INTERVIEW We Work Here case #25 "『酒屋万流』という言葉に呼応する、個性を生み出す仕事について"

Topic: InterviewWritten by Yuko Nakayama
2020/7/15
Kei Fujieda

みどり荘中目黒メンバーの藤枝慶さんは、広告代理店やデザインファームで戦略プランナーとして働いていた経験を活かし、現在はコンセプトやアイデア提案に限らず、ファシリテーションやワークショップを通じて、企業の理念、新規ビジネスやサービスを形作ることにも力を注いでいる。企業の「個性」を見出すためには、本質的なものを突き詰める執念がなければならない。揺るがないものを掴むために、藤枝さんが日々どんなことに重きを置きながら仕事をしているのか。藤枝さんの「働く」についてインタビューをした。

Interview / Text / Photo Yuko Nakayama

Edit Miho Koshiba, Moe Ishibashi


2019年に万流 (バンリュウ) という会社を立ち上げました。企業の方々と新しい事業や商品やサービスなどを作るプロジェクトや、企業理念の刷新や立上げなどを行っています。広く言えば、どれも個性づくりをお手伝いする仕事だと思っています」

「関わり方は2つあって、自分がプランナーとしてアイディアを出すという場合もあれば、関わる人たちの意見や想いを引き出す場合もあります。引き出す場合には、自分が仲介役となってワークショップなどの対話の場を設けて、一緒になって考えていきます。肩書きはブランドストラテジスト、ファシリテーターと名乗っています。個性づくりの触媒のような存在でありたいと思っています」

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藤枝さんの仕事には、企業理念の設計、新しい事業や商品のプランニング、マーケティング戦略などがあり、広告的なアイデアを出す要素とファシリテーション的な想いを引き出す要素を混合させていくスタイル。どんなバックグラウンドがあっていまの状況にたどり着いたのか聞いてみた。

「これまでにも定性調査を行ってきたのでインタビューの設計やモデレーションなどもやってきましたが、ファシリテーションやワークショップ設計も1つの大事な職能となりました。ファシリテーションというのは、対話や発想を促す触媒となること。触媒というのは、化学反応を早める物質のことをいいますが、大事にしたいのはできる限り透明でいることです」

「自分の存在など意識されず、対話や議論が活性化するととても嬉しいなと思っています。あくまでアイデアのコントロール権限を発想者が持つので、この気持ちは広告的分野に居続けるとなかなか意識できなかったことでした。でもファシリテーションでは、参加された方が自分が作った実感を得ることが大事です。そのためにも、できる限り参加されている方のいまの気持ちに気付くこと。コントロールすることと手放すことのバランスをとること。それらを意識しながら様々なプロジェクトを進めています」


大学生の頃に出会った本をきっかけに、誰かが生み出したアイデアによって見る人の意識を変えたり、軸となるコンセプトをつくったりする企画することに興味を持つようになったという。

「広告業に行きたいというきっかけになったのは、大手広告会社ご出身の方が書かれた『コンセプトメイキング』という本でした。概念的な書籍だったのですが、カタカナ用語のコンセプトのことを物事のヘソなんて表現していたり、各社の事業やサービスのコンセプトが書かれていて、こういう一言から生まれてるのかと思ったりしていました。今ではまた違う定義をもっているんですが、その一言が実感をもって手で掴める感覚があるか、腹に落ちる感覚があるかどうかは今もやっぱり気にしています」

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大学院卒業後は、大学院時代の先輩の縁でWieden+Kennedy2011年頃から身を寄せるようになった。アシスタント時代を経て、戦略プランナーとしてブランドや生活者の声に耳を傾け、核となる個性を引き出すことに面白みを見出す。

「当時の戦略プランナーという仕事はとてもおもしろかったですね。お客さんから『こういう広告を作りたいです』とうお題を受けて、様々なリサーチを行った上で本当に現状のターゲットで合っているのか、ターゲットは本当は何を考えているのか、どういうメッセージだったら相手に届くのかなど、コピーやクリエイティブになる手前の核となる戦略やコンセプトを作っていました」


「もっと特徴を端的に言うと、戦略プランナーの仕事の根幹は声を聴き出す仕事と言ってよかった。Wieden+Kennedyでは『ブランドボイス』と呼んでいたんですが、真実の声を探し当てるリサーチやディスカッションに重きを置いていて、いろいろな声を聞く機会がありました。ブランドの声を直接お聞きしたり、時代の声を想像したり、生活者の声にならない声を聞く。そうするなかでふいに金言が出てくることや、ふいに気づきが降りてくることがありました。その原石のようなものを戦略性も絡めながら凝縮してクリエイティブチームに渡すとき、時に見たこともないものが生まれることがありました。その経験を何度か経験できたことは自分の中の宝物です。声を聞くこと、凝縮することは、いまの仕事の核にもなっているかもしれません。企業の個性を考えるにあたって大切なことは、企業やそのブランドの声を様々な方向から聞いていくこと。それは普通に聞いているだけでは辿り着けなくて、場合によって驚かれるような質問もする必要がありました」

その後、デザインファームを経てファシリテーションという経験を積んでの仕事のスタイルに幅が広がったという。

「これまでにも定性調査を行ってきたのでインタビューの設計やモデレーションなどもやってきましたが、ファシリテーションやワークショップ設計も1つの大事な職能となりました。ファシリテーションというのは、対話や発想を促す触媒となること。触媒というのは、化学反応を早める物質のことをいいますが、大事にしたいのはできる限り透明でいること。自分の存在など意識されず、対話や議論が活性化するととても嬉しいなと思っています。あくまでアイデアのコントロール権限を発想者が持つので、この気持ちは広告的分野に居続けるとなかなか意識できなかったことでした。でもファシリテーションでは、参加された方が自分が作った実感を得ることが大事です。そのためにも、できる限り参加されている方のいまの気持ちに気付くこと。コントロールすることと、手放すことのバランスをとること。それらを意識しながら様々なプロジェクトを進めています」

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商品やサービスや時には事業を企業の方々と一緒に考える段階から携われる仕事をしたいと思い始めた藤枝さんは、デザインファームでビジネスやサービスデザインなどの経験を積み、そして2018年にフリーランスとなり、のちに株式会社万流を設立する。「万流」という名前の由来について聞いてみた。

「『酒屋万流』という酒蔵で使われていたとされる言葉が由来なんです。ある時、酒蔵は製造方法も味もどんどん均質化されてしまいかけたとき、酒蔵で働く人々はそれを危惧して、それぞれの製法、それぞれの飲み方、それぞれの売り方があっていいはずだよねという合言葉や掛け声を生んだそうなんです。それが『酒屋万流』。僕はブランド作りを行う仕事と、この言葉の目指す世界が近いと感じて、企業やチームやプロジェクトなど個性がたくさん生まれる世の中になるといいなと思ってこの名をお借りしています。とはいえ現実には、個性がたくさん生まれるというのはお互いにとって異質なものが多く生まれるということでもある。異分野を肯定しあえることもまた大事なように思っています」

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広告業界にいた頃から現在に至るまで藤枝さんのお客さんの業種は幅が広い。様々なお客さんと仕事をしてきた藤枝さんにとって働くとは?

「やったことがない新しいことをやること。新しいことをやることで、新しい人と繋がるし、新しい何かが成し遂げられる。同じことをやっていても必ず新しさってあると思っています。そういう意味だと常に新しくなっている気がするんです。0から1はもちろん新しいけれど、11.01でも新しい。常にちょっとずつ工夫したり、やっていないことをやってみたりしています。お客さんに対しても同じ資料や同じ提案書は出さないです。少しだけでも何かを必ず更新しますし、そうありたいです」

「仕事は楽しいことだらけではないですよね。しんどさの先に楽しさがあって、たぶん登山のようなしんどさと楽しさに似ている。登っていると霧がたちこめて向かう先が分からなくなることもあれば、たまに霧が晴れて絶景が見えたり、ピークにたどり着いたりする。これをお客さんや仲間と共に味わえるのは本当にいいものですよね。ちなみに、嘘をついてしんどくないって言うことも違う気がします。ポジティブに遊ぶように働きたいという気持ちは変わらないですが、それはほぼ理想。現実は一歩一歩、しっかりと山を登っている気持ちです」

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仕事をする上で大切にしていることは。

「全体感をちゃんと持つこと。そして軸を持つことですかね。何のためにやっているのか、その目的を明解にしたいと考えています。現在地と目的地をはっきりとさせれば、目的地に向かうにはルートAだけでなく、ルートBもあるんだとわかるし、雨が降っていたらルートBにしたほうがいいという判断もできる。でも、これは当たり前のことかもしれません。特に大事なのは何のためにやっているかがしっかりと腹落ちすること。自分たちの中にある大事なものを常に意識しやすくなったとき、目線を上げてくれて遠くを見据えられるようになったり、一歩目を踏み出しやすくなったりするはず。その瞬間をいつも目撃していたいです」

「『コンセプトはサーチライトである』という言葉があるんです。今までこっちの光が当たっていたけど、別の角度から光を当ててみる。コンセプトを作るときは、AではなくBであるとか、AなのにBって視点で考えることが多いですね。世の中に出ていく新しいものには、肯定と否定の両方が織り交ぜられているのかもしれません。Teslaだって、Wiiだってその視点を持って作られている気がします」


ブランドに寄り添い、誰よりもブランドのことを考えながらも、自分自身はその会社の従業員ではない。藤枝さんは自身の立ち位置、仕事についてどう考えているのか。

「第三者の代表として、一緒に仕事をしているつもりです。ある程度の大きな組織だったら、組織全体を俯瞰している部署もあると思いますけど、事業やビジネスの部分と広告やクリエイティブ部分を両方見れる立ち位置の人は案外少ないんじゃないかと思ったりはしています。最近は、もっと会社のことを知りたいと思っていて半分は言い過ぎでも1/31/4は社内の人間だと思えるようになりたいと思います」

「理念や組織の考え方を変えるためのワークショップをやったり、事業や商品を作るためのコンセプトや戦略を作ったり、正直何を仕事にしているのかというのを一言で言葉にすることは難しいですね。でも、少しくらい分かりにくくても良いと思っています。でも、会社単位や商品や事業などの個性づくりを手伝っていることは確かに言えることだと思います」

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最後にみどり荘とは

「緩いのに緩くない人がいること。スタンスもあるけど緩みがある。それでいて、秩序が乱れている訳ではない。みんなそれぞれ仕事のスタンスや信念があるけど、それを主張してこない。でもいいものを作っている。そういう人たちがふわふわと漂っている感じがみどり荘にはあります」


藤枝

Brand Strategist / Facilitator

株式会社 万流 代表。同志社大学文学部英文学科卒業、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修了。クリエイティブエージェンシー、Wieden + Kennedy Tokyoの戦略プランナーとして、スポーツ・食品・航空・宿泊などのブランドコミュニケーションの戦略立案やコンセプト開発、生活者を深く洞察するリサーチプロジェクトを経験。その後、戦略デザインファームBIOTOPEの立上げ期から参画。新領域ブランドの企画、コンセプト開発、超長期の社会構想、組織内のクリエイティビティ向上などのプロジェクトなどに従事。フリーランスを経て、2019年に万流を設立。




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