INTERVIEW We Work Here case #29 「自ら責任を持つからこそ、自由に働ける。それが1番に楽しい」

澤田実加さんは、今年の3月にコスメブランド「SISI」を立ち上げた。マーケターとして今まで数々の商品をより世の中に広めるための調査と戦略を考え行動をしてきた彼女はなぜコスメブランドを立ち上げることになったのか。より多くの人々に「SISI」を届けることで、彼女の思い描く世界はどこに行き着くのか。みどり荘メンバー澤田実加さんにとっての「働く」とは。
[Interview / Text / Photo ] Yuko Nakayama
[ Edit ] Miho Koshiba, Moe IshibashI
2020. 12.11
「今は大きく分けて2つ仕事をしています。1つは美容に特化したブランドのブランディングやマーケティングのディレクションをする仕事です。もう一つは独立してもともとやりたかったコスメブランドのSISIを立ち上げました。来年1月には第一弾の商品として「Rozality(ロザリティ ウォータリーマスク)」という美容マスクが販売される予定です。」

Rozality(ロザリティ ウォータリーマスク)
「私の父は現在90歳で戦争経験者ということもあり、小さい頃から物を買うことに対して厳しい教育をされました。でも母の化粧品だけは格別で、彼女のスキンケア商品が並んだ洗面台はまるで夢のようでした。8歳の時にこっそり使った時、化粧クリームで肌がツルツル、スベスベになり、自分が可愛くなったような気持ちになれたことをとても覚えています。その記憶をうっすらとずっと覚えていて、小さい頃からコスメを通して人を幸せにできたらいいなという思いが頭の片隅にありました。」
小さい頃から経営者である父親に影響を受け、マーケティングに興味を持つ。大学では経営学やマーケティングを学び、就職難の2010年に入社したコンサルティング会社ではシステムエンジニアとしてキャリアをスタートさせた。心の中にはマーケティングを学びたいという気持ちがずっとあった。
「父親が人生を石に注いできた自営業の石屋だったため、小さい頃から物がどうやったら売れるのか、この間までは売れていた物が何が原因で急に売れなくなったんだろうか、どうやってまた売っていくのかと、ものの売り買いの会話を聞いていたので、自然と経営やマーケティングに興味が湧きました。就職活動をしている頃から、マーケティングの会社に入りたかったんですが、リーマン・ショックの影響で就職活動は難しく、コンサルティング会社に入社しました。会社の方針でシステムエンジニアとして働くことになり、時間をかけてコーディングを学びましたが、得意でもなく好きでもないことを続けていても、結局は上手くならないと痛感した3年半でした。」
「1年目から別の会社に転職も考えていましたが、今ほど転職に賛成という感覚を持っている会社が少なかったせいか、なかなか転職したいと思える先が見つかりませんでした。マーケティングの仕事をやるんだったら、体系立ってマーケティングの仕組みを作っている海外の会社の方が良いな思っていたので、外資の消費財メーカーを希望していました。マーケティングのことは大学時代に学んだ程度で実績も経験もないので、実際の経験を通してマーケティングのやり方や考え方を学びたかったんです。業界的に経験者でないと採用しないという風潮があることに気づいてはいましたが、1年目の時から転職活動をし続けて、3年目、もう限界だと思った時に、未経験者でも採用してくれる外資のマーケティングの会社にご縁があって転職することができました。それまでの3年半は私にとっては辛い時期でしたが、その時一緒に働いていた方々が今でも仕事上で助けてくれていたり、 自分が得意ではない場所で働いていたからこそ、やりたいと思えることを思い切りやろうと思えました。それが私にとってはマーケティングという仕事でした。」
得意ではなかったことに向き合った3年半の月日をバネに、転職した会社のマーケティングの部門では、製品開発からパッケージ製作、消費者調査を行ったり、ブランドのローカライズやCMまで、マーケティングの一通りの基礎を吸収し、土台を固めていった。そして、次なるステップへと自らの意志を持って踏み出していった。
「また転職をしようとは思っていなかったんですが、新しく入った会社の社長はもともと知り合いで、彼が独立した会社で一緒に働かないかと誘っていただきました。社長からも『まだ立ち上げたばかりの会社だから、とてもリスクがあるよ』と言われましたが、リスクというものは結局社長以外の人が持つものではないし、会社が上手く行かなかったからといって自分が死ぬわけでもない。危ないことをしているという危機感はなく、ただ単にもっと早いサイクルで新しいマーケティングカテゴリーの経験と視点を取り入れてもっと成長できるようになりたい、チャレンジしたいと強く思っていたんです。様々な会社でのマーケティングの経験がとても新鮮でしたし自分がこの人から学びたいと思える人から、マーケティングの仕事を学べることが何よりの財産でした。」
「自分がSISIを立ち上げるために退職する時に社長から最後に『3年間で見事な守破離だったね』と言われたんです。守破離とは、まずは相手からやり方を見て学び、だんだんとそのやり方に対して自分の意見を持ち始め、出来ることが増えていき、最後はそのやり方から離れていくという意味合いを持つんですが、まさに私の3年間はその言葉通りでした。『白いオイル』というコスメブランドの立ち上げの仕事に携わった時に、今まで片隅にあったけれど忘れてしまっていたコスメが好きだという気持ちを思い出して、どんどん夢中になってのめり込んでいきました。ただ結局のところ、自分でブランドをやっているつもりでも、自分が経営者でない限りは100パーセントやりたいようにできないことに気づくと、自ら責任を持って自由にやりたいという気持ちが生まれ、その時に独立しようと心の中で決めました」

ブランド名、「SISI」の由来とは。
「私を思うで私思。私を大切にするという意味が込められています。SISIでは自分を思い、大切にする習慣を提供し、美容を基軸にしながら化粧品以外のことも手がけていきたいと思っています。SISIという名前にしたもう1つの理由は、去年の年末くらいに会社を辞めて、実家に帰省した時の初夢に神話の動物の獅子が出てきて、こっちを見ていたんです笑。気になって獅子について調べてみたら、足腰が強く、幸福を呼び、スピード感があって、とても縁起がいい動物だったこともあって、デザインとしても文字の風通しが良い感じがするのでHを抜きました。」

独立してまだ間もない澤田さん。彼女にとって働くとは?
「楽しく生きるために、私は働いています。好きな仕事を、好きな仲間と思いっきり夢中になりながらやる。自己満足ではなく、自分が夢中になってやっていることが最終的に誰かに喜ばれたらいいなと思って働いていて、その状態こそが自分にとって幸せな状態です。楽しく働くために自分で責任を持ち、会社を作らなければいけないと思ったので独立をしました。」
独立したての頃は不安で眠れない夜もあったと話す澤田さん。しかし、いつしか彼女の周りには、SISIの思いを世界に届けようとする人々が集まり、1つのチームとして形になってきた。彼女にとって、周りの仕事の仲間やパートナーと一緒に仕事をすることとは。
「SISIは、気がつくと関わっているメンバーがたくさんいます。クリエイティブのメンバーやR&Dの方々など、商品やブランドのことを一緒に考えて作ってくれるようなチームとしての関係性を大事にしています。メンバーはそれぞれの専門性を持っている人たちなので、とても頼りにしています。そして丁寧にコミュニケーションを取ることを心がけています。自分1人でブランド作りはできないし、いい仲間と仕事が出来ていることがとても嬉しい。SISIに関わるクリエイティブやR&Dの仲間はとても大切です。」
「来年は会社のスタッフも増えて行くでしょうし、人が増えていく中で、関わってくれている人たちにとって、SISIの仕事が一番楽しいし、やりがいがあると思ってもらいたいと思っています。コスメの仕事は夢があるし、人を幸せにする仕事なので、まずは自分たちが楽しんでやっていることが大事だと思っています。」
来年頭に第一弾の商品が発売される予定だが、今後はどのような商品を作っていこうと考えているのか。
「美容を基軸にしながら、スキンケアの延長になるものもやっていきたいと考えています。美。世の中の課題解決になるような製品やサービスを作っていきたいと思っています。」
「今のところ、男性用のコスメを作ろうという動きはありません。けれど、最近は男性でもスキンケアをする方もいますしユニセックスコスメも増えてきて、だんだんと男女の垣根がなくなってきています。Rozality(ロザリティ ウォータリーマスク)もローズだから、ピンクだから女性というイメージがありますが、実は肌質や年齢に捉われず男女関係なく皆さんに手に取ってもらえる製品です。これからもそんな製品をSISIで出していけたらなと思っています。」

最後にみどり荘とは?
「所謂オフィスビルが窮屈で苦手なので、みどり荘はとても落ち着きます。ランチ会やビアナイトもあって、楽しいし美味しいし、話す人話す人みんながいい人です。人間的にいいというのももちろんあるんですけど、会社勤めしている人が多くない分、クリエイティブ関係の方が多く、フリーランスとしてみんな独立して自分の力で生きている人が多いので、独立してすぐの頃は、自分1人の力で生きている人たちが周りにいるということを知ってとても刺激になったり、励みになりました。もっと頑張らないといけないなと思える場所です。」
Mika Sawada / 澤田実加
SISI CEO
SISIの代表取締役。8歳の頃から母の洗面台に憧れて、スキンケアを始めた美容好き。消費財メーカでブランドマーケティングを経験後、企業のTVCM、ブランドロゴ、パッケージの開発など多岐にわたるマーケティング業務に従事。過去多くの女性の悩みを聞き、「忙しい女性にはパワフルな効果や利便などの機能性が必要」、「だけど使うと幸せな気持ちになれる。そんなスキンケアを作りたい」と思い、2020年3月にSISIを設立。
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