INTERVIEW We Work Here case#35 「建物に息吹を、人と人がつながる不動産の未来」

MIDORI.so永田町メンバーの黒田さん、小林さん、中北さんは、今年の2月に約2年温めてきた新規事業TOMORE(トモア):共創ライフ開発プロジェクトを立ち上げた野村不動産ホールディングスの新規事業開発チームのメンバーだ。新しい不動産会社の未来を見据えて、従来の住宅提供だけではない「住む」と「働く」を融合させたスペースをこれから2年ほどの年月をかけて作り上げていく。彼らがどんな未来を描き、新しい事業を立ち上げようとしたのか。チームリーダーである黒田さんを中心に、その想いについて聞いてみた。
[ Interview ]Saburo Tanaka
[ Text / Photo ] Yuko Nakayama
[ Edit ] Miho Koshiba
2021.04.27
黒田:
元々私たち3人はそれぞれ異なるセクションで働いていましたが、私が代表を務めた従業員組合(会社の労働組合)で開催した有志のワークショップを通じて小林さんと知り合い、また同期の中北さんを誘って3人で新規事業を立ち上げることにしました。最初はそれぞれ自分の仕事がある中、有志で集まって活動を始め、少しずつ事業アイディアを固めていきました。そして、昨年の秋から社内の経営層に向けて事業提案を作成して説得し続けた結果、今年の2月に会社として事業化が決定しました。4月から組織体制も形作られ、これから事業を具現化すべく活動を始めたところです。

ー 黒田さんたちの新規事業TOMOREは、会社から与えられたミッションとしてではなく、自分たち自らが考え、提案し説得して生まれた現場発信の新しい事業だ。事業をスタートさせる根底にあった背景とはどのようなものがあったのか。
黒田:
私たち不動産会社は、立地がある程度良好な場所であれば、1度建物を建てれば比較的安定した収益が得られやすいビジネスモデルなので、今まで大きな変革をもたらす必要性はなかったのではないかと感じています。そんな中、2018年頃のWeWork(グローバル展開するコワーキングスペース運営会社)の日本進出は、私にとって衝撃でした。というのも、建物を建てるだけでなく、その建物の中でお客さまに体験価値を提供するというビジネスモデルだったからです。お客さまと接点を持ちながら新たなビジネス、提供価値を生み出していくプレイヤー。これこそ、これからの不動産会社のあるべき姿だと確信し、同時に危機感を覚えました。私たち不動産会社は、建物を作るハード面は得意だけれど、体験価値を提供するソフト面はまだまだ得意分野ではありません。これから都市の人口減少、人口分散が続いていけば、従来型の不動産ビジネスモデルを強みとする会社はどうなるのか。10年後も今までと同じように住居やオフィスを形作ってお客さまに提供し続けたとしても、果たしてどんな未来が待ち受けているんだろうか、という不安に駆られました。そのような不安を感じながらも、段々と長い目で会社のあるべき姿を考えるようになり、何かに挑戦したいと思う気持ちが高まっていきました。
ー 約2年の歳月をかけ着々と事業の礎を築いてきたTOMORE。野村不動産にとって「新しい」とされる事業とはどのようなものなのか。
黒田:
従来型の不動産事業のように建物を建て、お客さまに売却したりお貸しして終わりではなく、これからは「住む」と「働く」空間がシームレスになり、融合された空間を作り上げていくことが不動産の未来だと考えています。そこで、暮らし、働く人々が繋がりを持ち、コミュニティを醸成していきながら、人々の成長に資するようなサービスを提供する新しい事業、それが「TOMORE(トモア)」です。
COVID-19を例に挙げると、当然のように存在していた歴史ある大企業でさえも存続がままならない状況となり、企業の絶対的安定は覆されました。同時に、人々のワーキングスタイルの多様化が急速に進み、従来のように1つのコミュニティに属しているだけでは、人との繋がりがなかなか生み出せない状況がより露呈されてきたと思います。そのような世の中において、これから必要とされるスキルは、与えられたミッションを正確に遂行するだけではなく、そこからはみ出すようなアクションをすることだと感じています。つまり、個々人に求められるスキルはより複雑化し、高度化し、能動的に自らのキャリアを作っていかなければ社会にも取り残されていく世界です。もちろん以前より自分自身のキャリアを能動的に築いている人々も増えてはいますが、日本にはそのような人たちを支える生活インフラがまだまだ整っていないと感じています。ビジネスとプライベートの境界が曖昧な働き方、ワークアズライフという価値観を軸に能動的に活動されている人々にとって、1番重要なものはネットワーク(人脈と交流)だと考えています。人との繋がりを広げていくことで、新しい考え方や価値観を享受し、自らの働き方や生き方に変化をもたらしていく。そして、その変化が仕事のステップアップにもつながっていくはずです。そのようなインフラをハード、ソフト両面で提供していきたいという思いに至ったわけです。

ー 小林さんは住宅営業部で「PROUD」のマンションや戸建てを企画・販売、中北さんは賃貸マンション運用、投資家営業企画、不動産ファンド運営など幅広く業務に関わるマルチな経験を積んできた。黒田さんは、いわゆる不動産開発事業に関わることなく、不動産の資産運用セクション(不動産ファンド事業)で働いていた。異なる境遇で働いてきた3人だが、新しいことにチャレンジする好奇心は旺盛。3人それぞれのTOMORE に対する思いとは。
小林:
COVID-19によって仕事もライフスタイルも楽しんでいる人々が減ってきており、世の中の笑顔の量も減ってきていると感じます。私の知り合いでも孤独を感じている人や、優秀な方でも不安になったり、心に今まで以上に負荷がかかっている人も増えています。なるべく少しでもコミュニケーションをするように心がけていますが、それだけだと自分の周囲の人しか救えません。世の中にはきっと同じような人々が多くいるはずです。COVID-19によって人と会う機会が減り、コミュニケーションや人的ネットワークが足りてないことが1つの要因であるならば、TOMORE の事業を通して1人でも多くの人々に笑顔をもたらしたいと思っています。
中北:
賃貸マンション事業は参入が比較的しやすい事業なので、開発を行いやすいエリアであれば留まることなく建てられ続けられてきたという潮流があります。その結果、供給が需要を上回る形で、空室がより目立つようになりました。コロナ禍で更に拍車がかかった印象です。この環境下において、建物や場所をどう作り込み、その場に関わる人々と一緒にどのような新しい体験を生み出していくのか。それがこれから私たちがTOMOREを通じて、新しく提供していくべき価値だと思っています。
黒田:
小林さんや中北さんが言うように、お客さまに対して新たな価値を提供したい、当社の未来に資する新たな事業を創出したい。そうした想いに加えて、これだけ自由にやりたいことを社内でやらせてもらっているので、何としても TOMORE で 成果を出して会社に還元していきたい、という会社に対する強い責任感も持っています。また、私たちがこの事業を進めていくことで、他の社員も同じように何か新しいことに踏み出す火付け役になれたら嬉しいです。そういう意味で、若手の先頭に立つ者としてしっかりとこれから走らなければと意識しています。
ー TOMOREは今までの社内新規事業とどのような点で違うのだろうか。
小林:
不動産事業は1年以内に終わるものではく、数年単位のプロジェクトでかつ投資金額も大きい事業です。リスクが大きい分大きなミスができないので、基本的にマクロ情報を元に事業が始まるケースが大半です。例えばWe Workが出来たからシェアオフィスやサテライトオフィスを作ろう、オリンピックでインバウンド需要に耐えうるホテル数が足りないならばホテルを作ろうという発想になります。しかしTOMOREの事業は、様々な方にヒアリングをした声から生まれたアイディアなので従来の事業プロセスと異なります。
黒田:
不動産開発にはどうしても2、3年は必要です。その期間をかけて作り上げた事業が、当初想定していたお客さまの需要と合うかどうかは正直言って分からないところであり、それが不動産事業の難しいところ。そういう意味では、不動産業界はマクロ単位のトレンドに乗った事業展開が相応しいのだとは思います。とはいえ、これだけ不動産も大衆化、一般化したものが世の中に溢れてしまった中、誰に向けて尖らせていくべきか、これから慎重に考えていかなければいけない点だと思っています。
ー 新しい事業を始めるためには、自らの思いだけではなく、周囲の理解がつきもの。 TOMORE の事業化が決まるまでには、幾度とない周囲への説明、説得に力を注いだようだ。
黒田:
ステージによって大変さは違いましたが、経営層にいかに事業を納得してもらえるか、応援してもらえるかどうかがキモだと感じていました。経営層に納得してもらえなければ、どれだけいい事業を作っても事業化はできません。有難いことに我々に時間を割いて背中を押してくれる経営層の方々がおり、何度もかなりの時間をもらって議論して来れたことで、今に至ると強く感じています。
中北:
経営層に事業内容を納得してもらうことはとても大変でした。チームの中でもどうやってスピード感を持って事業を拡大させるのか、それともまずはスピードというよりも1棟目を確実にやり切るか、という両端の考えや迷いがある中で、たくさんの応援とアドバイスをいただきながら、ここまで進んでくることができました。

ー 周囲の理解と納得の上で成立したTOMORE。黒田さん、小林さん、中北さん、それぞれにとって働くとは何だろうか。
小林:
働くことを通じて「誰かを幸せにすること」です。以前は「自分」を主語にして物事を考えることが多かったのですが、その先にあるものは何かと考えた時に結局のところ「誰かを幸せにすること」に尽きると最近感じました。入社したての頃は同期の中でトップになりたい、大きな仕事をしたいとか思っていました。その後、プライベートで子供が生まれ、PROUD事業の販売責任者となってからは部下ができ、自然と「自分」が主語ではなく部下のために、と我を出すことが減りました。また、色々な人々と出会う中で、私の尊敬できる人々は皆「自分」が主語ではなくて、「誰か」のために動いている人たちが多いと気付かされたんです。
中北:
これまでは会社に行って働き、お金をもらい、家族もいますのでその中でいかにワークライフバランスを叶えられるかが重要でした。しかし、新規事業を通じて「働く」が自分の成長や新しい視野・視座が広がるツールであると考えるようになって、お金を得るための手段だけではなくなってきました。この当たりのマインドは、かなり変化しましたね。
黒田:
1番のアウトプットであり自己実現が「働く」ことだと思っています。新規事業を立ち上げる時に自分がやりたいことだけを事業にしても意味がないと痛感しました。誰にとっての価値提供なのか。そこがないとやる意義がなくなってしまいます。事業を通して、自分がやりたいことと社会に対して意味あることのために働くことが、僕にとっての自己実現であり「働く」です。

ー 最後に皆さんにとってMIDORI.soとは。
中北:とにかくびっくりしました。シェアオフィスと言えば、利便性が高く、キーボードをたたく音が聞こえるくらい静かな場所をイメージしていました。MIDORI.soのスゴい所は、皆さんが自分らしく過ごせる居心地のよさなんだと思います。まさかソファに座って働く自分なんて、数年前は想像したこともありませんでした。
小林:「人を大切にしている場所」だなと思いました。中北さんと一緒で私もまず最初は「こんな場所もあるのか」とびっくりしたと同時に、不思議な居心地の良さを感じました。それに加えて代表の小柴さん、CO(コミュニティ・オーガナイザー)のみなさん、MIDORI.soメンバーの方々の笑顔の量が全く他のシェアオフィスと違います。みなさんが楽しそうにコミュニケーションをしているシーンを見かけることがとても多いです。
黒田:オフィス空間で緩さを出している場所は、今まで見てきたシェアオフィスの中でもMIDORI.soが初めてでした。まさにビジネスライクではない、いい意味でのアットホームな緩さが醸し出されている空気感。私たちがこれからやろうとしているTOMORE事業は、住むと働くをどのように融合させていくかがポイントです。いわゆるオフィスの中に住む場所を一緒にしてしまうと息苦しくなると思います。ですから、この緩さを体現しているMDIORI.soとこれから一緒に事業を進めていく中で、同じ空間にいる人々がお互いを気遣いながら、語らい、笑い合う、人間らしい空気感を、これから作り上げていく場所で表現できていけたらなと思っています。
黒田翔太(KURODA SHOTA)
2010年に野村不動産入社。約11年間、国内外の不動産ファンド事業に従事。業務と並行し、2018年より同社従業員組合の副代表、代表を歴任し、会社との経済交渉及び組織風土改革に向けた交渉に従事。2019年より新規事業の検討を開始し、2021年2月に事業化決定。現在、TOMORE事業に100%コミットし、チームリーダーとして事業の具現化に向けた活動を推進中。
小林翔 (SYO KOBAYASHI)
2009年に野村不動産入社。入社来、「PROUD」ブランドの販売・企画、マーケティング、人材育成、デジタル化推進に従事。2019年より新規事業の検討を開始し、事業の具現化に向けた活動を推進中。
中北良佑 (RYOSUKE NAKAKITA)
2010年に野村不動産入社。入社来、投資家営業、年金投資一任業、不動産ファンド・CMBS運用、マンション販売、オフィスビル・商業施設・賃貸マンション・サービス型高齢者住宅の不動産運用等、多種な業務に従事。2019年より、新規事業の検討を開始し、事業の具現化に向けた活動を推進中。
MIDORI.so Newsletter: