INTERVIEW We Work Here case#18 “誰と組むかで、自分が心地いいか否か

Topic: InterviewWritten by Miho Koshiba
2019/11/11
Sayoko Tsukamoto

若さゆえ、ある種の美しさを追い求め、自身の身体を傷つけていたことを、その痛みを持ってして、彼女は身体中で感じ取った。そして、身体の歪みを「食」を介して乗り越え、身体と心の豊かさを知る。その喜びを知った彼女は自らの実体験を元に、自分を取り巻く社会を変えていくため、一人の表現者として仲間とともに伝えていく。

塚本紗代子さんは、保育園の0才から2才までの給食の献立コンサルタント、ファーマーズマーケット関連の各種イベント企画・オーガナイザー、ケータリングなど食を中心とした仕事を生業としている。新しく設立予定の会社 tumugi LABOでは、料理教室やワークショップなどの体験やオンラインを通して、食の価値観を様々な視点で発信している。彼女がなぜ職業に「食」を選び、食の価値観を言葉と体験を通して発信しているのか。表参道メンバー料理研究家塚本紗代子さんをインタビュー。


「やっていることを言ったらものすごく多ジャンルになるんですけれども、自分がやりたいことを仕事にしているという点では、全て軸は同じです。教育と言ったらおこがましいかもしれませんが、食を通して価値観を『伝える』『発信する』ことをやっていきたいと思っています。メディアという形でただ単に情報を発信するだけではなく、自分たちの暮らしの中に取り入れ、生活がよくなるというところまで導けるような発信者になりたいと思っています」

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紗代子さんのベースとなる考え方は「食養生」。「食べたものがその人の身体を作る」という考え方に基づく自然療法だ。自分たちが口にする食べ物が一体どんな人によって、どんな場所で作られているのか。そのプロセスに対する意識に彼女は重きを置く。

「スーパーで普通に買い物をしていたら、食べる野菜もお米も袋に入って売られて買ってはいるけれども、流通という仕組みに飲まれどういう風に作り手が作り、その土地がどうなっているのかが結局見えないんです。例えば保育園の給食の場合、アレルギーの子がすごく増えています。最近では常温でも腐らない赤ちゃんの液体ミルクが開発され、パッケージの裏の成分表を見ると、豆乳でもよく使われている植物性油脂が主成分です。カロリーや栄養成分は母乳と一緒なのかもしれないですが、全く違うものだと思っています。母乳というのは、赤ちゃんが生まれるとお母さんの血液がホルモンによって母乳に変わります。お母さんが体内に持っている免疫機能が、腸内細菌含めて全て母乳から出るんです。牛のミルクを元に粉ミルクが作られたりしていますが、牛だって本当は妊娠していないときにミルクは出ないんです。毎日毎日牛乳が出るのはある意味異常で、ホルモン剤を打ち、妊娠をしている錯覚でお乳が出るようになっています。そういう食品の裏側を知ることはとても大切なことだと思っています。そもそも身体に良い悪いの問題よりかは、それってすごく不自然なことで、そのようなことを続けていったら、牛も人も地球もどうなってしまうのか。ファーマーズマーケットにいると、そういった観点を持ってものづくりをされている方々が多いし、生産者の現場を見ることができ、彼らのクラフトマンシップや情熱に感動します。そういう人々と会えることはとても貴重ですし、だからファーマーズマーケットが好きで、事務局メンバーとして参加させてもらっています」


「ちょっとオタクなのかもしれないんですが、探求するのが好きなんです。なぜ?って思うんですよ。なぜ切り干し大根や玄米が身体にいいのか。科学的な根拠はないけれども、違う角度から見てみる。例えば栄養価だけではなく東洋医学など伝統的な理論や、占星術などと絡めて見るとなるほどとなるわけです。シュタイナー教育で知られているルドルフ・シュタイナーのバイオダイナミック農法も、種を栽培する時に、月のリズムとかけ合わせると発芽率が上がるとか。料理を作るだけではなく、そういう本を買って調べるのが好きなんです。調べていて面白いなと感じたことは、例えば太陽と月が一番離れる満月の時に、力のバランス的に一番物が浮きやすいんです。浮足が立つ感じ。逆に新月には頭痛が起こりやすい人は、内にこもりやすい。引力が地球にかかっているからです。この世の不思議を知る。宇宙っておもしろいと思います。実は、私はもともと理系なんです。獣医さんになりたかったんですが、遺伝子や染色体や解剖学などの生命科学には熱中できたんですが、数学ができなかったんです()

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紗代子さんが食の世界へと進むきっかけとなったのは、高校時代に極端なダイエットをしたことにより、身体に不調が生じた実体験が元だ。身長154cmに対し体重は35kg。その細い身体に周囲の若い人々は羨み、その憧れを背負い彼女は食べることへの恐怖心を抱くようになった。そして大学生の時に、ゆくゆくは彼女の師匠となる中美恵さんの本に出会う。

「高校生の頃にいきなりダイエットをして、ベジタリアンではないけれど草食動物のようになり、大学に入って急にお肉やお酒を食べ、飲み始め、運動もしなくなっていた。生理が止まったり、冷え性が不調として現れました。精神的にも不安定でイライラしやすかったです。食べたら気休めとして、下剤やサプリメントを飲んだり。大学に行ったら可愛い子も多かったので、田舎者もビクビクしますよね。入ったサークルに溶け込む、同化しなければならないと学生の頃は思ったりしていました」


「中美恵さんの『食べるエステ』という本に出会い、『食べる=太る』としか思っていなかった自分には衝撃でした。切り干し大根は脂肪を分解してくれるとか、クランベリージュースは硬くなった筋肉をスリムにするとか。手当たり次第自分の身体で人体実験をした結果、一番すごいと思ったのがマクロビオティックや食養生という考え方でした。中美恵先生のレッスンに通い始めて、それまでホルモン剤を飲まないと生理が来なかったのに復活したんです。医食同源と言うけれども、食事がある意味薬の役割になるという事実を自分が身を持って体験しました」

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マクロビオティックに出会い、自らの身体も精神のバランスも取り戻し、その実体験を元に食の道に進みたいと思ったものの卒業後は、社会で生き抜く力をつけようとベンチャー企業にて営業として働く。その後はコスメキッチンの美容販売員を経て、師匠のアシスタントとして食の世界に携わり始める。そして自分の進むべき方向性を徐々に定めていく。

「マクロビオティックをやっている会社というのはなかなかなく、フリーでやっている人が多いんです。師匠も自分で教室を開いているから、就職という感覚がありませんでした。自分でお店やレッスンをやるにしても、社会に出た経験がなかったし、トークやコミュニケーションが取れなかったり、交渉力がないと生きていけないと思い、期間を決めて大学の頃にインターンをしていた会社で営業職として働きました」

「ようやく自分の本当にやりたい仕事に近づこうと思い、師匠のところでアシスタントとして働き始めました。新しく出すお店の店長をやらないかという話をもらい、お店では料理も作って、店長業務もやっていろいろと大変でした。いい素材を使って、1,000円でランチを出そうとすると難しいんです。妥協しないと出せない。原価はギリギリ。どんなに美味しくてもいい食材は出せないし、食べに来てくれるお客さんたちが自分自身で作ることができれば、原価の価格で美味しく身体に良いものが食べられるんじゃないかと。家庭料理を作る人が増えて欲しいと思ったのも、飲食店をやったからなんです。運営をしていたカフェで使っていた野菜は、毎週末ファーマーズマーケットで仕入れをしていたのでファーマーズの運営チームとも仲良くなり、ファームツアーに参加させてもらっていました。カフェの店長を辞めてからは、引っ越先の家をアトリエにし、友人たちの紹介でケータリングをしたり、料理教室を開催したりしていました。今は飲食店の立ち上げや保育園の献立コンサルタントの話をいただき、お仕事をさせてもらっています。ファーマーズのコミュニティランチをやらせてもらったり、徐々にファーマーズマーケットの仕事が増えて、事務局メンバーとして正式に加わったのは今年の4月からです」

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自分が大切だと思う食の価値観を伝えるために、紗代子さんは仲間と一緒に新しく「tumugi LABO」という会社を立ち上げた。「tumugi」という言葉に込められた思いとは。

「『紡ぐ』という言葉が好きで、『結ぶ』だと一本と一本をくっつけるというイメージですが、『紡ぐ』とはいろいろな糸を手繰り寄せて、一つにまとめていくのでいろいろな人がいた上でいいものをみんなで見つけ出していく。昔のいい情報をたくさん取り入れて、今のライフスタイルに合うものを見つけてくラボです」

「自分と同じ感覚で暮らす人々が増えてくれたら、きっと自分を含めて暮らしが豊かになるのではないかと信じています。少しずつ変わってきてはいますが、まだまだスーパーやコンビニで買いたいと思うものが少ないと感じます。みんなの感覚が変われば、きっと環境にも自分たちの身体にも優しいものを増やしていけるのではないかと思っています」

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サヨコさんにとって働くとは?

「暮らしの一部です。普通の人の働く感覚って同じところに週5で出勤することだと思うんですが、そもそもそういう生活をしていないです。逆に言うと休暇はないけれども、遊びといえば遊び。自分のやりたいことしかやっていないですね」

仕事をする上で大切にしていることは?

「自分に嘘をつかないことです。誰と組むかは大事です。本当は乗り気ではないけれども、乗り気ではないという気持ちを無視してやるとか。誰と組むかで、自分が心地いいか否か。そうでないと無理して頑張りたいと思えないです。絶対に誰かのせいにしてしまいます」

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これからしていきたいこととは?

「現在tumugi LABOには10人くらい関わっているんですが、面白いと思ってくれる人、お母さんになる人や女の子など、tumugi LABOを一つのコミュニティにしていきたいです。もちろん男の人もよいのですが、結局ご飯を作るのは女の人が多いと思います。日用品、洗剤、ゴミ袋を買うにしても、何を買うのかってお母さんによります。どんな化粧品を使うかもそうですし、それを見て子供は育ち、旦那さんもそれを見ています。いい流れを作る、大きく派生させていこう、社会を変えたいと思ったら、一番小さな社会は家族です。その家族の中で暮らしに一番重心があるのは、女の人が比較的男の人より多いかと思います。できれば同世代から下の世代に対して、伝えていきたいです」

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最後にみどり荘とは?

「みどり荘以外のシェアオフィスの選択肢がなかったです。メンバーになる前から、コミュニティランチのケータリングを月1で担当させてもらっていたので、どんな方たちが集まって来ているかも知っていましたし、メンバーのみなさんの雰囲気がとても好きでした。居心地がいいですよね。無機質ではない。みどり荘は有機質。どこか温かく、システマティックではなく、人間味があるからいいんです」


Sayoko Tsukamoto

Food Researcher

10代の頃から自然療法に興味を持ち、マクロビオティックや植物療法を学ぶ。 オーガニックコスメの仕事に携わりながら、 料理の師匠「中美恵」のアシスタントを経験。 表参道にカフェを立ち上げ、運営までを担い、その後、独立。 暮らしのレシピ研究所 "tumugiLABO"を主宰し、料理教室やワークショップを開催。 レシピ提供や商品開発、飲食店や保育園給食のプロデュースなど、幅広く活動をしている。 また、国際中医薬膳師を目指し勉強中。




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