COLUMN #99 The Distance

Topic: ColumnWritten by Tamao Yamada
2023/7/28
The Distance

The Distance

山梨県須玉町比志にある標高1.000メートルの北杜市に来ている。

東京から甲府まで、普通列車で34時間。車の運転ができない私は、そこからさらに1時間ほどバスに揺られ、キャンプ場へと向かう。特急列車や高速バスに乗ればもっとはやく移動することができたけど、現在地と目的地までの距離をきちんと感じられる速度というものがあるよなぁと思い、今回はあえて時間をかけて向かった。

バスの窓から、移り変わる景色をただ眺める。広がる空の青、瑞々とした植物の緑、山々は堂々と佇み、夏の眩しい光がきらきらと差し込んで視界が澄んでいく。標高1,000メートルの気圧は、赤ちゃんが子宮にいる時と同じくらいだと言われており、心地良さが全身に流れ続ける。この土地には、コンビニも娯楽施設もなく、日々進化を求める都会とは異なり、人々は木々や川の流れの一部となって暮らしている。

土に触れたり、草木を摘んだりしているうちに、私もだんだんと身体が土地に馴染んできた。普段の生活では、前へ前へと身体が向いてしまうけれど、自然の中に身を置いていると、遠くから鳥のさえずりや川の流れる音が聞こえてくる。野生の動物が敵から身を守るために背後にも注意を払うように、自然の中では、自分のものの見方や身体そのものが立体的になっていくような感じがする。心はずっと穏やかで、自分はあくまで世界の一部で、人間以外のさまざまな動物、自然が存在しているという当たり前の感覚を思い出していく。

「田舎は時間の流れが遅い」とよく言うけれど、木々が50年の時間をかけて育っていくように、そこで暮らす人々も、自然という大きな流れの中に生きているからなんだろうなぁ。野菜は人が収穫することで、種を残そうとしてより育っていくらしい。人の数だけ役割があるように、都会も田舎も、人も自然も、全部生かし合いなんだ。私たちは果てしなく大きな循環の中にいるんだ。

この感覚を失わないようにするために、またこの場所に行きたいと思った。そして、ここで得た視点を東京の暮らしに持ち帰って実践していきたい。大きなことではなくても、自分が食べるものや身につけるものなど、日々の小さな選択の変化を積み重ねていくことが、都会に生きながら自然と接続していく方法なのかもしれない。そしたら、都会と田舎の距離感も近くなっていくかもしれない。

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