INTERVIEW case#47 We Work Here ”異質な存在だからこそ、誰かの想いに寄り添える

Topic: InterviewWritten by Tamao Yamada, Miho Koshiba, At MIDORI.so Nagatacho
2023/3/6
Misato Yatabe

日本の地域の素材を使ったクラフトフレグランスブランドCARTAを立ち上げたDAIFUKU MIDORI.soのメンバー矢田部美里さん。彼女が地方創生に目覚め、起業するまでの物語、そしてCARTAを通して伝えたい想いとは。

Interview / Text Tamao Yamada
Photo Sakiko Masuda
Edit Miho Koshiba
2023.03.06


地域社会が循環する仕組みを生み出すことが、フレグランスを作る上での大前提。地域に本質的なアプローチするためには、地場産業を生み雇用を創出する必要があると考えているので、想いのある地域の方がいる場所で積極的に商品プロディースをしていきたいと思っています。

ブランド名であるCARTAは、日本の百人一首の「かるた」に由来しています。地域には、その土地の文化を作ってきた香りの素材が沢山あるんですよ。歌人たちが日本の風景を見て想いを歌ったように、私たちは香りを通して全国各地の日本の情景を守り、繋いでいきたいと思っています。

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クラフトフレグランスを作り始めたきっかけは?

日本の地域をテーマにして何かできることはないか調査していたところ、『6次産業』として農産物から香りのオイルを抽出する取り組みが注目され始めていることを知りました。コロナ禍でルームフレグランスの需要が増えていたことも重なり、香りを軸とした商品を作るのは面白いなと思ったんです。第一弾の商品に喜界島を選んだきっかけは、鹿児島県の役場の方に島を紹介していただいたことでした。喜界島は珊瑚からできていて、他の場所では育たない豊富な柑橘を、地元の方々は香りを楽しむために育てているとのこと。実際に島を訪れて生産者の方々のお話を伺いしたところ、彼らは10年以上に渡ってエッセンシャルオイルの抽出に取り組んでいたそうなのですが、値段が高騰したり生産が安定しなかったりと、大変ご苦労されている様子でした。それでも喜界島の柑橘を使って町おこしをしたいという熱意を持つ農家さんがいらっしゃることを知り、その想いに寄り添える存在になりたいと思い、クラフトフレグランスというコンセプトでブランドを立ち上げることを決めました。

一番難しかったのは価格設定。『珊瑚ディフューザー』というキャッチーな商品をつくることで高価格商品にすることに踏み切りましたが、かなり試行錯誤した結果です。最初に仕入れた100mlの香りのオイルを、クラウドファウンディングで売り切ることができたことが生産者さんの評価につながり、将来的には2000mlのオイルを作る計画を立てています。現在は、POPUPを中心に商品を販売しています。これまではマルシェに出店することが多かったのですが、今年3月に初めて百貨店での出店が決まりました。どのような反応が返ってくるのか楽しみですね。

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小学校4年生までアメリカ・ロサンゼルスに住み、大学では海外旅行に没頭、長期休みを利用してはバックパッカーのような生活を送っていたという矢田部さん。NGOの職員としてインドでのインターンシップをきっかけに、海外でのソーシャルビジネスへの関心が高まっていった。

修士論文で、インドの若者のデート事情を事例に『自国文化の不満を解消する異国文化の流入』をテーマに研究を行っていました。インドは今でもカースト制度が根強く残っていて、異なるカースト同士でのデートスポットがないという課題が密かに存在していました。そこで、郊外にある海外資本のカフェが彼らの居場所になったという事例があり、実際にそのコーヒーチェーンの方々にインタビューをさせてもらったのですが、元々はスターバックスのようなビジネスパーソンをターゲットにしていたけれど、実際の利用層を見て、10~20代のカップル向けにマーケティング戦略を変えたという話を伺いました。他の資本や異文化が入るビジネスは、元々その土地にあった文化が壊されてしまうというネガティブな意見や現地の方々との衝突も多いのですが、私は、異質な存在が入ることで新しいムーブメントが生まれることへの面白さを感じていました。

グローバル展開やローカライズ化を視野に入れていたDeNAに新卒で入社し、ゲームプランナーや人事を担当。その後リクルートに転職し、事業の立ち上げや新商品の設計などを担当するが、パートナーが鹿児島に移り住んだことを機に地方創生に興味を持ち始める。

今までは海外ばかりに目が向いていたのですが、地方なら国内でもチャレンジ出来るテーマがありそうだなと感じ、地方移住を本気で考え始めるようになりました。そこで『移住ドラフト会議』に参加したのですが、自分が培ってきたPMPMOのスキルは、成果物のあるデザイナーさんと比べ分かりにくいので、とりあえず目を引くことをしようと思ってバルーンアートをしてみたんです。そうしたら、宮崎県がドラフト指名をしてくれて。まさにバルーンアートの一本釣り(笑)。当時九州で一番若い日南市長との出会いをきっかけに日南市に移住し、役所の職員として働き始めました。古民家再生や空き家再生に関わる事業を担当していたのですが、地方では宿が一つできるだけで町の雰囲気が本当に大きく変わるんですよ。逆に店舗が一つ潰れると、ものすごく大きなニュースになる。地方では一つ一つが与える影響が大きく、産業を興すことへの興味を強く持つようになりました。」

宮崎県日南市での任期終了後は、福岡でディベロッパー会社に入社しましたが、やはり地方創生に関わりたいという思いが強くあり、日南市のプロジェクトで一緒に働いていたデザイナーやリクルート時代の同僚などに相談をしてCARTAを立ち上げることを決めました。今後は、地域に根ざしたブランドとして認知してもらえるように動いていきたいと思っています。最終的には、地域に人の流れが生まれるような仕組みを作っていきたいです。ブランドのファンになってくれた人たちが実際に産地で蒸留体験ができたり、作り手さんと会話ができたりするような観光産業を展開したいと考えています。

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矢田部さんにとって働くとは?

人生は、様々な経験・出来事の地続きの上に成り立っていますよね。どのプロセスが欠けていても今の形にはなってないといいますか。実は、現状CARTAでの活動資金は、前職のリクルートから業務委託を受けることで捻出していて、一緒に動いているメンバーの1人はリクルートの同僚です。CARTAが実現したのは、本当にこれまでの過程があったからこそ。そしてCARTAは、今後の自分の一部になっていくのだろうなと思います。そういう意味で、働くとは『プロセスを積み重ねる』ということなのかもしれないですね。

最後に、MIDORI.soとは?

コワーキングスペースはただの作業場になってしまうことが多いと思うのですが、MIDORI.soでは常に人との交流があるので刺激を貰っています。東京の拠点との繋がりも強いので、出店の相談をしたらメンバーが知り合いに声をかけてくれたり、福岡では専門としている人が少ない分野の仕事も、MIDORI.soのメンバーに助けてもらったりしました。ビジネス感覚が近い人が多いことも有難いなと感じています。まるで東京にいる時のような感覚で会話をすることができる場所は、福岡にあまりないので嬉しいです。


矢田部 美里 | Yadabe Misato

株式会社CARTA・代表取締役

東京都出身。2018年に人口5万人の宮崎県日南市に移住し、市役所非常勤職に着任。空き家対策や古民家再生など、地域のまちづくりに携わる。2022年に日本のクラフトフレグランス会社CARTAを創業。日本の地域を訪れ、その土地の文化や風習を作った植物たちを探し香りをつくることで、失われつつある日本の情景を繋いでいくことを目指す。

https://carta.website/

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