COLUMN #129 OMEDETO

Topic: ColumnWritten by Saburo Tanaka
2024/3/22
129

平均より多く人と会う仕事や生活をしている。


2024年現在、こと日本において、一定期間会っていなかった知人に会ったとき「久しぶり」などの挨拶のあとに発する言葉ランキングの圧倒的1位は「元気?」である。


実際にこれまでアントニオ猪木でもない相手から幾度となく元気かどうかを尋ねられてきたし、僕自身アントニオ猪木でもないのに何度も尋ねてきた。もちろんこの質問は相手の健康状態を真剣に計りたいという医学的見地や、それさえあれば何でもできると思っているボンバイエ的見地からくるものではない。ほとんど定型表現のようなもので、いわば挨拶とメイン会話の間の緩衝材だ。


「久しぶり。元気?」「元気だよ。そちらは?」「元気だよ」


複雑骨折などでよほど体が不調である場合を除いて、この1.5ラリーをどちらからともなく反射的に繰り出せば、そのあとにはスムーズな楽しい会話が待っている。


しかし、なんの変哲もないこのラリーに対して、お笑い芸人時代(僕はかつてお笑い芸人をやっていた。死ぬほど売れていなかったが。)に所持していた「人と違うことこそがエラい」という僕のかつてのキモ価値観がうずいてしまうのだ(せめてもの抗いとして、時折「まあ、元気やったり、元気じゃなかったり笑」と人と違うだけで誰も得しない返答をキメ、変な空気にした結果、相手の元気を奪ってきた)。


「元気?」の代替ワードを早急に用意する必要がある。熟慮の結果、今後は「おめでとう」と言っていこうと思う。特に相手に祝福するべきことが思い当たらなくても。


しばらく会っていなかった知人に会う。「久しぶり」のあとに「おめでとう」と声をかける。前回会った時以降に相手が結婚していたり、子供ができていたり、何かしらで入賞していたり、セ・リーグのホームラン王になっていたりすれば、こちらがそれを把握していなくても祝福のフレーズはピッタリとハマり、よく知ってくれてるねってな調子で「ありがとう」と返ってくる。


祝福されるようなことが思い当たらなくても、いざ「おめでとう」と放たれると、もしかするとこの前の仕事がうまくいったことかなとか、隣人と仲直りできたことかなとか、昨日ガリガリくんが当たったことかなとか、かさぶたをキレイに剥がせたことかなとか何かしら祝われる理由を探し、当てはめ、やはり「ありがとう」と返すのではなかろうか。


何より「おめでとう」と言われて嫌な気になる人間は少ない(変な気持ちになる人間や、変な人間だと思ってくる人間は少なくないだろうが)。元気がなくても、おめでとうがあればそこそこできる。


しばらく会っていない、そこのあなた。次に会ったとき僕は「おめでとう」と声をかけるし、是非僕にもそう言ってきてほしい。そのときに祝福されることが、かさぶたをキレイに剥がせたことにはならないよう日々精進していこう。

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