COLUMN #30 I like...

Topic: ColumnWritten by Saburo Tanaka
2022/2/25
#30 I like...

僕は、酒が好きだ。美味い酒を呑むために毎日働いていると言ってもいいくらいに。歯抜け部分にショートホープを挟みながらワンカップを呑ってるジジイが明るいうちから散見される神戸の新開地という町に生まれ、100年焼き鳥店(名を八栄亭という)に15のときから通う父親に呑兵衛英才教育を受けてきたので、そこいらのファッション呑兵衛とは一線を画していると自負している。

当然、呑み屋が好きだ。シブい呑み屋に行くために毎日働いていると言ってもいいくらいに。明文化こそされていないことが多いが、シブい方面の呑み屋にはそれぞれルールがある。人数や注文方法、禁止事項まで様々だ。大将の仕切りとそこに通う数多の黒帯たちの流儀が積み重なってその空間での不文律がつくりあげられる。茶帯以下はそれに謙虚に従うのみ。それほど難しいことではない。

骨太酒場の暖簾をくぐる程に、自分の中にもルールやこだわりのようなものが生まれてくる。飲兵衛英才教育を受けた環境の上にあぐらを搔く事なく、人生の半分を真摯にアルコールと向き合ってきた僕の中にも、そのようなルールがいくつか存在する。その筆頭が「瓶ビールを呑む」ということ(手酌でノンバブルスタイル)。生(ジョッキ)ではなく瓶。味が締まっているとか(サーバーの良し悪しに左右されない)、コスパがいいとか、シェアできるとか実際的な理由ももちろんあるかもしれない。でも、1番の理由は「かっこいい」から。これに尽きる。瓶ビール、ごっつかっこええ。カウンターでひとり手酌をキメる紳士に憧れ、それに倣うと自然と背筋が伸びる。

松坂大輔が晩年までワインドアップを貫いたのは、そのかっこよさからだったと言う。機能的ではない理由から生まれたこだわりが人間を深めていく。「かっこいい」や「好き」に勝る動機などおそらくこの世にはない。遊びにも、できれば仕事にもそんなそんな姿勢で臨めたら毎日はより人間臭くなる。AIはたぶん生ビールを注文するし、ノーワインドアップで投げるだろう。「なんの意味が-」とか「生産性が-」とかは時々忘れて、「かっこいい」や「好き」の鳴る方へ。

ただし、マイルールを他人に強要した瞬間にただのウザい奴になるので気を付けよう。機能的でもなくウザくもないこだわり、それぞれの瓶ビールとワンインドアップを。

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