INTERVIEW case#50 We Work HERE 「インディーの物語を伝えるストーリーテラー」

Topic: InterviewWritten by Yuko Nakayama, Miho Koshiba, At MIDORI.so Bakuroyokoyama
2023/12/10
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地元兵庫県豊岡で家業のアパレル2店舗を経営しながら、CIRCLE&LINEとして輸入卸事業を生業とする和田良太さん。CIRCLE&LINEでは、ロサンゼルス発のフレグランスブランドP.F.CANDLEをメインに、インディペンデント性の高いクラフトプロダクトを海外から輸入し、各セレクトショップに卸したり、バイヤー向けの展示会に出店やイベントでPOPUPや自社ECサイトで販売をしている。

海外留学ゼロ、サブカルチャーど真ん中の学生時代を歩んだ和田さんが、なぜ海外のクラフトプロダクトを販売するようになったのか。話をする中で、自身をふらふらと生きていると表現する和田さんではあるが、そうは言っても自分の指針を持って生き、自身も含め人それぞれが持つ「物語」を大切にしている、と感じる。クラフトプロダクトを通して、この世界のどこかで懸命に自分たちのやりたいことを表現する人々の物語を伝える和田さんの「働くとは?」

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兵庫県豊岡出身中学生の頃、自意識の向こう側の世界に興味を持つ脳科学に惹かれて医者を目指し猛勉強をする3の春の模試で東大医学部A判定を叩き出して燃え尽きるそこから成績は落ちる一途で、浪人京都の予備校寮に通うものの、近所の本屋や映画館に入り浸り、小説、漫画、映画話が尽きない日々を送る→→映画の世界に興味を持ち、映画批評のゼミがある横浜国立大学に入学映画研究部に所属し、先輩・友人に囲まれながらサブカルチャーの沼にハマるゼミOBの紹介で青山IDEE前のワゴン販売にて映画冊子を売り、IDEE周りの人たちと交流するカルチャーは好きだが仕事にできるイメージが湧かず、就職活動もうまくいかない地元に帰り家業であるアパレル店舗運営を始める年間4日の休み以外ひたすら働き続けて7年経過する→30歳を過ぎて、ふと20年後の未来を見据え、ビジョンもなく働き続けた現状に焦りを感じる地元の英会話教室で、外国人コミュニティに触れ、突如海外との繋がりが生まれる海外の友人たちと交流する中で、輸入卸事業に興味を持つアメリカのクラフトマーケットのインディペンデント性に惹かれる→CIRCLE&LINEとしてアメリカを中心にクラフトプロダクトを輸入卸、販売する

Interview & Writing : Yuko Nakayama
Photo : Takahiro Popi Yanakawa
Edit : Miho Koshiba


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大学生の頃から、ずっと何かしなければと思ってたんですよね。漫画によく出てくる、暗がりの向こうにいる人影が「お前は何かしたいんだろう。でも何もできてないじゃないか」と問いかけてきた。30歳を過ぎ、初めて自分と向き合った時、表向きは仕事はしているけれど、本当の意味でチャレンジをして来なかったことに気づきました。何かしなくてはいけないけれど、何も進められないという八方塞がりな状態は本当にしんどかったです。そんな状況を救ってくれたのが、地元の友人の紹介で知り合ったALT(外国語指導助手)の先生たちの存在でした。出会ってすぐにハウスウォーミングパーティーという引越しパーティーに招待され行ってみると、玄関の外まで靴が溢れかえるくらい人がいて、日本家屋の中でキャンドルが焚かれ、ダンスミュージックが流れている状況()。その雰囲気に萎縮している日本人の生徒さんに挨拶しつつ、僕の嗅覚は明らかに音が鳴り響く部屋に反応していました。襖を開け、先生を含めた海外の人々の輪の中に入っていき、音楽の話などで意気投合。その後も家に遊びに行ったり、飲みに行ったりするようになりました。だから、今の仕事のスタートは留学でもなく、地元で海外のネットワークにたまたま触れることができたから、アメリカ、オーストラリア、ニュージランド、カナダなどの人々との交友関係を持つことなのです。

ストーリーを伝える担い手になる

海外との仕事に興味を持った和田さんは、海外のクラウドファンディングで見つけた、日本に輸入されていない携帯のガジェットアイテムの輸入を始める。右も左も分からない中、マーケットリサーチや販路の確保、販売の仕方などを独学で学んでいったが、大量販売は性に合わなかった。もっと自分にあった規模感の商品は何かと調べていく中で出会ったのが、小規模な生産者のブランドを扱うアメリカのクラフトマーケットの存在だった。

初めてサンフランシスコのクラフトマーケットに友人たちと一緒に行った時、港の大きな倉庫に200ブースくらい並んでいて、それぞれのブースの人たちがとても生き生きしながら自分たちのブランドを売っていました。小さいブランドだけれど、みんな自分の人生、生活をかけて自信を持って商品について話している。個々のブースに魅力的なストーリーがあり、それに耳を傾ける人々がいる。自分の好きな世界がここにあると思いました。

マーケットにいる彼らの姿を見ていると、やっぱり一歩踏み出さなければいけないと感じました。他人の目ばかり気にしていないで、自分がやりたいことをやろうと。じゃあ、僕にできることは何かと考えた時、彼らのように自分のブランドを持って生き生きとしている人たちの存在を伝えることが自分の行動原理につながると思ったんです。自分は小さい頃から本や漫画など物語を読むことが好きだったので、色々な作り手の物語を伝えていき、日本で暮らす人たちの視野を広げられていけたら、世の中がもっと面白くなっていくはずだと思いました。僕も地元のALTの先生たちと出会ったことで、それまでの狭い世界を飛び越えて外の世界に触れることができました。それってものすごく重要なことだと思うんです。自分で物語を書かなくても、ビジネスの形で日本のマーケットに物語を届ける。1つの商品を通してその背景にある作り手のストーリーを感じてもらい、自分も何かチャレンジしてみたいと思う人が1人でも現れたら成功なんじゃないか。そう思ったのが、CIRCLE&LINEをスタートした経緯です。

どう言っていいかわからないのですが、ムーミンのスナフキンのようなイメージです。旅に出て自分が見てきたことを、帰ってきてみんなに伝える。そういうことが、自分にも合っていると感じますし、今のやりたいことに近いのかなと思います。あれが見たくてどこかに行くんじゃなくて、ふらふらしながら色々なものを見て、こんな場所にこんな人たちがいて、こんなものがあったよって伝えられるような人なのかなと。

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どれだけインディーであるかどうか

それぞれの作り手のストーリーが存在するクラフトマーケット。取引をしたいブランドに目星を付けてからマーケットに行く和田さんは、どんなブランドのストーリーを伝えたいと思うのか。

どれだけインディーであるかどうかだと思います。例えば、インディーバンドが好きな場合、彼ら/彼女らの魅力は、バックボーンと当然アウトプット。同時にこれから来そうだと思わせる「旬っぽい」感じも惹きつける要素だと思います。批評と言えば批評なんですよね。だんだんとこの仕事を突き詰めていくと、学生時代に映画研究部で映画にのめりこんでいた時と同じだと感じます。結局のところ、映画と同じでストーリーが大事なんです。自分が読み手として読んだ/観た時に、ストーリーを作る色々な要素に対してどれだけオリジナリティを感じられるか。そこに面白さがある。それは言語だったりビジュアルのセンスだったり、その辺が何となく自分が取引したいと思う要素になっています。単純に何かを真似ているものは、やりたいことは分かるけど、そこにオリジナルのストーリーを感じられません。だからモノづくりというものは、表現者のオリジナリティを、実際にあるかどうかは分からないですけど、自分がそれを感じられるかどうか。これが、僕がブランドを選ぶ決め手ですね。いや本当に偉そうな感じで、すみません。

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歩んだ道は、やがて1つの円になるのかもしれない

和田さんのMIDORI.soとの出会いは、MIDORI.so Bakuroyokoayma 1FのカフェParlorsのオーナー松本さんを通じて、たまたまオープニングレセプションに参加した時だった。大学時代に映画批評のゼミの先輩の紹介で青山IDÉE前でワゴン販売をしてから約20年の時を経て、IDÉE創業者黒崎輝男が作ったMIDORI.soメンバーになったという巡り合わせ。和田さんは、自分の人生がそもそもCIRCLE&LINEだと話す。

輸入ビジネスをやっていると、円と円が線で繋がっていく絵が浮かび上がるときがあります。日本と海外にはそれぞれ同時代を生きる人たちで成り立つローカルコミュニティ、つまり円が存在しますが、互いに繋がりがありません。けれども、僕が海外に行き仕事をすることで、海外のコミュニティは日本の文化などに触れることができ、円同士が線で結びつきます。それがCIRCLE&LINEのコンセプトに通じています。

僕自身、20年かけて動き回ってきて色々な円と繋がってきたつもりだけど、MIDORI.soに来てまた同じようなところに戻ってきてしまったと感じました()。真っ直ぐ歩いていると思っていたら、その道は実は1つの円としてそもそも繋がっていた。でも、時間は20年経過しているので、当時の僕と今の僕はまた違う。人生ってこういう円(縁)もあるんだなと、40歳にしてしみじみと感じます。

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和田さんにとって働くとは?

答えが出ないんですよね。結局どこにも就職したこともないですし、自分で歩き始めないと進んでいけないと気づいてから僕の仕事人生はスタートしています。だから、働くとは新しい世界を知れるということに近いのかなと思ってます。行ったことのない場所に行き、人と出会い、情報を得ることで、自分にしか見えないものがいっぱい見えてくる。海外に観光で行ったらただの観光客ですが、仕事を通して行けば、現地に住む彼らの内側をより知れて、本質的なところに近づけられる気がします。お仕事をもらってお金を稼いで家族を養って、社会の役に立つことを前提にした上で、概念的なところで言うと、働くとは、自分の中にはない新しいビジョンを常に見ることができるということなのかなと思っています。

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最後に和田さんにとってMIDORI.soとは?

海に浮かんでいるブイのような存在です。地方にいる自分にとっては東京に来た時の拠点。大きなベースではないけれど、渡り鳥のように動いている自分にとっては留まってちょっと休めるような場所です。一方で先ほどもお話しした通り、自分の人生の中では20年間海流に乗って回ってきて「あれ?ここ知っている!」と同じところに戻ってきた心境です。

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和田良太 | Ryota Wada

Importer

地元・但馬(兵庫北部)でのアパレル店運営と、輸入代理店事業を営んでいます。輸入事業では主にアメリカのローカルブランドをメインに、日本にまだない小規模ブランドをセレクトしています。東京での展示会出展や、各地のイベント出店を通して、ブランドを全国のバイヤー様に知っていただいたり、ユーザーの方々に直接ご案内しています。ブランドのストーリーに耳を傾けていただける瞬間が、何よりも楽しい時間です。2023年春より阪急うめだ本店にてコーナーストア「CIRCLE&LINE」も常設展開しています。ぜひお近くにお越しの際は、お立ち寄りください。

https://www.circleandline.jp/