INTERVIEW case#46 We Collaborate Here 子供のような好奇心のままに

11月12日(土)から11月26日(土)まで、東京在住のアーティストJesse Freemanによる展示『Nothing in Particular』を、MIDORI.so Bakuroyokoyamaにて開催中。
写真、映画、生け花、コラージュ、キルトなど様々なアプローチで制作を続けるJesseにインタビュー。
[ Interview / Text ] Tamao Yamada
2022.11.24
ー 日本に来たのはいつですか?
アメリカ・メリーランド州出身で、軍人の父の仕事で小さい頃に来日しました。その時は1年も経たずアメリカに帰ったのですが、2006年に再来日してから東京に14年間住んでいます。
ー 制作活動はいつから始めましたか?
12年前、25歳の時に、写真と映画、生け花を始めました。写真を撮る時は、ほとんどは白黒フィルムを使用していて、自分で現像からプリントまで行います。最初はナイトクラブの写真を撮っていたのですが、その後はファッションや建築の写真を撮るようになりました。映画は、映画の理論に寄り添いながら制作をしていて、 これまでに12 本の短編映画を書いて、自ら監督をし、東京で上映会を開催しました。生け花は、草月流(※生け花の中で最も新しい流派。従来の型にとらわれることなく、いけ手の個性を自由に映し出すことができると言われている)の師範です。コラージュを始めたのは、29歳の時。雑誌の紙面を切り取ったり、ゴミ箱に捨てられたゴミを拾ったりして、より直接的な表現方法として作成しています。元々は遊び感覚で始めたのものなのですが、2019年から作品を公開し始めました。そしてキルトは1年ほど前から始めました。


ー どのような作品からインスピレーションを受けますか?
最初のインスピレーションは文学や映画です。私は日本に来てから文学に陶酔し、アーネスト・ヘミングウェイやフランツ・カフカ、川端康成などの文学作品を読むようになりました。作家論を理解していくにつれて映画にも興味を持ち始めたのですが、小津安二郎や清水宏、山中貞雄らによるサイレント映画にはとても影響されました。
ー アイデアの元になっている経験は何ですか?
国際的な問題だけではなく、個人的に経験したことも表現しようとしています。19歳の時に、いとこが警察に殺されました。アメリカにいた時は、黒人というだけで呼び止められとても怖い思いをしたことが何度もあります。そういった幼少期の記憶が今のアイデアになっているかなと思います。特に、コラージュではアメリカにいた時の経験が多く含まれています。ジョージ・フロイドとアフリカン・アメリカンのムーブメントがあった2020年はずっとコラージュ作品を制作していました。

ー 古典的なものに興味を持ったのはなぜですか?
最近は、技術の発展のおかげであらゆる物事が早く、簡単に済ませられますが、そこにはプロセスや独自のアイデアが存在していないように思います。それって、面白くないですよね。ジガ・ヴェルトフや、セルゲイ・エイゼンシュテインが作るソビエトのサイレント映画は、まるでフォトブックのように、写真のような短いカットで構成されていて、当時では前代未聞の手法でした。ものすごくオリジナリティがある。そういうものに心が動きます。それに、古典的な部分をしっかりと理解していれば、それらを壊し・崩していくことでまた新しい作品を生むことができると思うのです。
ー 本展の『Nothing in Particular』にはどのような意味が込められていますか?
元々は、アメリカで自分が直面した問題をテーマにしようと考えていましたが、MIDORI.soで展示するには重すぎると思いました。そこで、写真とコラージュ、キルトという美的な作品を選ぶことにして、テーマは特に設けないことに決めました。ただ、どの作品にも創造性が存在しています。写真の構成や余白を見つめたり、コラージュには様々な要素が掛け合わされていたり、キルトの視覚的な表現を感じたりと、私たちが普段見逃してしまうような視点を見つけることができると思います。

ー 制作において楽しいと感じることはなんですか?
考えている時間が一番楽しいです。私は、分からないことに挑戦することや、難しいものを考えることが好きです。
ー 様々な表現媒体を持っているのはなぜですか?
どの表現媒体もそれぞれに特別です。しかし、一番大切なのは自分のアイデアと感覚。それぞれの媒体に得手不得手があるので、自分が考えていることを一番適切に表現できる媒体で表現をしているに過ぎません。

ー 作品における共通項はどのようなものがありますか?
生け花と映画、写真は、繊細さです。例えば、生け花はスペース(余白)が大切です。アメリカで花が飾られるときは、花自体が主役になりますが、生け花の場合は構成や空間を含めて作品が完成されます。繊細さが重視されることは、日本的で面白いです。生花の基本の型である「なぎれ」や「盛花」は、自分たちが見逃してしまうような機微を思い出させてくれるのですが、それは小津安二郎やジガ・ヴェルトフの映画でも同じです。映画も構成が大切で、細やかさを感じる作品が大好きです。そして、それは写真も同じです。
ー これからやりたいことは?
次にやりたいことは演劇です。演劇の台本を書くことは、今の自分にはできないことなのでとてもワクワクしています。演劇では、「舞台」という非現実世界と、「客席」という現実世界の間にある見えない壁を「フォースウォール」と呼ぶのですが、劇作家のベルトルト・ブレヒトは、観客がそのフォースウォールを超えて劇に参加する手法を実践しています。舞台と観客との垣根を超えて作られる劇は、制限があることによって自由が生まれていることを象徴しているように思います。また、不条理演劇を代表するサミュエル・ベケットのアイデアもとても面白く、制作のヒントになっています。

ー 最後に、Jesseさんにとって表現とは?
子供のように好奇心を持ち続けること。それを忘れないことが一番大事だと思います。
Jesse Freeman・Artist
東京を拠点に活動するビジュアルアーティスト。写真、映像、コラージュ、草月流の生け花、キルトなど、さまざまな手法で制作を行う。2006年に来日後、文学に傾倒し、作家論を理解するにつれ映画にも傾倒する。生け花は草月流に10年間師事。コラージュはリサイクルボックスやゴミ箱から拾った材料から作り上げている。新しい手法として1年前ほどからキルトを始め、これまでに16枚、毎月作り続けている。また、美術評論やエッセイも書く。
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