INTERVIEW We Work Here case#32 「意識拡張によって、人の心はより豊かになる」

Topic: InterviewWritten by Yuko Nakayama, Miho Koshiba, At MIDORI.so Nagatacho
2021/4/1
Naoki Ota

MIDORI.so永田町メンバーの太田直樹さんは、デジタルテクノロジーを活用して、地方をフィールドに企業、行政、大学などと未来の事業やサービスをプロトタイピングすることを企画運営するNew Storiesの代表を務めている。元々はグローバルな分野で情報通信技術の知識と経験を活かしてきた太田さんが、なぜ今日本の地方を舞台に働いているのか。今までの歩んできた道程から、太田さんの「働く」について聞いてみた。

Interview / Text / Photo Yuko Nakayama

Edit Miho Koshiba

2021.04.01


僕の仕事の軸は、大きく分けて2つあります。1つは情報通信関連のサービス、もう1つは総務大臣補佐官を務めていた頃のご縁もあり、企業や自治体と一緒になって地方創生を行なっていく仕事です。福島の会津若松ではスマートシティAiCT、兵庫県豊岡では豊岡スマートコミュニティ推進機構、島根県海士町から始まった地域・教育魅力化プラットフォームなど、現在20ほどのプロジェクトに関わっています。

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生まれは大阪、育ちは奈良。田舎から一刻も早く飛び出したかった太田さんは東京の大学で、広告や政治を通して人の心がどのように変わるのかというような大衆心理操作に興味を持ち心理学を専攻。大学を卒業した後の進路は、バブル期真っ只中の世間の流れとは真逆の小さなコンサルティング会社であった。

昔から集団行動が苦手で、学校の集会で「前に習え」をしたくないほど人と同じことをするのが嫌でした。そのような性格だったので、自分の進路を考えた際、決まった時間に出勤し、決まった席に座って仕事をする文化には耐えれないと思いました。時代はバブル真っ只中、文系はマスコミや広告系に、理系は金融系に就職する中、その波には乗らずに小さくて自由な風潮が漂う外資系コンサルティング会社に就職しました。

最初に関わったプロジェクトは米国最大手のAT&Tという通信会社とともに、日本の通信インフラを変えることでした。当時は通信回線が交換機で結ばれていたような、まだまだアナログな時代。デジタル技術を導入することで、世界中の人々とどこでも繋がれるインターネットの世界にとてもワクワクした覚えがあります。そのプロジェクトをきっかけに一気に情報通信の世界に引き込まれていき、情報通信技術を使ったプロジェクトに関わり続けました。

バブル崩壊後日本の成長に歪みが訪れ、経済の停滞を感じた太田さんは勤めていた会社を辞め、MBA取得のためロンドンに留学した。そこで出会った韓国、中国、台湾などアジア圏の同級生からのみなぎる勢いを感じ、自身のビジネスの領域をアジア経済へと向けた。帰国後はボストンコンサルティングに参加し、経営メンバーになってからはアジアのテクノロジーグループのヘッドを務めながら、2004年からは国際連合世界食糧計画(WFP)のプロジェクトにも関わり始める。

ひょんな事から15年ほど前に世界の飢餓撲滅をスローガンに掲げるWFPのプロジェクトに関わることになりました。今までビジネスの世界でしか生きてこなかった僕にとって、飢餓に苦しむアフリカやアジアの現地を訪れて食糧危機を解決するためにテクノロジーを駆使して食料を支援し、現地の人々の自立を促すというようなソーシャルセクターは、刺激そのものでした。例えば、食料が目的地まで届かなったケースが多かったインドでは、生体や虹彩認証など本人確認をする仕組みを導入したことで、食料支援がうまく機能するようになりました。そのような事実を目の当たりにし、デジタルテクノロジーが世の中をより豊かに変化させていくことに面白さを感じ始めたんです。

10年間ほどWFPのチームに所属していましたが、徐々に自分もソーシャルセクターに軸足を移そうと思っていた頃、突然首相官邸から電話があり情報通信の専門家として総務省大臣補佐官への就任を打診され、転職を決断しました。総務省は、情報通信を司っていた郵政省と地方創生を司っていた自治省、総務庁が合併された組織。当時は国全体で地方創生を最優先事項として掲げていたため、自分の専門である情報通信に加え、専門外である地方創生も担当することとなりました。正直当時は、今までグローバルな視点に目を向けていたこともあり、日本の地方にあまり関心がありませんでした。ただ、やるからには地方経済に役に立つことが僕にはできるのではないかと考え始めました。日本でも稀有な存在である地方経済の専門家の1人である岡山大学の中村先生に会いに行き、地方経済のデータを分析しながらそのデータをもとに地域の強みを見つけていきました。また、各地方で面白そうなことをしている人たちを数珠つなぎで紹介してもらい、日本各地を巡りました。塩尻の元ナンパ師公務員の山田さん、宮崎でアグリテックをやっている斎藤さんなど、日本各地にはまだまだ面白い人々がいる。実際に彼らと話をしていくうちに、地方に根を張りながら面白いことを試みようとしている彼らと一緒に仕事をしていきたいと思うようになりました。

地方に魅力を見出した太田さん。今後はどのような未来を視野にプロジェクトを進めていくことを考えているのか。

最近は、『シン・ニホン』の著者として知られる安宅和人さんと一緒に「風の谷を創る」というプロジェクトを進めています。「風の谷を創る」は、「都市集中型の未来」になりつつある現状にに対する代替案をつくっていく運動です。山や川や森など自然が豊かで、重層的な土地の記憶を持つ魅力のある土地は日本各地に点在しています。しかし、ベーシックインカム級の行政コストがそうした土地ではかかっており、大きな要因は道路などのインフラなのです。そこでテクノロジーを使い倒して、インフラを根本的に見直し、求心力のある空間ののプロトタイプを作っていきたいと思っています。

違う側面で言うと、テクノロジーが発達していくことで僕たちの未来は便利になっていくだろうけど、例えばスマートシティに対して、色々な情報が電子機器を通して抜かれ監視社会になることを危惧する反対運動が起こっていますよね。

そのような社会の反応を理解した上で、僕が理事を務めるCode for Japanでは、日曜大工のように自分たちで街を作っていく「DIY都市」というプロジェクトを立ち上げました。日本のスマートシティは行政主導で、テクノロジーは特定の企業にロックインされがちですが、Code for Japanがやっていることは、技術や情報を誰でもいつでも見ることができるようにオープンにすることです。直近では、東京都の新型コロナの対策サイト作成に関わったのですが、学生から大人まで約300人が一緒になって作りました。オープンソースなので、ソースコードは約60箇所に広がり、北海道や神戸、仙台、鹿児島など県をまたいで同じように使われています。大企業や行政だけではなく、市民自らが自分の街の交通や子供の見守り、防災のなど自分たちの身の周りの課題を自分たちで解決、改善していくように、これからはさらに市民、行政、企業、大学などを巻き込んでいくことが大切になっていくと考えています。

Stop COVID website

https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

太田さんにとって働くとは。

面白い人と面白い場所で何かを仕掛けることです。僕にとって面白い人は、自分の妄想を実現するために、人やお金を集めて行動している人たちのことを言います。面白い場所とは、新しい考えを迎え入れられる土壌があるかどうかです。そういう人や場所だと、新しいことにも挑戦しやすいですし、化学反応が起きやすい。ですから、仕事をする「人」と「場所」は常々慎重に選んでいます。僕は兼ねてから専門が情報通信だけど、その知識や経験を使う場所は医療でも、教育でも、農業でも、正直何でもいいんです。とにかく人と場所が大切だと思っています。

面白い人と場所を基軸に自身の仕事の幅を広げている太田さん。デジタルテクノロジーによって人々の暮らしが豊かになる、その先に太田さんが見据えている世界とはどのようなものか。

数年前、よく一緒に仕事をしている情報学者であり起業家でもあるドミニク・チェンさんとヘイトスピーチについてお話することがありました。その話の中で、実はヘイトスピーチは、する人としない人がいるのではなくて、物理空間や情報空間によって影響を受けることでヘイトスピーチをする人が生まれるという視点を知りました。また、空間が人間に意味や能力を与えることを学問的に「アフォーダンス」と呼びます。例えば、取手があると取手の本質的な役割を知らない赤子でも掴んだり引いたりしますが、AIはできない。「インスタ映え」も、ある景色や物を見て人間は写真を撮りたいと思わせられるが、AIはそうならない。その話を聞いた時に、空間が人間に作用させる影響力に関心を持ったのはもちろんのこと、デジタルテクノロジーを使えば、もっと効果的に人間の意識を変えることができるのではないかと興味が湧きました。例えば、ドイツ・ベルリンで「Gieß den Kiez 」というプロジェクトが話題を呼んでいます。625,000本もの市内の街路樹が、樹齢や乾燥度の情報とともにオンライン上の地図にアップされ、ユーザーは自宅や勤務地周辺の身近な木を選んで状態をチェックし、定期的に水やりを行うことで木の水不足を防ぐことができるというプロジェクトです。自分が普段意識をしている範疇外のことを意識できるようになることで、意識の拡張が起こる。物理空間や情報空間が変わると人間の意識や行動自体が変わることで、世の中の様々な課題が解決し、もっと住みやすい世界になっていくのではないかと考えています。

僕の夢は10年か20年後に、自然や家族、友人など自分以外の物や人がどのような状況にあるのかという情報が頭の中に入ってくるような意識が拡張した世界が当たり前になっていることです。例えば、会津のAiCTスマートシティで作ったソーシャルスヌーズという目覚まし時計は、自分の友達が顔を洗っている、近所で新聞配達屋さんが新聞を配達している、自分のパートナーがご飯を作っているなど、周囲の状況と同期しながら目覚めさせてくれる時計です。自分以外の物や人とのインティマシー、繋がりが自分の意識下に広がることで、自分自身が意識する世界は広がりを見せ、各人の人生をより豊かにするものだと妄想しています。

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最後にMIDORI.soとは。

自分もそうだけど、MIDORI.soは肩書きが説明できない人が多い。何をやっているか分からないけれど面白いい人たちがいる。MIDORI.soで働くようになってから、自分と似たような人たちと出会うことが結構多いし、もしかしたらそういう働き方をしている人が増えているんじゃないかという気付きにもつながっている。そういう意味で、僕はMIDORI.soから刺激を受けています。


太田直樹 - New Stories CEO -

New Stories代表。前総務省政策アドバイザー。 挑戦する地方都市を「生きたラボ」として、行政、 企業、大学、ソーシャルビジネスを越境し、未来をプロトタイピングすることを企画・運営。ボストンコンサルティングの経営メンバーとして、アジアのテクノロジーグループを統括。20151月から178月まで、総務大臣補佐官として、地方の活性化とIoTAIの社会実装の 政策立案と実行に従事。シビックテックを推進する Code for Japan理事などの社会的事業に関わり、国内外のイノベーション人材とつながっている。

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