INTERVIEW case#48 We Collaborate Here ”重ね続ける美意識と、そこから生まれる自分らしさ

Written by Tamao Yamada, Miho Koshiba, At MIDORI.so Nagatacho
2023/8/21
SHOKEI

固定概念の中に生きるのではなく、自分の審美眼に従って生きること。自分が「何を美しいと思うか」という基準の元に積み重ねられた美意識は、自分らしさを作っていく。それは自身からもれ出し、いつの間にか生き様になっていく。そんな姿勢を彼女は様々な選択の中で身につけてきた。

現在、『shortcakes』の屋号で花の活動するSHOKEIさんは、自分の審美眼と見つめ合える場所としての花屋『浪漫花店』を営んでいる。彼女が大切にしたいのは、自身が何を感じていて、何を思っているかという人それぞれの思考そのもの。花の活動を始める物語と、花を通して届けたい想いとは。MIDORI.soにて、毎週花の生け込みを行うSHOKEIさんにインタビュー。

Interview / Text Tamao Yamada
Photo Takahiro POPI Yanakawa
Edit Miho Koshiba
2023.8.21


「現在、2つの屋号で花の仕事をしています。『shortcakes』として展示会の装飾やイベントのデコレーション、撮影の花のスタイリングなどのクライアントワークを、『浪漫花店』は花屋として花の小売や生け込みをしています。固定概念を持ってもらいたくないので、お店のコンセプトを特に決めていません。ただ、来てくださる方が花を通して自分の審美眼と向き合える場所にしたいと思っています。」

「今では結構当たり前の概念になってきていますが、ずっと前から私は、自分のものさしで物事を見ていこうよという想いを持っていました。例えば、ファッションは見た目だけではなく、自分が考えていることや想いの部分から現れてくるものだと思うのですが、それは服に限らず、食べるものや身の回りにおいて過ごすものなど、選ぶということそのものがファッションになっていくじゃないかなって。だから、その中に花も位置付けたいなと思っています。」

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高校生まではピアノ一筋。全国コンクールにも出場するなど、音楽の道に進むことを信じて疑わなかったが、ひょんなきっかけで理系の道に興味を持つ。周囲の反対を押し切り理系に転向し、高校卒業後は工学部の建築学科に進学。そして彼女はより自由な表現の世界へ。

「小さい頃からピアノを習っていて、ずっと音大を目指していました。そんなある日、理系の友達のオープンキャンパスにたまたまついて行ったら、そっちの道の方が面白いと思っちゃって。私がしていたクラシック音楽の勉強は、作曲された時代背景や作曲家の人生史などを元にして音色や演奏表現を解釈していくというものだったので、歴史をなぞっていく感覚が大きかったのですが、理系はその全く逆。未来のものを自由に作っていくというところに惹かれました。」

「大学では空間の概念について考えていて、その中でも私は、建築におけるハードではなくソフトの側面や広義的な意味での空間に興味を持っていました。ドレスを作ったり、インスタレーションアートを作って展示をしたり、意匠の研究室に入ってからは、卒業制作で、身体を纏う空間としてのドレスを作りました。みんなが模型を並べている中、私だけトルソーにドレスを着せてもっていって、工学部の中ではだいぶ異色だったと思います。笑」

大学卒業後はスタイリストのアシスタントとして働き始め、花のスタイリングを撮影現場で学んでいった。一人で任されたある現場を機に、新しい花の見せ方を知った彼女は、自身も花を使って表現する仕事をしたいと思い始める。そしてアシスタントを離れ、次に選んだ道は現代美術の大学院への進学だった。

「花が枯れていたので変えようと思っていたら、カメラマンの方がそのままでいいとおっしゃって。当時は、綺麗な状態を保ってこそ花の美しさだと考えていたので、そういう見せ方があるんだと、その現場で大きなインスピレーションをもらいました。その後、現代美術に進んだのは、表現するということに対して感覚的になってしまっているんじゃないかと思っていたからです。これまで色々制作はしていたけれど、いわゆる『アートっぽい』表現ではなく、しっかりと現代美術を突き詰めて、表現の本質を掴みたかった。自分の芯が欲しいと思ったのです。」

「私が捉える現代美術というものは、作品そのものよりも、その人がどういう思想を持っていて、どういう風に今まで歩んできたのかという思想そのもの。私はこれまで、最終的に出来上がる美しさやコンセプトの理論的な面白さをインスタレーションに落とし込んでいたのですが、現代美術の文脈では、どのような思想から作品が生まれたのかという部分を重視すると学びました。これがいまの自分の軸になっています。お店のコンセプトを決めていないというのも、こんな場所だと知っている上で行くのと、知らないで自分の感性に委ねて行くというのとでは入ってくるものが違うと思うのですが、そのような感覚や提示の仕方は現代美術を勉強していたときに強く思ったことでもあります。」

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そしてコロナ禍の真っ只中、代々木八幡にアトリエ兼店舗をオープン。オンライン需要が大きかったこともあり、花以外に花瓶や雑貨を買い求める人も多く、雑誌で紹介されるなど、浪漫花店の世界観は段々と世間に広まっていく。しかし、当初思い描いていたお店の姿は次第に見えなくなっていった。

「『浪漫花店』という屋号は、お店を始める前から決めていました。やることは変わっていきそうだと思っていたので、名前は普遍的なものにしたいなと。お店を始めた当初は、来てくださる人とフェアにお互いの審美眼をミックスさせる場所にしたいと思っていたのですが、場所がビルの3階だったということもあり、段々と、来ること自体が目的になってしまい、写真撮って帰るとか、来たついでに花を買って帰るというやりとりの場所になってしまいました。私は、花そのものを流通させるというよりも、生活の中で変化する審美眼の延長線上で花に向き合ってもらいたかったのですが、お店の雰囲気だけが切り取られ一人歩きしてしまい、本当に自分たちがやりたかったこととずれていく感覚がありました。」

「悶々としている中、去年の末ごろに、私立珈琲小学校の吉田先生(以下先生)が、私に花屋をやらない?と声をかけてくださったんです。先生は、錦糸町にある自分のお店の近くにいい花屋があったらいいなと思っていたそうで、私はもう少し生活の根ざした場所にお店を構えたいという想いがあったので、タイミングが重なって、お店を移転することに決めました。私がMIDORI.soに活ける花をずっと見てくださって声をかけてくださったから嬉しかったですね。その後も、お店をオープンするにあたり先生が色々と助けてくださったので本当に感謝しています。」

空間デザイン、花のセレクトをSHOKEIさんが担当し、今年から再スタートした浪漫花店。彼女の生き方やセンスが現れた花は見る人を惹きつけ、MIDORI.soでの毎週の生け込みもメンバーやスタッフの楽しみのひとつになっている。

「私は、ひとつの花に色が沢山入っているものや、造形が面白いものに惹かれます。あとは、一見スポットが当たらなさそうな花。単体の美しさはないかもしれないけど、どう見せたら美しくなるかなと考えることが好きです。『あの空間に合わせたら美しくなるかも』とか、『このお花に合わせたら華やかになりそうだな』とか。また、他の生け込みでは絶対にやらないのですが、多少くたびれた花もMIDORI.soなら似合うなと思って敢えて残すことがあります。というのも、完璧に綺麗すぎないのがMIDORI.soらしいといいますか。いつだったか、セロテープで花の茎が補強されていた時があったのですが、そういう風に、花に関わっている人がいるとかいないとか、人の行き交いの痕跡や時間の経過が花の様子から見えてくるんですよね。そういうやりとりが見えるのは良いなあと思います。花は空間を彩るだけじゃないんだなということをMIDORI.soの生け込みでも見出しました。」

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自分のスタイルをどのようにアウトプットするか。建築を学んだ大学で、現代美術を学んだ大学院で、現在の花の仕事で、それぞれ求められることが異なる中、自分の思想は最終的に自然ともれ出てアウトプットされていく感覚に気がついたと話すSHOKEIさん。そんな彼女にとって、働くとは。

「私は、最初からやりたいことを手に出来ていたわけでもないし、かといって目の前にあることがそのまま仕事に繋がっているわけでもない。大学院の頃まで、今やっていることとやりたいことが繋がってないと葛藤しながらやっていました。そして、今もやりたいことに向かって日々奮闘している感じです。目に見える成果に限らず、人との関わりや仕事のやり方としての美意識を積み重ねていくこと。働くって、自分の審美眼を養い続けることなのかもしれないですね。」

「『こうやろう』と思わずに、何にも通ずる自分のポリシー(=美意識の積み重ね)に基づいて、選択していくと最終的な仕事のアウトプットに嫌味のないオリジナリティが出てくるんじゃないかと思います。花の合わせやセレクトをひと目見て『SHOKEIさんらしい』と言っていただけることが多いのですが、それは、意識して自分らしいものを選んでいるわけではなく、これまで自分の経験や考えてきたことの積み重ねがあるから、無意識に自分はその花を選んでいて、それが空間を作り出している。やっぱり自然ともれ出てくるものなのだと思います。」

これからしていきたいことは?

「花の活動をはじめてから89年ほど経ちましたが、最近はポジティブな意味でゼロからのスタートだとよく思います。これまで色々積み重ねてきたつもりではあるのですが、まだまだこれから。例えば、憧れの方と撮影でご一緒できたりすると、これまで頑張ってきた結果だと思って嬉しくなるけれど、2回、3回とこれからも続けられるように頑張らないとなって。」

「お店もこれからです。敷居が高いと思う方もいらっしゃると思うので、これからどうやって日常に根付く場所にしていくか。でも、ただ花そのものを売ったり買ったりするという場所にしたくないと思っているので、その塩梅が難しいです。お店は、元々『つるや』というお店で、長い間お店を閉めていたそうなのですが、皆さんに愛されていた場所だと伺っていたので、看板を残したまま営業しています。そうしたら、最近つるやにお世話になっていたというお客さんがよく来てくださるようになりました。昔、近くに大きな会社があって、つるやはお弁当や必需品が売られる場所として、みんなの憩いの場所になっていたそうなんです。つるやさんとは直接的な関係はないですが、私が花屋としてこの場所を開くことで、誰かの昔の思い出がまた少し蘇るきっかけになるのであれば、とても素敵なことだなと思います。」

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最後に、SHOKEIさんにとってMIDORI.soとは?

「みなさん美意識がありますよね。空間に無造作に置かれているものにも意識が宿っているなと思います。生け込みのたびに色々なものが移動しているんですが、物と家具の色や組み合わせが合っていて、たまたま置いた花もピタッとハマる感じがある。そういう無意識の美しさを感じます。それに、MIDORI.soにいる人たち自身が空間を作っているという感じがあって、私の花もそうですし、ケータラーさんのご飯や美味しいコーヒーとか。でもアットホームになりすぎてもいない。それは、みんなが周りに対してフラットな目線を持っているからなんじゃないかなと思います。それぞれがお互いを尊重しながら独立しているという感じ。なので気持ちが良いです。」


SHOKEI

flower stylist / florist

大学で建築、大学院で現代美術を専攻。スタイリストアシスタント時代に花を使ったクリエイションに出会い、現場での経験を重ねながら、自身でも生花を使った作品撮りを始める。のちにフラワーショップ「浪漫花店」を立ち上げ、オーナーフローリストとしての傍ら、生花のアートワーク制作を行う。また「shortcakes」として、撮影用の装花やプロップのフラワースタイリング、展示会やイベントなどの装花も手がけている。

https://www.shortcakes.co.jp/

https://www.langman-huadian.tokyo/