COLUMN #117 天命反転 MIDORI.so

Topic: ColumnWritten by Reigo Tanaka
2023/12/8
117

4年ぶりに三鷹天命反転住宅にやってきた。ここは、芸術家/建築家の荒川修作+マドリン・ギンズによる、世界で最初に完成した「死なないための住宅」である。


入った瞬間から、身体がただごとではないことを感じる。地面はボコボコし、平らではない。壁は曲がり、部屋は円形であり、明かりをつけるのにも、背筋と手をかなり伸ばす。パッと開こうが、ゆっくり開こうが、いつでも14の鮮やかな色たちが目に入ってくる。声は反響し、自分より遅れてやってくる。


「人間は死なないんだ」と語った肝心の荒川修作も、2010年に亡くなってしまったし、「死なない」ということが何を指すのか、その明確な答えが用意されているわけではない。ただ少なくとも「このままいけば死なないのでは?」と疑う気持ちになるほど、刹那に立ち上がる新しい自分に気づいてはその度に驚いている。


この住宅にいると、マレーシアボルネオ島の森の中に暮らす狩猟採集民プナンを思い出す。私が彼らと暮らしたときも、違和感の連続でこれまでとは全く異なる自分が立ち上がる感覚がしたのを覚えている。裸足で森の中を歩き回るその足の裏の感触、寝っ転がると小屋の丸い木があたりじわじわとくる背中の痛み、プナンの優しさと鋭さを持ち合わすなんともいえない目線、それら全てが暫定的な新しい自分を生成していったような気がした。


私がMIDORI.soを通して、やりたいことは次の2つである。


実際に死なない場をつくる。多様な人が相互に助け合える関係性があり、最悪、困ったらこうしたらいいや、という選択肢が常にある状態にする。食が中心にあり、そう簡単には死ねないようにする。

「死なないのでは?」と思うくらい、日々新しい自分が生成される場にする。そのために、細かい日常生活レベルで、身体感覚レベルで、違和感が常に連続するようにする。


「死なない」と言うことほど、馬鹿げていることはないのかもしれない。でもその一方で、これほど前向きな営みはないとも思う。「天命反転 MIDORI.so」死ぬ前にこの死なないシェアオフィス構想を実現したい。

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