COLUMN #103 My Summer Vacation

Topic: ColumnWritten by akane dono
2023/9/1
103

知らないお店が増えても、足取りは変わらない。頭で覚えてなくても、通い慣れた道は足が知ってる。地元ってそんなもんかと思いながら、夏休みに私はデザインを学んだ母校へ向かった。


駅から15分ほど離れた学校はお盆明けでほぼ生徒も先生もいない。事務室に挨拶をして職員室を目指す。当たり前だが当時の先生はほぼおらず「ご自由にどうぞ」という感じで見学をした。


今回訪れた目的は特にない。ただ何となく当時の空気感を思い出したくなったのかもしれないし、甲子園の見過ぎかもしれない。そんなことを思いながらとにかく古い校舎を散策する。床が軋む音すらも変わらない。アナログな時計の音だけが響く蒸し暑い部屋はデッサンやB1の木製パネルと対峙した日がそのまま思い出せそうなくらいだった。1番長い時間を過ごした実習室には、「ウィリアム・モリス」の肖像画が今でも飾られていた。校庭の二宮金次郎と同じように、彼がそこにいるのは私たちにとってごく自然なことだった。近代デザインの父と呼ばれるモリスは、産業革命の大量生産、大量消費に対し、生活の中への芸術的美しさと手仕事の大切さを謳った思想家でありデザイナーだ。その考えが色濃く残る授業はアナログな手作業が多いだけでなく、つくる過程やできたものの意味や美しさについて考える事が多かった。


そのおかげか、それがきっかけなのか、美しさにはきっと意味があると今も思う。

そこに花が置かれる意味、そこに照明が向けられた意味、何故美しいと感じるのか、その理由を探してしまう。


モリスの肖像画を記念撮影し、実習室を出る。美しさを考えるようになったきっかけがここだと、その気付きを忘れたくなかったからだ。スタジオ、暗室、シルクスタジオ、木工室、製図室、デッサン室各教室を巡りながら当時の授業を思い出し、美しさに対する思考と作業を何度も繰り返すことが今の私のベースにあるんだと感じた。


先生にお礼を伝え、帰りの電車でモリスの半生を調べ直した。産業革命期に急速に発展した工業化は環境を汚染するだけではなく、当時のクラフトマンから職を奪い、それによってできた安価な粗悪品は人の心から豊かさを奪っていった。今の世の中も近い状況なのかもしれない。それでもきっと美しいものは変わらない。その理由は頭では分からなくても、感覚は知ってる。そして美しい空間が豊かさにつながっていることはMIDORI.soで知った。


拠点の雰囲気に合わせてセレクトされた花を手入れし、コーヒーを淹れ、キッチンカウンターで談笑している光景を見るのが好きだ。その美しさの理由はなんだろう。答えはまだ明確には見つかってないけど、ここが心地いいのは知ってる。居場所だなぁとしみじみ思いながら夏休みと別れを告げた。

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