のオーガニックファームの有機生姜を使ったジンジャーシロップを商品として売り始めました。

縁もゆかりもなかった土地でゲストハウスやレストランの運営、ジンジャーシロップの製造から販売など今までやったことがなかったことにチャレンジできたことは、発展途上国で生きていくバイタリティが身についたことはもちろん、経営することの自信にも繋がりました。しかし、グアテマラに住み始めて5年が過ぎた頃から、今度は先進国で新しいビジネスにチャレンジしたいと思うようになっていきました。そして、グアテマラに拠点を残しつつも、ニューヨーク、パリ、ハンブルク、東京と各地に1ヶ月ほど滞在しながら、次なる住む場所を探し始めました。どの街も素晴らしかったですが、1番新しい風が吹いていると感じたのが東京でした。秩序や治安、インフラがとてもしっかりしていて、なおかつ文化的にも先端をいくことができる都市は東京しかないと。意を決して2017年の暮れに東京に戻って来ました。

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6年住んだグアテマラから故郷日本に戻ってきた大倉さんは、ジンジャーシロップの企画・販売の会社GINGER&COMPANYを立ち上げ、青山ファーマーズマーケットなどでジンジャーシロップを販売し始める。その繋がりからファーマーズマーケットの企業プロモーションを手伝い、またイベント運営などでメディアサーフコミュニケーションズとも関わり始め、2019年秋から、日本橋兜町のK5PRディレクターを務めることになる。

K5PRディレクターを務め始めてから、徐々にPRの仕事の比重が大きくなっていきました。その傍らで、引き続きファーマーズマーケットでジンジャーシロップを販売していたんですが、自分が生産販売するジンジャーシロップにどこか自信がありませんでした。高知県のオーガニックファームの生姜やスパイス名人朝岡さんのスパイス、沖縄のきび粗糖など11つ素材にこだわって作っているので、味には自信はあるもののコンセプトやブランディング、デザインなどの視点で見ると、商品としてまだまだ表現しきれていない部分があると感じていました。その心残りからいつかはジンジャーシロップを見つめ直してみたいと思っていました。そしてMIDORI.soで働きながら日々メンバーとコミュニケーションをしていくうちに、クリエイティブ関連の相談ができる人が少しずつ増えていたので、昨年の夏頃からPRの仕事をやりながら、水面下でMIDORI.soメンバーのディレクターやデザイナーの方々のと一緒にリブランディングのプロジェクトを始めていきました。

実はレシピや材料を変えていなくても、時期によってジンジャーシロップの濁り、辛味、みずみずしさ、にがさ、とろみ具合は異なります。その知見は、2年間ジンジャーシロップと向き合ってきた経験に基づくものです。その感覚をもとに、季節ごとの気候や空気の質感、旬の食材などの移り変わりを日々感じながら、ソフトドリンクもワインのようにその時々で味の変化を楽しむことができたらいいなと考えました。季節によって変わる本来の生姜の風味が反映されるジンジャーシロップであるということをコンセプトに落とし込んでいき、ジンジャーシロップの瓶選びやアートワークなどのデザインも時間をかけて一生懸命考え抜きました。商品名はスペイン語で危険という意味を持つ「peligro」。ジンジャーシロップそのものの味わいが変化し、かつそれが予期せぬものと混ざり合っていく危険性を孕んでいるということです。約9ヶ月かけて自分が自信を持って世の中に届けたいと思えるジンジャーシロップを完成させることができました。先日開催した先行販売のPOPUPでは、コーヒーとコラボレーションしたドリンクを提供しましたが、次回も意外性を狙って、例えば銭湯とコラボレーションして生姜の搾りかすを入れた生姜風呂を浸かってもらい、かつ湯上りはジンジャーコーヒー牛乳を飲んでもらうなど面白い取り組みをしていきたいですね。色々なジャンルの食材とコラボレーションする以外にも、アーティストと組んでpeligroをイメージしたサウンドトラックを作ることも想定しています。

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(c)Tomohiro Mazawa

時間をかけて完成したジンジャーシロップ「peligro」。ようやく胸を張って世の中に伝えていきたいと思えるジンジャーシロップを完成させた大倉さんが考える、働くとは。

大切なものを守り、それを子供たちや未来に受け継いでいくことが僕にとっての「働く」です。PRとして情報を世の中に届けている仕事をしている以上、自分が世の中のために良きものだと思えるものを発信し、それを人々の記憶に残していくために働きたいです。僕にとって良きものとは、日本や東京が世界に向けて、そして未来に向けて誇れる文化や場所を作っていくためのものかどうか。自分がPRとして関わらせてもらっているK5や兜町、瀬戸田の約140年前の邸宅を改装したAzumi Setodaも世界に誇れるものだと思っています。また、peligroというソフトドリンクを通して、季節によって食材の味が異なるのは当たり前であるという考え方や価値観を後世に残すことは僕にとって大切なことです。

peligroのリブランディングをきっかけに、今年の2月に新しくCreative/PRオフィス「KIIIRO(キーロ)」を立ち上げました。KIIIROの特徴は、Product DevelopmentBrandingPR Direction3つのフェーズを一貫してサービスとして提供することです。グアテマラから始まったジンジャーシロップのコンセプトを一から作り直し、ストーリーづくりとブランディング、PRまでをやり遂げたからこそ、その一貫生の重要性に気付くことができました。

10年ほど前に東京の広告代理店を辞め、世界に旅立ったことは自分の人生における楽しむ方向性をグイッと変えたターニングポイントだったと思います。その方向性を変えたことによって、温かな気候で陽気な人々が住むグアテマラで、ふとしたきっかけからジンジャーシロップを作り始めました。そして、こうして今自分が自信を持って世の中に届けたいと思えるジンジャーシロップを仲間と企画して自らPRしているという境遇が不思議に感じます。この経験を大切しながら、これからKIIIROでは企画、ブランディング、PRまで一貫性のあるサービスを提供していくことはもちろん、K5Azumi Setodaのように街の「点」と「面」を同時に考えていけるPRをしていきたいと思っています。

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最後にMIDORI.soとは。

みんなが腰を据えて、根を張り、自分の拠点となり得る根っこのような場所です。特に今回MIDORI.soメンバーと一緒にpeligroのリブランディングをしてから、その意識は強まりました。同時に自分が特化すべき仕事の方向性を掘り下げていける場所でもあると感じています。いろいろなジャンルの仕事を持つ感度の高い人たちの集合体であるMIDORI.soだからこそ、お互いの仕事に目を向け、自分自身の仕事のこともちゃんと見つめていくことができるんだと思います。


大倉 皓平 | KOHEI OKURA PR DIRECTOR / KIIIRO Inc. CEO

株式会社電通パブリックリレーションズにて、ホテルオークラ東京、ウェスティンホテル仙台、アコーディア・ゴルフ、HONDAKUMONなどを担当する。2011年に同社を退職し、世界をめぐる旅へ。 2012年より、中米グアテマラ共和国にてゲストハウス「Casa Menta Antigua」とオーガニックレストラン「Origami Antigua Guatemala」を立ち上げ、2017年まで運営。2018年、日本へ帰国し株式会社Ginger&Companyを設立、ジンジャーシロップ事業をスタートする。 その後広報PRの企画ディレクションに携わるようになり、20212月に"Creative / PR Office"として株式会社KIIIRO(キーロ)を設立する。

https://www.kiiiro.jp/

https://peligro.theshop.jp/

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