INTERVIEW case#41 We Collaborate Here 問いが生まれる「発見」を求めて

2022年8月3日(水)より8月15日(月)まで、MIDORI.so Bakutoyokoyama6FにてJAPAN PHOTO AWARDの出版レーベルINTUITIONが手がける『377975km2 Vol.2』の出版記念展を開催中。本展と同時に、MIDORI.so Bakutoyokoyama7Fにて、東京初の個展となる『Until the time to prepare own coffin』を開催する写真家・藤井智也さんに、ご自身の働き方やアーティスト活動への想いについてお話を伺いました。
[ Interview ]Masatoshi Sawa
[ Text ]Tamao Yamada
[ Photo ]Yui Saito & Shun Wakui
2022.08.10
僕は、一貫した技法や作風があるというより、毎回違うアプローチで制作することを考えています。都度発生するテーマや問題意識に対して、方法を変えて実験していくという感じです。例えば、初期の頃の作品は、今とは作風が全然違っていて、旅行中に撮った自然の写真やランドスケープといったストレートな写真がベースでした。写真を撮る時って、「こんな絵が欲しい」というイメージを最初から持つ人が多いと思うのですが、僕の場合は、例えば歩いていて「この感じで撮ったら一体どうなるんだろう」というような新しい発見を求めているような気がします。

ー 本展の作品を含め、最近はどのような方法で制作をしているのでしょうか?
これまでずっと旅をしてきたので、最初は旅行の中で撮るストレートな写真から始まりました。それらを組み合わせてシリーズ化したり、よりグラフィカルな写真を撮っていた時期もありましたが、だんだんと写真を撮影し編集するだけではつまらなく感じるようになっていき、メディアに対してのアプローチを変えていきました。結果、今は様々なデバイスやマテリアルを使って画像を作るイメージメイキングに移行して、カメラだけではないアプローチを実験していくという制作スタイルに繋がっています。
本展の作品は、「素材を作る」ということが大きなポイントで、写真とは別に支持体としての素材を製作しています。今回は、スタイロフォームという大きな発泡スチロールを削り、そこに石膏粘土、絵画用のジェッソを塗った後、立体物に印刷できるUVプリンターで写真を印刷するという流れで制作しています。素材を作ることで、絵画、彫刻的な凹凸やテクスチャが生まれるのですが、そこに写真を印刷すると、素材の形に合わせて写真も変容していきます。写真データという劣化しないデジタルイメージが素材(支持体)へと転化していくのです。
ー 「素材」に焦点を置き始めたのはなぜですか?
複製可能なデジタルデータとしてではなく、複製不可である素材に対してイメージを持っていくということをしたいと思っていたからです。通常データとしてのイメージもフラットなモニターやスクリーン、印画紙に印刷された写真として考えたとき、フラットな面に印刷されるという前提があるので、イメージが表示される素材自体が見られていないことに対して違和感がありました。また、デジタルデータはいくらでも印刷できてしまうように終わりがありません。デバイスとクラウド、そして電力があればずっと生き続けるデータはまるでヴァンパイアのようだと思ったんです。劣化しないという点はデジタルの良さでありますが、例えば絵画、彫刻、古い書物、石板などは劣化しうる複製不可なものとして存在していて、風化や劣化などの時間軸までがそこへと加わったりと、そういう意味で自己性やマテリアル性が強くあるように思います。現代の写真データをどのように絵画や彫刻のような「もの」として変換できるかということを考えて、素材にそのイメージを転換することを考えました。

ー コロナ禍において働き方や制作状況に変化などはありましたか?
僕は、地元の香川県高松市でゲストハウスをしているのですが、コロナ禍になってからは人がかなり減りました。ゲストハウスを始めた理由は色々ありますが、地元に帰る前はずっと旅をしていたことや、地元で瀬戸内芸術祭があり宿泊業に需要があったこと、それと、自分の制作に当てる時間を確保したいとずっと思っていたことなどが重なった結果です。ゲストハウスを始動して、兼業しながら制作を続けていましたが、その中でコロナが始まり、翻訳や英語のWeb記事など他の仕事もしていました。宿泊業の助成金なども利用できたので、ゲストハウスでの実務的な仕事は減っていましたが、コロナ1年目を経て少しづつ前向きな気持ちになることが出来て、精神的な面での心配はあまりなかったです。制作に関しても展示会の機会は減っていましたが、逆に制作に時間をかけられるぞという前向きな気持ちでしたね。
ー 藤井さんの制作への原動力はどこから来ているのでしょうか?
制作活動はお金にならないことも多いので、なぜ自分はこの活動を続けているんだろうと思うときも実際あるんですよ。苦しいなと思うけど、でも楽しさもあるし、いつの間にかやっている。何度も失敗して、またやり直してということを繰り返している途中で何かを発見する瞬間があります。その気づきや発見がモチベーションなのかもしれません。
「発見」とは、思考を巡らせて何かについて調べたり、理解しようとすることとも似ている気がしています。そこに違いがあるとすれば、答えというものを得ようとするというより、疑問や問い、その根源を作品へと転化していくことで、作品が自分とはどんどんかけ離れ、別のものとして存在し始めるということ。そこから予期しない感覚が生まれてくること、その道筋をつくることが自分の役割であると思っています。それに、僕が本格的に写真を始めたのは20代半ばなので、制作を始めてからはまだ10年ちょっとくらいなんです。制作意欲や熱は褪せることはまだないですね。
藤井智也 | Tomoya Fujii
Artist
1984年香川県生まれ。ヘリット・リートフェルト・アカデミー写真科中退。イメージ、物質、記憶との関係性を起点に、制作過程で様々なマテリアルを通過させることで、再構築を行い、写真を生成している。主な展示として「NEW VISIONS #03」(G/P gallery Shinonome)、眼閃もしくはその因子(Basement GINZA)、KYOTOGRAPHIE KG+ 2021 特別展「JAPAN PHOTO AWARD + INTUITION」、Syndicate 展(Syndicate)など。2021年より、香川県高松市にてギャラリーSyndicate を運営。
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