INTERVIEW case#45 We Collaborate Here ”「当たり前」を疑わせられるような作品を作り続けたい”

2022年10月6日(金)〜10月21日(金)まで、MIDORI.so Bakuroyokoyama 7Fにて、写真家・築山礁太さんによる個展『窓の中の言葉について』が開催された。本展はNADiff Window Galleryとの同時開催で、2つの会場が関連付けられた展示となっている。築山さんは、写真に備わる特性を考察し、様々な方法で制作を続けている。彼が追い求めるテーマはどのように作品に落とし込まれているのだろう。そして作品を通して伝えたいメッセージとは。
[Interview / Text / Photo] Tamao Yamada
2022.11.5
僕は「写真を撮ること」ではなく、写真がもたらすものの見方や受け手の意識への問いかけなど、「写真の性質から生み出される行為そのもの」に面白さを感じています。写真を撮影するのではなく、写真媒体そのものに物理的なアプローチを行ったり、立体作品として写真という概念を表現したりと、様々な方法で写真表現の可能性を模索しています。

個人の制作に加え、グループ制作やCulture Centre(横田大輔、宇田川直寛、中野泰輔、渡邊聖子、築山礁太)のメンバーとしても精力的に活躍するなど、注目の若手写真家として期待を集める築山さんだが、10代の頃に思い描いていた道は写真の世界だけではなかった。
祖父が写真を撮る人だったので、小さい頃から写真は身近な存在でしたが、祖父が撮っていた山岳系の写真にはあまり興味を持てずにいました。写真に興味を持ち始めたのは、中学3年生の時にロベール・ドアノーの写真集と出会ったことがきっかけです。高校生になって本格的なカメラを持ち始め、日に日に写真へ没頭していきました。
同時期に、部活のコーチの勧めでアルティメットに取り組んでいたのですが、高校3年生の時にジュニアの日本代表選手に選ばれました。高校卒業後には世界大会に行くことが決まっていたので、このままアルティメットのプロの道に進むか、写真家の道に進むかをとても迷って・・・。ただ、どちらの道も可能性を捨てきれず、アルティメットをしながら写真を勉強しようと考えていました。
高校卒業後は日本写真芸術専門学校へ進学。その年の7月に行われたアルティメットの世界大会を機に、築山さんの写真への情熱は大きくなっていった。
世界大会で海外選手と闘った時、体格や身体能力といった変えようのない差を強く体感し、スポーツの道を進むことには限界があると思いました。世界のトップを目の当たりにしたことで、今後の自分の立ち位置が見えた。それで、帰国してすぐに写真で生きていくことを決めました。
一見マイナスな選択のように聞こえますが、逆に、写真には限界がないと思えた前向きな決断でです。スポーツには体格差などでの物理的な限界があるけれど、作家は自分の問題意識が続くまで終わりのない行為だと思ったので、心置きなくこの道を選ぶことができたと思います。
学校内外で精力的に制作活動を始め、築山さんの意識や興味は「写真を撮る」ことよりも、「写真に備わる行為そのもの」へと移っていく。在学中に発表した『洞窟3部作』では、写真媒体へのアプローチの変遷が垣間見える。
写真を勉強していく過程で、写真に備わる行為によって、リアルとフィクションが生まれるということに面白さを感じるようになりました。例えば、僕が写真を始めるきっかけとなったロベール・ドアノーの作品に、パリで男女がキスしている有名な写真があるのですが、それは実は演出によって撮られたものだったということが調べてから分かりました。何も知らずに見ただけでは、奇跡的な瞬間を捉えたロマンチックな写真だとしか認識されません。しかし、写真として記録されたことで違う形や見え方になり受け手に伝わっているということがとても興味深いなと思ったんです。そこで、その行為自体を追求してみようと思い、「写真を撮る」ことではないアプローチで写真作品を作ることに挑戦し始めました。
初めての作品である『洞窟3部作』では、当時付き合っていた彼女との関係性における状況下の記憶の変化を3段階(①付き合っている最中 ②別れそう ③別れた)に分け、それぞれの写真に様々な物質的アプローチを加えることで表現しています。最初は、単純なスナップ写真も撮っていましたが、それらに加工を加えた『matrix』という作品では、フィルムのネガを熱現像することで、感情によって記憶が変化し、忘却する様を表現しました。その他にも、写真のプリントを液体と一緒に同封して、液体によって写真が変化する様子を記録しました。記憶の忘却とは、実際に無くなった訳ではなく、むしろ肉体化してしまうということを、物理的に劣化・変質させることで表現したかったのです。

恋人という私的なモチーフでの撮影や、記憶の変化という自己の内面へと意識が向けられたテーマの制作を経て、築山さんの問題意識は徐々に社会や外部へと変化していく。
専門学校を卒業した後、Tokyo Photographic Researchというプロジェクトに参加しました。そこでは、約半年間、自分の部屋の四つの壁に監視カメラを設置して、「都市に住む若者の生活」のイメージを演じ記録するという制作を行いました。最初は、部屋に来る他者との関係性や距離感を映し出すことを目的としていましたが、いつの間にか自分自身の行動を観察することに意識が向くようになりました。例えば、都市に住む若者の生活イメージを実生活の中で演じ続けることで、本来の自分の素ではない行動が段々と自分の普通になりかけていくような感覚があり、「生活」というプライベートに何か変化があると、段々とそれが自分にとっての王道になっていくという新しい気づきがありました。
本作は、専門学校を卒業したばかりのタイミングであったことと、制作期間中にちょうどCOVID-19の感染が広がったことで、自ら部屋に閉じこもった自分と、予期せず社会の中に閉じ込められた人たちの気持ちがリンクするような感覚があり、社会と自分との距離や関係性を模索していた期間でもありました。

そして本展『窓の中の言葉について』では、「見る」という行為の中にあるパースフェクティヴを元に制作した立体作品「viewpoint」と、写真というイメージの風景ではなくイメージそのものにフォーカスした「平行植物」、カメラのものまねを試みた新作「similar room」を発表した。今回はどのようなテーマを軸とした作品なのか。
展示タイトルである『窓の中の言葉について』の「窓」とは、写真を示しています。カメラによって切り取られたフレーム内の映像が写真であり、窓の中を表す言葉となっています。カメラによって、自分と世界の関わりに断片的な四角の境界線が作られることで、僕らは、写真に映るイメージそのものとその外側の情景を連想します。写真から見えないものを勝手に想像し、認識してしまうという状態が起こるということです。新作の「similar room」は、カメラによってフレームされた状態をそのまま立体作品として表現し、写真の特性が生み出す行為そのものを物理的に実践した作品です。
本作品に投影されている僕の問題意識は、現代社会において当たり前すぎて見過ごされてしまっている物事への疑問です。本展のステートメントにある通り、現代の多くのセブンイレブンの外壁は、レンガの壁からレンガを印刷したプレートに変わり虚像となって存在しています。普段僕たちが疑いもなく見ているものの中にはそういった虚像が隠れていて、それらは僕たちに真実だと疑いもなく認識されています。僕はその状況と、写真がカメラのフレームによって内側と外側のイメージを勝手に生み出してしまうという特性に同質を感じ、虚像が生まれる状況そのものを立体作品として作り上げることで、「当たり前を疑う」というものの見方を提示したいと思ったのです。


最後に、今後の作品の方向性について伺った。
本展は一つの作品を展示するのではなく、複数の作品を展示することによって、テーマを成り立たせています。というもの、僕はビジュアルが強い写真のように一発の大きな作品をつくるのではなく、ジャブやフックを打ち込んでいくような感覚で制作を続けています。学生時代は、いかにインパクトのあるものを作り出せるかということを考えていましたが、今は、明確な答えが出ていないという状況も含めて、写真が生み出す問題に対する考えの現在地を制作に落とし込んでいます。今後もそのスタイルは変えずに着実に制作していきたいです。
また、僕の作品は、作品を見るという行為自体、そして、作品が見られるという行為自体に、想いが存在しているので、こちらから作品の説明したりキャプションをつけたりと言葉で語るということをしていません。分かりやすく語ることで新しい気づきを促す装置となるのではなく、語らずに、ただ作品を置くことで、人によって捉え方が変わる状況や物事への見方を作り出したいと思っています。「語らずとも語る」、そういう作品を目指していきたいのです。
Shota Tsukiyama | 築山礁太
写真家
2019年日本写真芸術専門学校卒業。変化する記憶をテーマに制作することが多く、洞窟3部作や部屋シリーズなどがある。 自主制作によるアーティストブックを精力的に発表している。また、個人以外にグループでの制作も行っており、Culture Centre(横田大輔、宇田川直寛、中野泰輔、渡邊聖子、築山礁太)や mob(河原孝典、築山礁太)としても活動している。主な展示に、『Immersed materiality』(Whitenoise、ソウル、2018)、『退屈な本 Boring Books』(東京都現代美術館、東京、2019)などがある。 2020年9月にTokyo Photographic Research にて作品を発表。
MIDORI.so Newsletter: