INTERVIEW case#49 We Collaborate Here 「この場所で、この人々と探し続ける自分たちらしさ」

MIDORI.soは働く場所だ、と一概に言えない。もちろんシェアオフィスとして「働く」を主たる目的とすることが前提にあるが、よくよく考えれば、年齢や職能、国籍、主義主張が異なる人々が同じ空間に居合わせていること自体、相当面白い状況だ。黙々と働かなければいけない日もある一方、ふとした時に「他」を知ることに興味をそそられ、予期せぬ出来事や人々に出会うと、人生は思わぬ方向に転がっていく日もあるかもしれない(もちろん、いい意味で)。「働く」とは、パソコンの画面と向き合いながら、オンラインミーティングの向こう側の人々と話をしたり、来週のプレゼン資料を作成する以外に、もっと複雑で偶発的な豊かさがあることを、ここMIDORI.soでは体現していきたい。
時にはメンバー同士がコーヒーやビールを片手に「最近どう?」とちょっとソファに腰掛けて、お互いのビジネスの話、世の中で起きている出来事、遊びに行ったあの場所、この場所について語る風景が目に映る。まさに「働く」と「生きる」がマーブル状に混ざり合うことを許されている状況下だからこそ、1人の人間として目の前にいる相手を知り、お互いを理解し合い、気の知れた仲になった同士が、いつの間にか一緒に仕事をしていることもちらほら。今回も発見、MIDORI.soメンバー同士の仕事のコラボレーション。
〈 MEMBER 〉
✌️セキセイ興産株式会社 東京オフィス(以下、セキセイ) | オーダーメイド文具メーカー
…吉田有里(姉)・松倉育代(妹)
✌️Y+L Projects(以下、YL) | クリエイティブエージェンシー
…玉田曜一郎・有村皓
〈 WORK 〉

セキセイは2018年に、YLは2020年にMIDORI.soメンバーとなり、かつてのMIDORI.so Omotesando(2021年8月閉館)時代を経て、閉館と共にMIDORI.so Nagatachoへ移動。今年4月に初タッグを組み、セキセイのウェブサイトのリニューアルプロジェクトが始動した。リニューアルにかけた期間は約5ヶ月。そのウェブサイトが出来上がるまでのこだわりや思いについて、両者のインタビューを通して紹介していきたい。
Interview & Writing : Yuko Nakayama
Photo : Takahiro Popi Yanakawa
Edit : Miho Koshiba

肝はビジネス理解と情報設計
吉田有里(以下、有里):正直、私たちの間で自分達のウェブサイトは、友人や知人に紹介できるほど、誇れるものではありませんでした。仲良くしているYLにウェブサイトを新しく作ってもらいたいと思っていましたが、YLの過去の実績を見る限り、洒落たジャンルのものが多いですし、馬鹿にされて相手にされないかもしれないと思っていました(笑)。それでも、グローバルにクリエイティブを手がけているYLの目線で、50年以上も続く私たち老舗企業の良いところを見出してほしいという思いも強くありました。今回、それが叶って嬉しいです。
吉田育代(以下、育代):私たちが扱っている会社や学校向けの文具やアルバムなどはどちらかと言えば安定しているデザインなため、デザイン性に富んだYLの世界観との間にギャップを感じていました。デザイン性の高いものを創っている人がMIDORI.soに多いことはとても刺激的ではありますが、いざ自分たちの商品を世の中に伝えようとした時、どう伝えればいいのかと、いつも葛藤がありました。
玉田曜一郎(以下、玉田):きっかけは、有里さんが僕らのメンバーにウェブサイトを作りたいと相談してくれたところからですよね。正直に言いますが、実際にどういったビジネスをしているのか、ウェブサイトを見ても何をやっているのかが判断しづらかったです。セキセイという会社は文具を扱っているけれど、僕らが小学生の時に使っていたような文具もあれば、オリジナル商品としてのOEMもある。まずはどんなビジネスをしているのか、同じオフィスを使う者として興味がありました。
有村皓(以下、有村):その点で言えば、今回はビジネス理解と情報設計に1番時間をかけましたね。情報設計だけでも1.5ヶ月くらいはかかりました。玉田が言うように、元のウェブサイトは何を売りにしているのかが分かりませんでした。載せられる情報は全部載せる。けれど今後セキセイという会社は何を主軸にして売っていきたいのか。色々とビジネス理解を深めていくと、IPビジネスやアイドルやアニメキャラクターのグッズのアルバムやその他OEM商品も主軸としていることが分かりました。そこが強い会社というのをプッシュしたいと思い、売り出す商品として「アルバム」「バインダー」「クリップボード」「ファイル」の4つのカテゴリーに分けました。特に、今まで著作権の関係でウェブサイトに掲載できなかったサンプルをAdobe StockのAI生成画像などを利用して作成し、事例を見せることで、ビジネスの主軸と今後やりたいことをウェブサイト上で明確にしていきました。

サポーターとして寄り添う ー ウェブサイトの「らしさ」
玉田:ウェブサイトを作る時、そもそも相手のビジネス課題を見つけるところから入っていくべきだと僕たちは考えています。有里さんと話をしていて分かったことは、社員の方それぞれが営業をして、案件を持ってくること。言ってしまえば、属人化している。それはそれで素晴らしいことなんですけれども、もう少し負担を減らしてあげたいと思いました。僕たちの会社も営業を雇っていません。ウェブサイト経由である程度情報を吸い上げて、ポテンシャルのある案件が来るようにする。そこは「情報設計」に関わってくるところ。ブランディングの観点でどうやってその会社の「らしさ」を出していきながら、マーケティングの観点で広告費をかけなくても案件が来るようにするのか。ウェブサイトを作るにあたって、その2軸がとても重要なことですね。
有村:「らしさ」の話をすると、セキセイのお2人は寄り添う力に徹底していると感じました。ウェブサイトをデザイン性に富んだお洒落なものに変えて、お付き合いのあるクライアントを突き放すのではなく、一度立ち止まって、クライアントに配慮したサイトにしようとする意思がありました。クライアントがこれを見たらどう思うのか、そこまでの想像力を働かせるのが2人のパーソナリティであり、セキセイの「らしさ」であると思いました。
有里:確かに「寄り添う」というのが今回のウェブサイトのテーマでしたね。
有村:最初に仮で組んでいた会社のコピーが “クライアントではなくパートナーとして” だったんですが、有里さんがしっかりと「そのコピーは違うかもしれない」と言ってくれたことが、より深いビジネス理解と言葉の再定義に繋がっていったと思います。
有里:私自身は、クライアントからパートナーとして見られることは嬉しいんですが、クライアント自体は私たちのことをパートナーというより業者として捉えている方が多いと思ったんですよね。そう有村さんたちに伝えたら「サポーターはどうですか」と提案してもらって、パートナーからサポーターという言葉に変わりました。たかが言葉、されど言葉で、言葉ってとても大事だと思っています。
玉田:クライアントがいてこそ、ビジネスは成り立ちますもんね。自分たちが作りたいと思うものだけを作っていては、クライアントは離れていってしまう。僕たちもクリエイティブエージェンシーとして尖っていて斬新なものを作りたいという気持ちもありますが、まずはクライアントが何に悩み、どうしたいのか要望を聞くこと。そう考えると、仕事として作っているものは違っても、セキセイと僕たちもやっていることは同じなんだと気づきましたね。

情報が一人歩きしていく
玉田:実はウェブサイトを変えて1番変化を感じたのは僕たちも同じなんです。会社を設立してから2年目にウェブサイトを刷新し、新しいクライアントから仕事の案件や海外のクリエイターから僕たちのチームに入りたいという問い合わせが来るようになり、その変化を肌で感じていました。今回セキセイのウェブサイトには、僕たちのウェブサイトと同様にジャーナル(コラム)のぺージを設けています。記事の書き方には2通りあって、1つはブランディングとして、会社の考え方や想い、工場の良さ、そこで働く人々にフォーカスすることで、クライアントや社外の人にセキセイのことを知ってもらう記事。インナーブランディングとしても有効です。もう1つは、マーケティングとしてアルバムを作りたい人が「アルバム」と検索したら、問い合わせに繋がるような記事です。
有村:マーケティングとしてのウェブのSEOって、コンテンツをしっかりやらないと検索結果に上がってこないですからね。
玉田:ただ難しいのが、50年ほど歴史のある会社が、マーケティングだけにフォーカスした、要はセールストーク系の記事を書きすぎても、ウェブサイトがアンバランスになる可能性もあります。もちろん、見られる回数を増やしていくことは大切なんですが、ちゃんと「らしさ」が伝わるブランディングの記事も載せていけるように、そのバランスを一緒に考えていきたいです。
育代:私たちの頭の中ではウェブサイトを作るとなったら、情報が全て刷新されれば完成と勝手に考えていましたが、出来上がりが終わりではなく、自分たちの思いややりたいことを継続的に発信していくことの大切さをYLから教えてもらえました。扱っている商品が地味であればあるほど、洗練されている世界観に敷居を感じてしまっていましたが、今回彼らと一緒に仕事をして、見方を変えれば光を当てることができる。私たちだけでは突破できなかった新しい世界をYLと築くことができて嬉しいです。
有里:ライフステージの変化によって、私たちも今後何が起こるか分かりません。ただウェブサイト自体がブランディングとマーケティングの要素を兼ね備えていれば、私たちが営業をしなくても興味を持ってもらえるツールになる。これからも私たちが会社の売上を維持するためには、ウェブサイト自体が勝手に一人歩きをして、新しいビジネスチャンスが生まれる、というのが理想ですね。

MIDORI.soにいるからこそ
玉田:そもそもアルバムというプロダクトを作っていて、工場を持つ文具メーカーの2人がMIDORI.soメンバーであること自体が面白いですよね。でももし2人が別のシェアオフィスを借りて、今回と同様にウェブサイトを作っていたら、打ち合わせ中に出てくるアウトプットも変わって、また違うウェブサイトが出来上がっていたかもしれないと思うんです。様々なバックグラウンドを持った人々が集まり、良質なカオスを持つMIDORI.soに身を置いていること自体も、今のセキセイの「らしさ」につながっていると思うんです。
有村:そうかもしれないですね。MIDORI.soにいると、人と人同士が付き合っている感じがしますが、数字数字、売上を伸ばしましょう!という人が周りにいたら、ビジネスの仕方も違っていたかもしれない。イニシャルはいらないので、伸びた分だけパーセンテージでくださいなど(笑)。それはそれで別の成功をしていたかもしれないですよね。
有里:確かにMIDORI.soにいると、無理なく素直でいられる、ありのままで良いって思えますね。全てを受け入れて、自分たちが良いと思う答えを見つけて、アウトプットができる。まさに今の時代のクリエイティブに触れられた気がします。育代も、MIDORI.soのカルチャーのある雰囲気を好んでいます。今後、彼女がコラム部分を担当するので、MIDORI.soやメンバーから影響を受けながら、カルチャー度の高いウェブサイトとして充実させていけたら良いですし、私たち自身も売り上げを維持しつつ、新しいラインの商品制作に挑んだり、ウェブサイトと共に楽しく働いていきたいです。
セキセイ興産株式会社
Stationery Manufacturers
吉田有里 | Yuri Yoshida / 松倉育代 | Ikuyo Matsukura
1968年創業のオフィス用品や文具の製造・販売メーカー。大阪と東京に自社工場を持ち、MIDORI.so NAGATACHOにも東京オフィスを構えています。主に企業向けのオリジナルアルバムやファイル、バインダーなどのOEM製品を手がけています。
Y+L Projects
Creative Agency
玉田曜一郎 | Yoichiro Tamada | Creative Director / 有村皓 | Kou Arimura | Web Director
独立型クリエイティブエージェンシー。チーム構成はグローバルで、多言語に対応したクリエイターとコミュニケーターのハイブリッドな集合体。ビジネスデザイン、ブランディング、PR、マーケティング、プロモーション、映像制作、デザイン、クリエイティブ制作を得意とします。今年からはNYにも拠点ができました。