COLUMN #41 SIGHT SITES STUDIO

きたる5月27日(金)から、SIGHT SITE STUDIO 1st Collectionの展示会が行われる。
私がこのプロジェクトに参加することになったのは、去年の8月。それまで、普通の会社員だった。下町にあるメリヤス(カットソー・ニットなど機械で編む生地のこと)のOEM会社で、自社ブランドの企画営業をしていた。
勤めて2年経った頃、週5・定時で働く環境や会社へのやり切れない不満を語らう毎日に嫌気が差していた。そして、繁忙期が終盤に差し掛かった頃、私は退職すると会社に告げた。退職をすると言ってからの数ヶ月は、すごく早かった。自分の中で何かが弾けたように、色んな場所に出掛けて色んな人に会って、たくさんの事を吸収した気がする。
MIDORI.soと出会ったのも、ちょうどこの頃。アップサイクルに特化したブランドをMIDORI.soから出すという話で、服を作れる人を探しているという事だった。最初は、ほんの興味本位で中目黒に話を聞きに行ってみたものの、そこに集まる人や雰囲気、プロジェクトの内容など、自分にとってとても刺激的に感じた。
ただ、プロジェクトの話を最初に聞いた時は、わくわくと同時に不安が襲った。なぜかというと、第一弾として着物を再利用するということだったからだ。着物を使った服を作っているブランドは、いくつかあるけれどどれもエレガントな雰囲気で自分達よりも割と上の層に向けられたものが多く、言うなれば一目見て着物だなと感じるものが多い。自分の中で着物を扱うと、そういう型にはまったものになるのではないかという懸念があった。中には、まだ着られる綺麗な着物にハサミを入れるなんてと蔑む人もいるかもしれない。簡単にいうと、扱うのが面倒だと思っていたからだ。
通常量産されている洋服は、デザインからパターンを引き、生地が選定され、量産分の生地と共に工場へと納品され、裁断、縫製される。この後、検品された商品が各ショップやECに並ぶわけだが、こう説明してみても洋服の工程は多く感じる。
わたしたちの服の始まりは、去年の夏に遡る。埼玉県の古着倉庫へ仲間と共に、買付けに向かった。そこには、信じられない量の服が積み重なっていた。巨大なトレーから、使えそうな着物を自分たちの手で一着一着選んだ。時代を感じさせない、というよりもこんなクールなテキスタイルがあったのだと思わされる着物の数々に、正直驚いた。ただ、それと共にこれが数十年前まで普段着とされていたのに、洋服が誕生したことで行き場を失っているという現実。
私たちは、約100着の着物を手に入れそれらを解体できる個人の方に依頼し、解体して生地に戻してもらった。その間に洋服のパターンを完成させ、工場を探した。今回私たちがデザインした洋服は、一着一着デザインが違うためいわば量産ができない洋服で、工場からは生地の配置等全て指示して貰えば縫製はできるが、裁断は全て自分達でやるのが条件だった。おそらく、量産で効率重視の工場からしたら、この様な依頼は通常ノーだっただろう。しかし、このプロジェクトの内容を説明したら、興味を持って承諾してくれた。
私たちは、3月から計65着の裁断に取り掛かった。この裁断が、今回の生産の中で一番の山場だったと思う。約3週間、スタジオに来ては自分達で作った生地スウォッチ(洋服のデザインに生地の指示をまとめたもの)に沿って身頃、袖、襟、など一着ずつ自分達で黙々と裁断した。工場に出す納期前は、スタジオで夜な夜な作業に明け暮れ、心が折れそうになる時も何度もあった。それでも、このプロジェクトに参加してくれた人たちと、仲間の存在が必ず形になるんだ、と背中を押してくれた。
そして、工場から無事に商品が上がった後、MIDORI.so Nakameguro でルック撮影をした。洋服を作っていて、感動する瞬間はいくつかあるけれど、この撮影もそのうちの一つだったと思う。当初思っていた、着物を使った洋服を作るなら固定概念みたいなもの全て崩したい。それが叶った瞬間だったと思う。
展示会の日が近づくにつれ、見に来てくれた方にどのように伝えられるのかをここ最近ずっと考えていた。こうやってコラムを書いては見たものの、言葉で全てを伝えることはやはりすごく難しい。でも、これを読んで少しでも何かを感じてくれたのであれば、来週27日金曜日から始まるSIGHT SITE STUDIOの展示会で、実際に作った洋服を見に来て欲しい。28日に展示会と合わせて開催されるアップサイクルをテーマにしたマーケット「We market (&think) here」でも、「どうつくるか」に着目したものづくりを実感できるだろう。
展示会で並ぶ服たちは通常の服の工程とは全く違う作り方でてきているため、より多くの人がこのプロジェクトに関わり、膨大な時間を経て形になっている。この取り組みが、全ての人たちに理解されなくとも100人の内数人が、このプロジェクトによってものの見方や考え方を見直すきっかけになってくれたらと、心の底から願っている。
MIDORI.so Newsletter: