INTERVIEW case#12 WE Collaborate Here ”Not worth it.”と言われても、”I think it’s worth it.”とまずは自分が思わないといけない

Topic: InterviewWritten by Miho KoshibaAt MIDORI.so Nakameguro
2018/12/10
Ayumi Takahashi

自分の作品には価値がある。自信と誇りを持ち、クライアントと対等にビジネスをしていく。トップイラストレーターが集う空間に身を置き、世界のスタンダードを目の当たりにしてきた彼女の仕事への意識は、良い意味で緊張感が漂う。1人前のフリーランスとして稼いでいくことは、そう生ぬるいものではない。けれど、決して自分のアーティストの価値を下げてはいけない。それを彼女は分かっている。1人のアーティストとして、人間として、どう振る舞うべきなのか。長い年月、異国の文化に触れ、現在日本で働く彼女が見つめるその先にあるものとは。中目黒メンバーAyumi Takahashiにインタビュー。


Ayumi「イラストレーターはどちらかというと1つのブランドのようなもの。スタイルがあって、そのイラストレーターが誰なのかというのが重要だし、アーティストだと思う。イラストレーターの名前で企業とコラボレーションをして、お互いを助け合うみたいな。幕の後ろの人というよりは、幕の前に出ている人」

独特の感性で凛とした女性や花々を彩豊かに描く彼女の絵を見ると、人は皆イラストレーターと呼ぶであろう。しかし、彼女は、自分自身のことをイラストレーターと名付けようとはしない。


Ayumi(自分のことを)アーティストだと思うけど、ファインアーティストではない。自分はビジネスをそこに挟んでいる。だから私は、自分のイラストレーションをブランディングしたり、マーケティングをしたり、商業化をするイラストレーター兼ビジネスウーマンです。()

彼女の現在のメインワークは、フリーランスのイラストレーターとして、クライアントから依頼を受け、イラストを描くことだ。決してブレることのないビジネスに対しての意識が、彼女が語る言葉から少しずつ垣間見えてきた。

Ayumi「だって、1人でやっていくんだから。最初はみんなだいたいビジネスのことを考えない。フリーランスの人のビジネススキルがいかに重要か、みんな気づいていないと思う。例えば、自分がブランドだとしたら、どういう仕事をしていいのか、ダメなのか、セレクティブになるじゃない?最初から選べる立場じゃなくても、選ばないとダメだと思う。だから、タダの仕事は絶対にしてはいけないし、友達に頼まれたからというので、絵を描いてはいけない。自分のアーティストの価値を認めてくれない人とつるんではいけないと思っている()


彼女のビジョンは、明確だ。「絵を描く」ということだけではなく、自身をブランディングすることに徹底している。

Color pencils
Sunlit window

中国生まれ、家庭の事情で北海道の地にて中学・高校時代を過ごす。多文化に興味を持ち、高校生の頃は外交官になりたかったそうだ。高校卒業後、アメリカ・サンフランシスコへ建築を学びにいった。

Ayumi「とにかく何でもよかった。最初は建築。10代の人が人生で何をやりたいかって言われても、わからないと思う。でも、何でもいいけど何かから始めればそのうちわかると思って。『ビックフィッシュ』という映画を見て、魚は大きくなりたかったら大きいところで泳がなければならない。じゃあ、大きいところで泳ごうと思って、アメリカに行ったの(笑)。絵は好きだったけど、描いたことはあまりなかった」

Ayumi「建築から入り、すぐに3Dアニメーションに移行したのだけど、プログラムを使わないといけないことに違和感があった。もっと直接的にやりたいなって。でも、いい学校に行きたかったけど、最初は絵も描けないし、英語も話せないから入れるわけもない。最初の学校をやめて、1般の大学で授業を受けながら、絵の勉強を始めてポートフォリオを作り、ロサンゼルスのArt Center College of Designに入った。そこで5年間。頑張って全額分の奨学金を取った。美大って、消化したり新しいものを見て、自分のものにするのに時間がかかるから、早く卒業する意味もないなと思って、いろんな授業を取り始めた。絵、グラフィック、写真とか色々」

学校に通いながらも、映画制作会社Paramount Picturesで働いたり、学校を1旦休学しグラフィックデザインを学びに半年間ロンドンへ留学をしたりする。ヨーロッパ中の数多くのギャラリーに足を運び、彼女は本物のアートに触れた。

Ayumi「あんまり(グラフィックの)勉強にはならなかったけど、ヨーロッパの本物のアートを見ていくうちに自分の好みがわかった。最初は、ディティールに凝る子供っぽい絵だったけど、シンプルにグラフィカルに。色もパッと変わった。格好とか考えも全部変わった」


ロンドンから帰国後、卒業。オレゴン州ポートランドに移り、Instagramを通してパーソナルプロジェクトをスタート。徐々に周囲から声がかかり、ギャラリーで個展をしながら絵を売るようになる。Instagramからもフィーチャーされ、フォロワー数が一気に増えた。彼女にとって、Instagramが卒業後の1番のプロモーションツールだった。

Ayumi「当時年収が50万円くらい()。最初卒業した頃は、1万や2万の仕事しかなくて。50万稼ぐのにも大変だった。」

Ayumi「フリー(ただ)の仕事もしたけれど、何にも繋がらなかった。最初は自分の発信として何個かやっていくうちに、ビックピクチャーを見ないといけないなって思うようになった。目の前にあるものを受け取って、いっぱい時間を使って、いつまでたってもやりたいことに繋がらない()。昔はInstgramでは、食べ物とか友達を撮っていたんだけど、これじゃいけないなって。自分の人生、イラストレーターとして人に見せる部分はキュレートするようになった」

ポートランドで1年半の月日を過ごし、アートの中心であるニューヨークへ。最初の1年は、友達作りという明確な目的を持ち、アーティストにメールをしたり、スタジオを訪問したり、交友関係を広げた。そして、トップアーティストが集うブルックリンのスタジオ「Pencil Factory」に入ることになる。

Ayumi「みんながトップイラストレーター。この人たちと友達になるためには、何か自分にしかないものを持っていないといけない。それがモチベーションに繋がった。スタンダードも高くなった。あの人が1枚の絵に対して何百万円チャージしているんだったら、自分もそうすべきだなって()。私が新人だからっていうので安くしなければいけないっていうのはおかしいと思った。実はこの業界って、みんなで力を合わせてる。新卒の人が1万円でやりますって言っているから、このマーケットプライスがおかしくなっている。みんなでインフォメーションをシェアして、マーケットプライスを保たなければいけない」

Ayumi「意地でも、本当にプライドを保たないといけないと思う。”Not worth it.”と言われても、”I think it’s worth it.”とまずは自分が思わないといけないかなと思っている。ニューヨークはビジネスマインドを持っていないと生活できない。家賃とか含めて本当にスマートにやらないと暮らしていけない。みんながよく言うんだけど、”If you make it in NY, you can make it anywhere.” 本当に嘘じゃない話だと思う」

トップアーティストが集う環境の中で、彼女は世界のスタンダードを知る。イラストレーターとして自分の作品にプライドと自信を持つこと。そして、そこには必ずビジネスが結びついているということ。


今年の20186月に日本に帰国。アメリカを離れ、なぜ彼女は日本に帰って来たのか。

Ayumi「もともとイラストレーターになりたくてなったわけじゃない。自分がイラストレーションを勉強したから、その延長線上で、実際にやってみないと、応用してみないと、勉強したことが無駄になるのが嫌だから。1通りやってみて、あ、なるほどって()。スタイルが見つかって、売れるようになったからとはいえ、甘いスポットに浸かっているのは嫌なの」

Ayumi「アジアに住んでいたときは、欧米に憧れていた。だけど、年を重ねていくうちに、自分のルーツがわかってきた。ニューヨークにいながらも、北京や上海、東京や京都を旅するうちに、アジア人の文化の深さ、美の感覚の深さにも気づいた。多文化の中で生きてきた私だったら、新しい視点で自分が欧米で学んだものをアジアで生かして、ボーダレスなものを作れるんじゃないかなと思った。日本は、東洋と西洋がうまく混ざったところだから、余計によかった」

では、今後どんなことをしていきたいのか。

Ayumi「最近は若い人やアート教育をされたことがない人に受けるものを作りたくて。例えば、IKEAってあるじゃない?質とかは置いといて、センス、かっこいい家具、いいデザイン。こういうのもあるんだよって、アートに直接関わっていない人たちを教育したと思う。私もより多くの人に、美しいと思えるものを作りたい」

Ayumi「ざっくりいうと伝統工芸の技術を使って、若い世代が興味持つモダンなプロダクトを作りたい。アーティストとして職人と若い世代のライフスタイルにあったかっこいいプロダクトを繋ぐブリッジになりたい」

改めて、彼女にとって働くとはなんなんだろうか。

Ayumi「あんまり働いているっていう気がしない。生きているっていう。生きているうちの1つの動き()。働かなきゃっていう意識もそんなにないし、稼がなきゃっていう。1ヶ月の生活に必要なお金を稼げたら、それ以上仕事をとったりはしない。稼ぐのがゴールじゃないから。限られている時間を好きなように使いたい。縛られるのが嫌なんだよね。仕事とか、お金とかで、男とかで()。自由が欲しいから。自分がすべてコントロールできるように」

みどり荘についてどう思う?

Ayumi「自分と同じようにアーティストとしての価値を誇りに思っている感覚の人がいると思う。みどり荘は私にとって東京の裂け口みたいな、そのヒビから入ればバッとそういう人との出会いが増えていけそうな。みんなで情報をシェアしたり、刺激しあったり、コミュニティとしてすごくいいと思う」

Ayumi1
Ayumi2
Ayumi3

髙橋歩(Ayumi Takahashi)

中国生まれ、日本で高校を卒業後に渡米。カリフォルニア州のアートセンターカレッジオブデザイン(Art Center College of Design)でファインアート/イラストを専攻。中国、日本、アメリカの他に、タイ、イギリスでも留学経験のある髙橋は、国境を超えたアートを作りたい、そういう願いで今はニューヨークでギャラリー展示、イラスト、絵本、テキスタイル、様々な分野で活動している。

MIDORI.so Newsletter: