COLUMN #167 秋田のこたつ

旅行にいくのは、遠い誰かに会いたいと思い立った時。もしかしたら一生会うことがないかもしれないような人に連絡してみる。
私はそれを、『あの人は今ごっこ』と呼んで楽しんでいる。
ある冬、私は祖母の妹に会いに秋田へ行った。最後に会ったのは遠い昔、子も孫もない1人暮らしの84歳はどんな人だろう。
急な電話口で受けた優しい印象のとおり、迎えにきてくれた彼女は「よぐ来たな〜」と、大人になって突然現れた私を優しくもてなしてくれた。陽が差し込む居間でこたつに入り、テレビと雪景色を眺めながら私は家族の近況を伝え、彼女が大好きだというSixTONESとKing & Princeの録画も見せてくれた。彼女について聞けば、戦後も苦労が続いた人生だったそうだが、今は気楽に1人で暮らしていることに安心した。
最終日の夜、近所の飲み屋に行こうと誘ってくれたので私たちは居酒屋のカウンターで乾杯した。私が2杯目を注文する頃、3杯目を頼む84歳。親戚に会いに来たというより東北に新しい飲み友達ができたようで嬉しかった。帰ってこたつに戻り、缶ビールで呑みなおす。84歳の逞しいマインドと肝臓に、私の勝手な想像はいい意味で裏切られた。
ただ、彼女がぽつりと「明日からまた東京の人さなるな」と呟いた。呑みに付き合ってくれる同年代の友達がいないから楽しかったらしい。またいつか来ようとさよならをした。そして今では1〜2年に1度は秋田のこたつを訪れては、若すぎる松下由樹と蟹江敬三の事件解決を何本も眺めて過ごしている。
日々いろんな人の人生が交差し合うMIDORI.soでも、あの人は今、、と思う人がぽっと急に現れたりする。毎週のランチ会に来る人や、缶ビールを持って現れる仕事仲間、桜の季節にだけ来る人もいるし、元メンバーがまた戻ってくることもある。
寒い朝は起きるのが大変だけど、今日のMIDORI.soにはどんな人が来るんだろうと、あてのないワクワクを原動力に今日も布団から出る。
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