INTERVIEW We Work Here case#16 “「裏切りたくない」と思うくらいシンプルにお茶農家さんたちのことが好きなんです

Topic: InterviewWritten by Miho Koshiba
2019/9/5
Ai Hasegawa

湧き出る泉のようにエネルギーが溢れている。弾けるような瑞々しいエネルギー。根無し草のように、彼女はふわふわと浮きどこかへ向かっている。彼女が根を下ろす場所に、彼女は自身のエネルギーを全力で注ぐ。興味、好奇心、向学心の先に「好きなヒトがいるのか、好きなコトがあるのか」。彼女の原動力の源はまさにそれだ。柔かな笑顔の裏には、筋の通った一本の芯が見える。

20代の頃はたくさん自分の好きなことをしろ」と、どこかの年上の人に言われた気がするけれども、まさにその言葉のごとく生きている若者の一人が彼女だ。現在25歳の彼女はお茶の生産者と消費者をつなぐイベントやサービスを仲間とともに企画している。彼女がお茶の世界に目覚めるまでの経緯と彼女が考える今自分がすべきことについて。表参道メンバー ティー・キュレーターの長谷川愛さんをインタビュー。


「お茶周りの仕事をしています。国連大学前で『Tea For Peace』というお茶のイベントをやっていたり、914日、15日開催のTea For Peaceは今回で5回目を迎えます。そして、今年の11月からはお茶のサブスクリプションを始めます。そのサブスクリプションも『Tea for peace』派生ではあるんですけど、ずっとやりたかったことで、農家さんのお茶と農家さんにまつわる冊子が定期購入で届くものです。もう取材は始めていて、冊子も作ったりしています」

「あとは、個人的にはお茶会をイベントでやっています。よく想像されがちな茶道の茶会ではないんですけど、設えを作ってお客さんに来てもらい、どういうお茶でという話をしながら、お茶を淹れて飲んでもらう。中国茶会という形に近い。これまで名古屋や岐阜の仕事が多くて、知り合いの人からお茶関連の展示をやるから、そこで茶器を使ったお茶会をして欲しいと話をもらったりしています」


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大学在学中、海外に住んでみたいという漠然とした思いから、オーストラリア・メルボルンに1年間、ワーキングホリデーでオーストラリア人が経営するカフェのキッチンで働く。カフェやコーヒーの街として知られているメルボルンではあるが、当時の彼女はコーヒーが有名な街だと何も知らない上に、元々コーヒーが好きではなかったそうだ。

「元々コーヒーは飲めなかったんですけど、オーストラリアで飲めるようになりました。日本に帰って来て、コーヒーを飲んでみたらやっぱり不味くて、オーストラリアで飲んでいたようなコーヒーを名古屋で探していたら、TRUNK COFFEEというお店を見つけた。いざTRUNK COFFEEでコーヒーを飲んでみたら、『これだこれだ!』って」

「大学卒業後は海外でフラフラしようと考えていたので、手に職をつけたかったんです。そうしたら、海外にいけると()。オーストラリアの友達が、コーヒーのバリスタとしてしっかり給料をもらっていることを知っていたので仕事になるとみていました。だから、大学を卒業したらバリスタとして仕事をしながら、いろいろな海外でワーホリをしようと思っていました」

オーストラリアのコーヒーの味を求めて出会ったTRUNK COFFEEで働き始め、コーヒーの味の奥深さにますます虜になっていったそうだ。なぜ彼女がそこまでコーヒーにのめり込んでいったのか。

「飲みやすいんですけど、少し酸っぱくって香りが良く、パクチーとか癖のあるものにハマるのと似た感覚だったと思います。きっかけはそこのコーヒーが好きだと思ったことでしたが、仕事として始めた理由は別でした。もしかしたら、コーヒーを知っていくことが私にとって必要なことなのかもしれない。どんどんTRUNK COFFEEで働いているうちに、それまで何かをちゃんと丁寧に味わうことをやっていなかったなと気付かされました。コーヒーのバリスタの仕事は、カップの中から味を見つけなければいけない。『これはストーンフルーツのピーチみたいな味がして、アフターにはフラワーの香りが残るね』って。最初は全部同じ味がするなと思いながら、それを鍛えていきました。色々な味を知らないとコーヒーから味を見つけ出せないので、これまで見向きもしなかったナッツやフルーツを食べることが学びでした。『ブラジルナッツなんて聞いたことがなかったけど、ちょっとピーナッツに似た味がするな」とか。自分のパレットの色が増えていく感じ。これまで何も思わずに飲んでいたものや食べていたものから、『これはこういう味がする』と探す作業はすごく楽しかったです」

「自分の生き方が、それまでに比べてすごく豊かになった気がします。コーヒーのために自分の知っている味を増やすという目的が常にあって、知らないものを見つけるということが面白いと思うようになりました。別にコーヒーだけでなくても、この世にある食べ物全部に共通することですし、それこそ料理を食べた時に『なんでこの料理こんなに美味しんだろう?』『『あ、このハーブとこの野菜を合わせるとこんな風になるんだ』と想像するのって薀蓄くさいんですけど、それが楽しいです。それにハマって、バリスタをなんだかんだ3年やりました」

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バリスタとして働いている間、エストニアの友人のコーヒー屋で1週間ゲストバリスタをしたことがあるそうだ。日本から来たバリスタに興味津々のエストニアの人々は、コーヒーではなく、カフェのメニューの中にあった抹茶を求めたそうだ。その経験をきっかけに愛さんはお茶の世界に足を踏み入れていく。

「高校生の頃は食べていた名ばかりの茶道部員でしたが、お茶を点てることはなんとなくできました()。それをきっかけに、海外で今後バリスタとしてコーヒーを続けるなら、お茶の知識を持ち合わせていれば、日本人ならではの付加価値が生まれると思いました。エストニアから帰って日本茶の勉強をしてる中で、長崎の佐世保で開催される全国お茶祭りという品評会の存在を知り、行ってみました。そこで出会った農家さんの一人が宮崎茶房さん。お茶って生産まで全て見えるし、生産がこうなっているからこういう味になるんだというのが見えるのが面白いなって思っていたんですけれども、その宮崎茶房さんに出会ったら、人がまず面白かった。それまでのお茶を作っている人のイメージって、カチカチのマインドでトラディショナルな感じだったので、あんなファンキーなおじさんたちがいるのかと。宮崎茶房さんに畑を見せてもらい、テンションも上がり『私もうコーヒーやめる!』となりました()

「現実問題として、お茶って選び方がよくわからない。。全部パッケージが同じで、どこのお茶屋さんのどこの農家のお茶で、特級茶とか、普通茶とか、天皇杯受賞とか書いてありますけど、何がどう違うか書かれていないんです。自分がお茶に興味を持った時に、何を基準に選んでいいのかもさっぱりわからないですし、例えば自分がこのお茶が好きだなと思っても、それがなんのお茶かわからないので、お茶に対して学習もできない。問題しかない。やることいっぱいある感じがワクワクしました。需要がまだまだある。味の違いはもちろんあるので、それを食べ物で例えたり、こういうお茶で、ああいうお茶でと売る時にこちら側から伝えてあげれば、お客さんは選べるようになる。何のお茶を飲んでいるかわかるようになれば、学習できる。『ああ、こういうお茶が好きなんだ』って。お茶には色々な可能性がある。農家さんにもそういう話をしていたら盛り上がってくれて。他の農家さんとその繋がりでいけたりして、人も面白いし、お茶も面白いわ、最高って」

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愛さんは、オーストラリア人の友人と一緒に自分のお茶のブランドを立ち上げている。ブランド名は「norm」。そのブランド名に込めた思いを聞いてみた。

「『norm』は日本語で「濃霧」濃い霧という意味。特に有機栽培の場合、畑が山間地にあることが多い。山の畑って気温差も湿度もあるので、朝起きた時にはもう視界がないくらい霧が立ち込めていて、それがすごく綺麗なんです。その霧の中にいるときの感情がすごく好きです。すごく気持ちいいのに、ちょっと不安になる。この話は気持ち悪いからあまりしないんですけど()。濃い霧が好きだから『norm』」

「あとはもう少しお茶が普通のものになるように。これは無料で出てくるイメージの強いお茶に対して新しい価値づけをしようとしている流れと、矛盾する部分もあるんですが。必ずしも茶道や何かスペシャルなものである必要はないけれど、日常的に好きなお茶を選んだり、淹れたりする時間を楽しめるようになればいいなと思っています。『ちゃんとお茶を飲もう』『お茶会に参加しよう』となると少し敷居が高くて緊張してしまうようなイメージがあります。それをNORMALnorm。英語にするとboringなイメージがあるのであまり言わないんですけど、日常レベルで楽しめるものになったらいいねという思いがあります」

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愛さんにとって働くとは?

「よくある回答なんですけど、本当に働くことと好きなことをしていて、遊んでいることとの差がない。働いているという感覚がないです。最近思うのは、好きのエネルギーはどこかで果てる可能性がある、もしくは薄くなっていく可能性もあるので、そうなった時にも今の好きのエネルギーを使って作り上げた成果物が長続きするようにある程度システム化することが大切だなと。結局お金が動かないと事象としても続かない。私だけではなく、色々な人に対して。そのシステムを作らないと、ただの自己満足で終わると最近気づきました。だから、最近は『働く』ということを少し意識して、お金のことも若干気にするようにし始めました」


「コーヒーからお茶にシフトしたように、これまで好きなことは変わってきています。でも今までの中で今が一番自由に楽しんでいます。今はこれだと思っているけれども、どうなるかわからないじゃないですか。でも、家族を持つのと似ていて、子供をちゃんとこれから育てていくような、お茶のことも若干責任感は生まれていると思っています。農家さんに『なんか面白いことしよう!』と言って盛り上げているのに、私が急に『ちょっと飽きたんでやめます』って言ったら、ショック受ける人とかこれまでの恩を返せない人が出てきてしまう。ある種金銭的なものではないけれども、責任が生まれている。それをちゃんと返せるようにするのは、お金が伴なう社会性や経済性のある、何かに向けていかないとただ私が好きなことをしているだけじゃ、本当に遊んでいるだけなので、働くという意味でいうと、それは意識しなければいけないと思っています。『裏切りたくない』と思うくらい、シンプルにお茶農家さんたちのことが好きなんです」


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仕事をする上で大切にしていることは?

「自分がテンションが上がるかどうか。モチベーションというか「めっちゃいいじゃん!それ楽しい!」と乗り出してやりたくなるもの。ときめくことをやっていないと成果に出てしまうんです()。それは対象がものである必要はなく、一緒にやる人と気が合って、『盛り上げたいすね!』とテンションが上がるか。必ずしもコンテンツということではなくて。そこで自分が「おー!」となる誰かか何かがないといけない」

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最後にみどり荘とは?

「好き。いろんな人がいて、いつもオープンだし、家感がすごい。くつろぎすぎてしまうので、たまに仕事しに違うところに行きます()。仕事もアメーバみたいに起こるじゃない?そもそも自分たちの働き方が、会社員何何部ではなくて、やるプロジェクトごとに人がくっついている感じ。そういう働き方をする人には、すごくいい場所だと思います」


Ai Hasegawa

Tea curator

Tea For PeaceFarmer's Market主催イベント)ディレクター。オウンブランドnormとして国内外での茶葉の販売や、茶会、イベントを通して日本茶の新しい愉しみ方を提案する。春には畑に入り茶摘みをするなど、季節によって住む場所や仕事が移ろう生き方を模索中。


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