COLUMN #32 passion

「魔女の血、絵描きの血、パン職人の血。神様か誰かがくれた力なんだよね。おかげで苦労もするけどさ」。ジブリ映画『魔女の宅急便』の中で、魔力が弱り箒で空を飛べなくなって落ち込んでいた主人公の魔女のキキに、彼女の友人であるウルスラは、魔女は呪文でではなく血で空を飛ぶ話をするくだりでこの言葉を口にする。
何度観たか数えきれないほどの映画の1つである本作を、先日友人の家で観る機会があった。不思議なことにいつもは流れるように聞いていたこのセリフが、映画を見終わった後も妙に頭から離れなかった。もしかしたら今の自分にとって大切な言葉なのかもしれない。そうぼんやりと思いながら、果たして私に与えられた「血」とは何か、その血はどんな力を持っているんだろうかと考えていた。そんな私は今「コミュニティ・オーガナイザー」というまだまだ世間から見れば浸透歴が浅い仕事に就いている。
朝、仕事場であるMIDORI.soに着いたら、これから働きに来るメンバーを気持ちよく出迎えるため、まずは働く空間を整える。机や床、シンク周りなどを綺麗にし、ソファやクッションが乱れていたら正す。音楽を流し、各所に飾られた花器を集め、水切りをし生け直す。その合間にもメンバーはやってくるので、会話が弾んで手よりも口が動くこともしばしば。ひと段落ついた頃にコーヒーを淹れ、近くにいるメンバーたちに「おはよう、コーヒーいる?」と声を掛けて、それをきっかけに最近の天気の話から仕事の話、世間話などをすることもある。昼になればメンバーの人数は増え、コミュニケーションをする相手のボリュームはその数に対して比例していく。「こんにちは」「お久しぶり」「最近どんな仕事をしてるの?」という会話が日中に飛び交う。
いつも根底にあるのは「メンバーが気持ちよく働けているか、メンバーにとって面白い状況を作れているか」という問い。デスクワークのためにパソコンとにらめっこをしながらも、メンバーをさりげなく観察し、適宜動き回っていたら、1日はあっという間に過ぎていく。「もうこんな時間!」と声にすることは日常茶飯事。私たちの仕事は、場を整え、メンバー同士をいい意味でかき回し、良質なカオスを生み出し続けること…。メンバーには今日もMIDORI.soに来て「よく働いた」という気持ちはもちろん、「なんだかいい1日だったな」という気持ちも持ち帰ってもらいたい。私たちのやるべきことは多岐に渡り、何をしているのか言葉を介して説明するのはなかなか容易ではない。
さて、私の身体には一体どんな血が巡っているのか。考えてみたが、まだまだよく分からない。魔女の血、絵描きの血、パン職人の血のように手に職をつけた人々の血に憧れることも、時々ある。けれども、今こうしてMIDORI.soで働いていることも何かの縁。ここに来て5年目に差し掛かる今、私の身体の中には神様か誰かが与えてくれた血が巡り、その力が日々MIDORI.soでコミュニティ・オーガナイザーとして働く中で発揮されていると信じたい。
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