INTERVIEW case#43 We Collaborate Here “制作を通して自分たちなりの答えを表現していきたい”

DAIFUKU MIDORI.so 2Fにて、9月16日(金)より9月25日(日)までHOME ECONOMICS EXPERIMENTによる展示『STUDY1.3 “analyze elements in terms of time”』を開催中。コロナ禍のステイホームをきっかけに始動し、家政学の観点から様々な作品を作り続けものの見方を再提示するHOME ECONOMICS EXPERIMENTのお二人(Mayumiさん、SHONさん)に活動へ込める想いや今後の展望などを伺いました。
[ Interview / Text ]Tamao Yamada
[ Photo ]Kaoru Yamada
2022.09.22
ーお二人それぞれの活動内容について教えてください
Mayumi:
私は普段、アパレルデザインやグラフィックデザインなど、主にデザインに関わる仕事をしています。アパレルデザインでは、いわゆる大量生産のデザインをしていて、それに対しての違和感や疑問を持つようになっていました。私たちの活動スタイルは、古いものを作り直して一点物として展開していく形なのですが、自分が仕事で商業的なデザインを扱っていたからこそ、今のHOME ECONOMICS EXPERIMENTが生まれているように思います。
SHON:
僕はテキスタイルデザインを大学の時に専攻して以来、布に関わる制作をしています。自分でデザインした総柄をプリントしたテキスタイルを使い、洋服づくりをするということが主です。しかし、最近は図案さえ作れてしまえば誰でも簡単に物が作れるような時代になっているので、何か違うことをやりたいなということを考え始めていました。HOME ECONOMICS EXPERIMENTでは、ライトのシェードや椅子の張り地などを全てオリジナルで制作していて、布を使った作品が多いのですが、それは自分が専門にしてきたテキスタイルの分野を活かしています。
ーコロナ禍での生活状況や、そこから活動が始まった経緯はどのようなものだったのでしょうか?
Mayumi:
本当に他の方と同じく、家で過ごす時間が増えて、家のなかでどのように過ごすかということをずっと考えていました。ただ、すごくネガティブな感情があったというよりも、そういう時間があったからこそ、空間や家にある物への強い意識が生まれていました。
SHON:
元々、コロナウイルスが流行する前から、二人で展示をしていたんです。今の活動とはまた違う内容でしたが、それも空間を構成するような展示で、その時から生活空間の重要性や可能性を感じていました。いろいろと模索しながら行動してるうちに、コロナが始まり、自分たちが考えていたことが時代と重なったので、実際に家の中の物を扱う作品づくりが始まりました。


当たり前に存在する「もの」をさまざまな視点から考え直す
活動名である”HOME ECONOMICS EXPERIMENT”とは、直訳すると「家政学実験」という意味です。展示の際は、毎回”STUDY…”という名前をつけて、家政学の領域からピックアップしたテーマを実験し、自分たちなりに分析した結果をデザインに落とし込んでいます。図や説明書きのようなグラフィックが多いのはそのためで、レポートや研究論文をイメージしています。ただ、論文というと結論を出すというイメージがあると思いますが、私たちが決定的な答えを出すことはありません。私たちは、当たり前に存在する「もの」を考え直すきっかけを提示しているに過ぎず、それらをどう考えるかという結論は、見た人や使う人に委ねています。
ー 本展「STUDY1.3 “analyze elements in terms of time”」にはどんな想いが込められていますか?
SHON:
僕たちはこれまで、STUDY1として”analyze elements”=「要素分析する」という大テーマを元に制作を進めています。最初は、STUDY1”analyze elements” として要素分析自体をテーマにしていましたが、次に要素をさまざまな面から分析するということで、STUDY1.2では”spiritual side”=感情面から要素分析を行っていました。また、そこからさらに細分化して観察していき、例えば”HAPPY”という感情を深く考察するために、”HAPPY”な状態の最上の表現である単語”heaven”をピックアップして展示をしたりと、大テーマからどんどん要素を絞ってテーマを設けています。
Mayumi:
今回は、感情の次の要素として、”time”=時間をテーマに決めSTUDY1.3としました。物を使うときには何時に使われるかということが必ず絡みますし、時間を経ることで物の形が変わったり味が出たりと変化しますよね。家の中にある物と向き合うときに「時間」は絶対的に避けられない要素だと思いこのテーマに決定しました。
ー DAIFUKU MIDORI.soで展示することになったきっかけは?
SHON:
普段は名古屋で制作をしているのですが、店舗を持たず、全国を回りながら展示する形で活動しています。これまで東京、大阪、京都、名古屋、新潟で機会をいただき、現地のギャラリーやお店で展示をさせてもらいました。その中で、今度は福岡でも展示をしたいという思いがあったので、人に聞いたり自分たちで調べたりしながらずっとギャラリーを探していたのですが、その時ちょうど良いタイミングでCOFFEE SUPREME JAPANの代表である松本さんと名古屋でお会いする機会があったんです。松本さんとは、共通の知人が多くいろんなところでお会いしていて、私たちの作品も見ていただいていました。そこで、DAIFUKU MIDORI.soがオープンすることをお聞きして、展示のお話をいただいて。本当に良いタイミングで良いご縁をいただき今回の展示が決まりました。
Mayumi:
展示のメインビジュアルは、DAIFUKU MIDORI.soのオープンに絡めて作成しているのですが、「時間」というテーマからMIDORI.soにいる方がどのような時間を過ごすのかということを想像して制作しました。また、使われていなかったビル一棟をリノベーションしてDAIFUKU MIDORI.soが生まれたということで、過去のものを未来に向けて再生するという部分や、新しい「始まり」や「スタートする」という意味をグラフィックに落とし込んでいます。DAIFUKU MIDORI.soの建物の再生やこれからの活動と、古い家具を作り直して新たなものを生み出すという私たちの制作スタイルや表現したいことには、共通点があるように感じて、すごく自然な形でグラフィックが仕上がったように思います。展示とDAIFUKU MIDORI.soのオープンイメージを上手く合体させた形で表現ができました。


時代に生まれる思考を反映させたものづくり
作品は、土台を解体して布の型をとった後、形状や素材感・サイズなどを見て、それぞれのスタイルに合うようにデザインを施しています。土台はそれぞれが一点ものであり、造り方も違うので、実際に解体してみたら元に戻せなくなってしまうこともありますが、それは楽しさであり難しさでもありますね。元になる素材は、蚤の市やガラクタを販売するお店で見つけたり、知り合いから使わなくなったものを貰ったりしています。大量生産されて売れ残ってしまったものを使うときは、それぞれに違う価値観や人格が生まれていくようで嬉しいです。その中のひとつが選ばれて誰かの手に渡ると、これから大事にされるんだろうなと親心のような気持ちにもなります。
SHON:
私たちの活動は、コロナウイルスの流行という時代の流れから発生し、サステナブルの観点を取り入れています。時代に生まれる思考をものづくりに反映しているので、その点はこれからも無視せずに制作を続けたいですね。その時代に何が必要なのか、何を伝えていくべきなのかということによって、作るものが変化する流動的なスタイルでいたいと思っています。
Mayumi:
今は家具をメインにつくっていますが、それが服であっても、食であってもいいと思っています。社会に対して大きな答えが出せるわけではないかもしれませんが、その時代で求められることに対して、制作を通して自分たちなりの答えを表現していきたいです。

ー 最後に、展示に来てくださる方へメッセージをお願いします
Mayumi:
普段名古屋にいる私たちからすると、福岡は簡単に行ける土地ではないので、ぜひこの機会に福岡近辺の方に見に来てもらえたら嬉しいです。私たちは、生活の中で使えるものを作っているので、実際に作品を触って体感してもらえたら嬉しいですね。自分たちの生活にそれらをどう組み込むかを想像していただけたら、よりイメージが湧くと思います。
SHON:
また、DAIFUKU MIDORI.soのギャラリーはこれまで自分たちが展示してきた場所よりもスペースが広いので、他の展示とまた違う空間の使い方を考えています。その点もぜひ楽しんでいただけたらと思います。
HOME ECONOMICS EXPERIMENT
クリエイティブユニット
コロナウイルスによってもたらされたstay homeの期間を過ごす中、パーソナルな室内空間の重要性と自由度の高さを再認識したことをきっかけに2020年に活動を開始したプロジェクト。家政学の考え方に実験的な制作手法とサスティナブルな視点を加えることによってクリエーションを行い、生活空間に新たな可能性を提示することがコンセプト。廃材や廃棄寸前のUSEDの家具(椅子や鏡、ランプなど)に様々な加工を施すことで新たな価値を付与した一点モノのアイテムや、寝具やクッションなどのオリジナルファブリックを用いて制作した他にはない日常品を提案している。
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