COLUMN #109 東京、好きですか?嫌いですか?

Topic: ColumnWritten by Kayoko Hashi
2023/10/13
109

「私、いったい東京で何してんだろう」

いつだったか、地方から都内の自宅に一週間ぶりに戻った際のことだ。部屋の片隅に生けたドウダンツツジが寂しそうにしていて、心底げんなりした。なぜ私は青フラーマーケットでわざわざ一本2,000円も払って部屋に緑を飾っているのか。自然の中に入れば緑なんて死ぬほどあるのに。もちろん無料で。


新型コロナの流行に陰りが見えてきた昨年から、食の生産者や移住者を訪ねて地方へ旅をすることが増えてきた。東京を離れ、各地へ赴くたびに感じるのは、圧倒的な「本物感」だ。どこへ行っても、土地に根を張り、地に足の着いた生活をしている人たちに出会い、圧倒される。自然と向き合い農業に勤しむ人、動物の命と向き合い猟をする人、口だけでなく足を使って地方創生に挑む人。そして、ただ在る自然。そこには、土地で積み重ねた時間がつくる本物としての迫力がある。


一度圧倒的な本物たちに出会うと、だんだん東京での暮らしが虚しく思えてくる。ちょっといい花瓶に、ちょっといい感じの枝物を生けて、「暮らしを楽しんでいる」なんて思っちゃってるのは、ファンション暮らし野郎なのだ。本当の自然と寄り添う暮らしは、きっともっと泥臭い。東京にあるものなんて、全部記号に過ぎない、自分がやってることなんて全部ファッションなんだ!・・・と、こんな風に考えていると、心底げんなりしてしまう。


そんな中、都市の暮らしを見つめ直すきっかけになったのが、MIDORI.so Bakuroyokoyamaの屋上で始めた都市養蜂の取り組みだった。春から初夏にかけて、毎週巣箱を観察していると、ハチミツがどんどん集まっていく様を見ることができた。ハチミツが集まるということは、MIDORI.soの周辺にミツバチが蜜を集めてこれるだけの花々が咲いているということだ。都会のどこにそんな花が?


私の目にはコンクリートのビルしか見えていなかったが、あらためて「蜜源がある」と思って街を眺めてみると、実は街路樹にも花が咲いていたり、植木鉢がちょこちょこ置いてあったり、意外にも街の中に小さな自然がたくさんあることに気づく。その自然を文字通り「味わえる」のが、都市養蜂のハチミツだった。馬喰横山産の百花蜜(いろいろな花から集めたハチミツ)を舐めた時、「なんだ、ここにも本物があったじゃないか」と思った。だって、誰かがここに木を植えなければ、誰かがここに植木鉢を置かなければ、このハチミツは生まれていない。この街に生きる人間の営みを、ミツバチが集めてきてくれたように思えた。


結局、場所はどこだってよくて、何かにコミットする熱量や時間が本物をつくるのだと思う。東京にも本物はたくさんあって、それが見えないのは、自分が何にもコミットできていないからかもしれないし、見ようとしていなかっただけなのかもしれない。ミツバチたちに、そんなことを教えてもらった気がする。


そんな馬喰横山産の夏蜜を巣箱から採蜜するイベントを行う。
来てくれた人が、この街を、東京を、好きだなと思える日になったらいいなと思う。

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