INTERVIEW We Work Here case #21 “ポジティブな大人の世界でいいものを作る

Topic: InterviewWritten by Miho Koshiba
2020/2/13
Yuki Higaki

形のあるものないもの、デザインにはさまざまな形が存在する。一人でデザインをすることもあれば、何人かの人々でデザインすることもある。自分だけでは辿り着けないものを作るためには、一緒に作る相手の声に耳を傾け、何が自分達にとって良いものなのかを考えていく。その過程の中で、自身の価値観が変わっていくことを楽しむ。彼女のデザインは、自分と相手とのコミュニケーションに重きを置いている。

檜垣 有希さんは、書籍、雑誌、カタログなど紙媒体を主に扱うエディトリアルデザイナーだ。本が大好きだった彼女の幼い頃の記憶は、多くの時間を経ても色褪せること無く、今こうして本という一つのモノをデザインしている。エディトリアルデザインは、ただ単純に言葉や写真を並べるだけではない。文字のかたち、写真や絵の並び、紙の質感、構造を通じて、ページをめくる人々が何を感じるのか。感覚と情報を結びつけ、どのような見せ方をしてデザインに落とし込んでいくのか。中目黒メンバー、エディトリアルデザイナーの檜垣 有希さんにインタビューした。


「エディトリアルデザインは、写真、イラスト、文章など、たくさんの情報を整えてまとめる。そして本、雑誌、冊子などの一つのモノにする。断片的な見せ方ももちろんありますが、映画のようにストーリーがあり、それぞれの情報をどう表現して、どう見せていくか。内容にあわせた見せ方を編集さんと一緒に考えデザインを進めていきます。ページをめくる順番が必ず出てくるので、めくっていく中で読み手の感情が変化していく面白さがエディトリアルのデザインにはあるんだと思います」

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幼い頃から小説は1日で読み切ってしまうほど、本を読むことが好きだった。生まれ育った広島の街にある図書館に、週に一度本を借りに足繁く通った。絵を描くことも好きだった。その好奇心が転じ、アートに関わる仕事としてキュレーター(学芸員)を目指し、東京の美術大学に通うことになる。

「お母さんの自転車の後ろに乗りながらよく本を読んでいました。クラスの男の子にその様子を見られて、恥ずかしくなってやめたんですが(笑)。小学生の頃はネットを見なかったので、オススメや流行りの本もわからなかった。本の見た目やこの人の本が面白かったという感覚を元に、図書館で本を選んでいました。本を読むか、外で遊び回るか、食べるか、寝るか。本を読むから真面目というわけでもなく、日常の中で読むことが普通でした」

「絵を描くことも好きだったんですけど、姉の方が絵が上手だった。だから絵を描くというよりは、別の方法でアートに関われることはないかと、キュレーターや修復師の道を模索していました。大学の時に、友人達と展示を行うことになり、キャプションやDMなど展示に必要なものを用意することになったんです。今思えばデザイナーの友達に頼めばよかったんですが、お金もなかったので自分でデザインしたり、紙を選んだりしていたら文字の表情や紙の質感などの違いって面白いなと思い、デザインに興味を持ち始めました」

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何かをデザインすることの奥深さ。文字の表情や紙の質感。学生時代に知ったその体験を元にデザインの魅力に取り憑かれ、独学でデザインを勉強し始める。ただ自分の興味のあることがどの職業に結びついているのかわからず、大学を卒業しても就職はしなかった。

「デザインを勉強している友人から技術的なことを教えてもらったり、大学で開かれてるデザインの授業に潜り込み、独学でデザインを学び始めました。気づいたらキュレーターや修復師になりたかったことなんて忘れてました(笑)。かっこいいなと思える美術やデザインの表現を見たり、周りで制作をしている友人達と話していると、自分でもチャレンジしてみたくなったんです。だけど、チャレンジしてみても変なものができたり、上手くいかないなということの繰り返しでした」

「リクルートスーツを着て面接を受ければ受けるほど、やりたいことと離れていくような気がしたし、自分の次の居場所をどうやって見つけたらいいのか全然わからなかった。大学を卒業し、社会と自分を結びつけるものがなくなり、肩書きが何もない人間になった瞬間、とても不安になりました。今まで中学、高校、大学では、学生という身分だったので自分を保てていたんだと思います」

卒業の半年後、大学時代の先生の紹介でエディトリアルの事務所に入ることになる。社会との繋がりを見出せる居場所を見つけたものの、デザインに対しての知識や経験の浅さから自信が持てなかった。死にものぐるいでスキルを磨く。

「デザインはずっと独学でやっていたので、事務所で働いている人達には敵わないかもしれないという引け目がありました。だから、死ぬほど頑張らないといけないと思い、事務所にいる間はできるだけ失敗できることは失敗しようと心に決めて、夢中で頑張りました。エディトリアルの考え方や技術的なことを学びましたし、誌面越しに見ていた、カメラマンさん、編集さん、イラストレーターさん、ライターさん、スタイリストさんなど、たくさんの憧れの人に出会いました」

「大変なこともありましたが、今辞めたらまた何もない自分に戻ってしまう。独立するために働き続けました。5年半後に事務所を辞めて、フリーランスとしてどう働こうかなと思っていた時に、夫の仕事の都合で初めて海外で暮らすことになりました。ロンドンのデザイン事務所で働く人たちの話を聞き、フリーランスと会社員が同等の立場で働いている現場を見て、働き方は一つじゃないんだなと気づきました」

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最近はエディトリアル以外に、ロゴのデザインやお店のブランディングなど仕事の幅が広がってきている。檜垣さんにとって働くとは。

「働くってまだよくわからない(笑)。働くというよりは大人が夢中で遊んでいるという感じです。つらいことはもちろんあるけれど、自分の周りのカメラマンさん、イラストレーターさん、ライターさん、編集さんも、好きだからその仕事をやっている人たちが多い。いい意味で遊んでいるという感覚。そういう遊び心がある人たちと働くと自分の想像を超えた面白いものが出来て、本当にワクワクします。ポジティブな大人の世界でいいものを作って、それがもっとに世の中に溢れたらいいと思っています」

「一般的に仕事ができる人って、スケジューリングや情報をさばいて時間内に成果を出す人のイメージが強いかもしれないけど、私の中で仕事ができる人は、自分のやりたいことを現実的なモノに落とし込んでいく力がある人。実現するまでの時間が早いんですよね。私もそういう風になりたいと思っていますが、まだまだです。目の前のことに必死です(笑)」

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最後にみどり荘とは。

「人と出会える場所。自分だけでは出会えなかった人と出会える場所。不思議な場所です」


檜垣有希

Editorial Designer

アートディレクター、エディトリアルデザイナー。広島県広島市出身。武蔵野美術大学卒業後、都内のデザイン事務所を経て、書籍、カタログ、雑誌を中心に活動中。



-好きな書籍を教えてください。

TORSO SHINICHI KANEKO PHOTOGRAPHS / 金子親一

「何なのかよくわからない形やラインの写真が、延々と載ってる写真集。形のどこを面白いと思って写真を撮っているのかを知るのが面白い。単純に綺麗だったり格好良かったり、美しかったらいいよねという世界で一冊が構成されている。行き詰まった時に見ると、これでいいんだなと思えます」

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Typologie: The Wine Bottle / Collections Typographie

「ロンドンのジャスパーモリソンのショップで見つけた本。これも永遠とワインボトルを集めた本なんですが、面白い。誰かが意図的に集めたものを羅列するだけで、その人の偏愛っぷりが浮き彫りになる感じ。どこの国にも自分と似たようなことに興味を持っている人がいると思うだけで楽しくなります」

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LogoArchive Extra Issue 1-5 / LogoArchive

「製本が面白く、本の構造が自由です。手を使って紙を折りながら構造を考えたんだろうなという気がします。パソコンを触るだけでは面白いものは作れないし、それを思い出させてくれるzineです。£5。」





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