COLUMN #177 No-code vs Custom Build

Topic: ColumnWritten by Yoichiro Tamada
2025/3/14
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ノーコード(プログラミングの知識がなくても、アプリやWEBサイト、業務システムなどを作れる開発手法のこと)の波は、もはや無視できない潮流になった。FramerSTUDIOといったツールの普及により、デザイン業界でもその活用が進んでいる。開発コストを削減できるだけでなく、デザイン会社は自社でWEBサイトを納品し、クライアントもCMSを活用して運用できる。これは大きな変化だ。しかし、ここで改めて考えたいのは、エージェンシーやデザインスタジオの価値はどこにあるのか? という問いである。


話は変わるが、僕は大学の論文で「サードウェーブコーヒーにおける消費者行動と文化的影響」をテーマに選んだほど、コーヒーカルチャーが大好きだ。この業界の変遷は、WEBデザインの進化と重なる部分があると個人的には思っている。スターバックスが登場し、コーヒーは「家の外で楽しむ(サードプレイス)」ものへと変化した。ブルーボトルや猿田彦といったブランドがローカルチェーン化し、「良いコーヒーとは何か?」という問いが広がった。その結果、個人ロースターやスペシャリティコーヒー文化が花開いた。WEB業界も同じだ。ノーコードツールの登場により、誰もが手軽にデザインを試せるようになった。そして今、より多くの人が「希少性のあるデザイン」や「ノーコードでは再現できない体験」の価値を理解し始めている。


ノーコードの普及により、WEBサイトの制作はますます手軽になった。しかし、エージェンシーの役割は単なる「サイト制作」ではない。ブランドがデジタル空間でどのように語られ、どのように体験されるべきか。ここにこそ、エージェンシーの介在価値があるのではないか。例えば、ECサイトを単なる販売プラットフォームではなく、ブランド体験の場にする。コンテンツ戦略、SNS運用、サイト設計を通じて、「ユーザーが自分に合った商品を見つけるプロセスを可視化する」「ブランドのストーリーを、視覚と体験を通じて伝える」「クリエイターやコミュニティを巻き込んだコンテンツを展開する」など。こうしたアプローチが、ブランドとユーザーの関係性を深め、結果的に収益の向上にもつながる。


ノーコードツールの普及で、WEB制作の単価は下がるかもしれない。けれど、「なぜこのサイトが必要なのか?」を突き詰め、「ブランドをどう体験させるか?」まで設計できる会社は、今後さらに価値を持つはずだ。ノーコードか?ゼロから作るか? 選択肢が増えた今、求められるのは「その先に何を生み出すのか」という視点なのかもしれない。

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