INTERVIEW case#13 We Work Here "大変だけど、すごく自分の人生を生きているような気がします"

Topic: InterviewWritten by Yuko Nakayama
2019/5/27
Ryota Takemoto

誰しも一度は自分自身の興味や好奇心に基づいた世界を、頭の中に思い描いたことがあるはずだ。その世界を「理想」と呼ぶならば、彼は今その輪郭を追い求め、自分の人生を切り開こうとしている。その切り開く行動こそが、彼にとって「働く」ということ。いつの間にか好きになっていたコンピューターの世界で、デジタルアートというものに目覚める。彼の思い描く世界は、彼だけでは完成しない。デジタルアートを通して人々に何を望むのか。「働く」を通して見えてくる、彼自身の本質的な思いとは何か。みどり荘表参道メンバー、NEORT Inc.代表 竹元亮太さんにインタビュー。

Interview/Text/Photo : Yuko Nakayama

5/27/2019


竹元「デジタルアートというコンピューター技術を使って作るアート作品を、ユーザーが投稿し、それをみんなで見て楽しむプラットフォームを運営しています。自分でコードも書いて、デザインもして、企画を考えるというのを全て一人でやっています。」

NEORT HP

NEORT Inc. ホームページ

高校を卒業し、北海道の函館にある情報系の大学、公立はこだて未来大学に入学。コーディングによって何かを動かしたりすることに魅了される。大学を卒業した後、エンジニアとして東京のインターネット会社にて約6年の歳月を過ごす。

竹元「大学では、最初デザインを学んでいました。綺麗なものを作ったり、コンセプトを作るだけではなくて、動かしたりもしたいなと思い、コードを書き始めました。そうしたら、結構それが面白かったんです。大学に入ったのが一番大きな転機だった気がします。どうしたら人の心が動くようなものを、作れるのか。コンピューター技術によって表現の幅が広がったり、できることが増えたりするなと。そういうところから、かっこいいものや綺麗なものを作ってみたいと思うようになりました」

竹元「会社では、ウェブサービスの開発やアプリの開発をしたり。AWAという音楽配信サービスも手がけました。大きな競合がいる中、人が作るプレイリストというのを強みにしていて、ユーザーが高校時代によく聴いていた青春ソングを集めたりなどしていました。技術だけでキュレーションをするのではなくて、人の体験や思い出も一緒にして、こういう思いで作りましたというのを強く打ち出したり、人が作り出すものならではの温かみや思い出みたいなところを重視した。機械的にレコメンドしたりするのは、それはそれで精度はよかったりするんですけどね」

話を聞いている限り、竹元さんは恵まれた環境に身を置いていたはずだ。フリーランスになろうと思ったその理由は?

竹元「環境には満足していました。会社時代もやりがいのある仕事はあったんですけど、自分の興味が少し違う方向へ向き、もっと芸術に力を入れたいと思いました」

竹元「当時からコンピューター技術を使って、アート表現をするというのを趣味でやっていていました。趣味でやっていると、そもそもそういうのって全然仕事にならないし、作品を作っても見せる場所があまりなかった。面白い分野でまだまだ発展する余地があると思い、自分の人生を全振りしたいと思いました。今はNEORTの仕事一本。採算は取れていません。いつでもエンジニアの仕事はできますので、その選択肢は最後まで取っておこうと」

NEORT logo

社名の「NEORT」は「NEO」と「ART」を組み合わせた言葉で、新しい芸術という意味。

竹元「現代美術などに造詣があるわけではないんですけど、美しいものや綺麗なもの、コンセプチュアルなものを見たりするのは好きです。それにプラスして自分がやってきたエンジニアリングや技術を組み合わせることで、もっと面白い表現ができるなと思いました。アートというと人によって様々な解釈があります。『そんなものはアートじゃない』と議論を生むのではないかと思ったのですが、キャッチーなワードとして、自分の会社名に『ART』が含まれてもいいかなと思い、使っています」

デジタルアートをこれから広めていこうとする一方、そもそも「デジタルアート」は一般的な言葉として普及していると感じているか。

竹元「難しいですね。デジタルアートと調べると、チームラボが出てきます。彼らのおかげでデジタルアートというワードは一般的になった。片や英語でデジタルアートというと、イラストやアニメーション、フォトグラフとかもあって。概念がすごく広いんですね。今NEORTのサービスで挙げられているものがデジタルアートと言うと多くの人にとっては、『ん?』と思うかもしれないです」

竹元「僕としては、イラストでもアニメーションでもなんでもいいです。美的に綺麗なものやかっこいいもの、心が動くようなものがデジタルフォーマットとしてあれば、デジタルアートと総称して呼ぼうかなと思っています。アートというと難しいんですけど、表現したものという感じかな。コードを書いてシステムを作ったりだとか、セキュアなアルゴリズムを考えることも面白いと思います。でも、僕はそういう技術をもう少し表現の方に持っていきたいと思っています」

Digital art1
Digital art2
Digital art3

竹元さんにとって働くとは?

竹元「生活するという意味では、お金を稼ぐ手段ではあります。それ以上に人生を豊かにするものというか、自分の人生を切り開くやり方だと思っています。働くことを通して、人に出会い、見えてくるものがあります。自分の人生をこうしていきたい、こんなことをしていきたいと思った時に、やること。それがイコール仕事になるかな」

竹元「会社員は会社員でいいんですけど、自分が思い描くものを100パーセントできるわけでないと思います。自分がこうしたいと思う世界を作るとか。こうなりたいって思うことに直結できるのはやっぱり自分でやることのような気がします。組織に属していても、できることはあると思うし、その人の夢を叶えることはできると思うんすけど、僕はそうではない方ができそうかなと思いました。今は全部自分で考えて、自分で切り開けるってところが、その分チャレンジングな感じもするので、大変ですけど、自分の人生を生きているような気がします。会社員でもそういう感覚でいられると思うんです。でも僕の場合、明確にやりたいことができてしまったので、そこに挑むしかないという感じです」

仕事をする上で大切にしていることは?

竹元「一番は自分が心からやりたいと思うことをやることですかね。やりたいと思うことなので、好きなこととか、情熱を注げることに時間を割きたいと思っています。なるべくそうでないことには、あまり時間を割きたくないなと。好きなことをする上で、やらなくてはいけないことはもちろんやります。けれども、その先の自分の理想みたいなところに直結していないと無駄だなと思ってしまう。そこは、ブレたくない軸ですかね」

竹元「最近意識するようになったんですけど、諦めないようにしています。自分でビジネスをやっていて思うんですけど、なかなかユーザーって付いてこないし、これじゃ生きていけないなとか、食っていけないと思うこともあるんです。だけど、そこで諦めたら今までやろうと思っていたことは、絶対に叶わない。続けていたら見えてくるものだったり、可能性は広がるので、目先のことを考えて小さくまとまってしまうよりは、諦めずに長い目で我慢強くやろうと最近思うようになりました」

そうは言っても、まだまだ新しいステージが始まったばかり。不安になったり、落ち込んだりすることはあるはずだ。

竹元「なかなか自分が思ったようにユーザーが使ってくれない時や、この先どうしていくべきかがあまり見えなかった時、そういう時は不安になったり心配になったりします。普通にエンジニアをやっていたら、もっと稼げるしもっと楽しいし、楽なんじゃないかと短期的には思ったりもするんですけど、絶対その先には自分の描く理想はない。今はつらかったりすることもあるけれど、諦めずに辛抱強くやろうかなと思っています」

竹元「一人で家で仕事をしていると滅入ってしまう気がするので、色々なところに行って、人と会うのはすごく自分的にはいい。滅入りそうなときは、アニメを見たり、散歩をしたりリフレッシュをしようとするんですけど、やっぱりなんだかんだ解決できるのは仕事をすることでしかないと思うので、目をそらさずにちゃんと向き合おうかなとは思っています」

Ryota1

これからしていきたいことは?

竹元「まずはNEORTをたくさんの人に使ってもらうことです。年内くらいには10,000人くらいのユーザーにしたくて、まだ少ない規模なので、小さいんですけど。デジタルアートを楽しむ環境をもっと増やしたいなと思っています。今は作る人が作品を上げる場所になっているだけなので、それを休日に美術館に行って美術作品を観賞するみたいな文化に。美術館に行くような体験をもっと日常生活に増やしたいなと思っていて、美術館でそういうのを観賞したり、家にデジタルフレームを飾ったり、VRが普及したらVRの中でそういうのを楽しんでもいいですし。そういう作品を楽しむ環境を増やしたいなと思っています。作品を作る人が生きていけるような世の中になるといいな」

竹元「絵を飾ったりすることってあると思うんですけど、そういうのがもっとデジタルなものになって、例えばその人の趣向にあった絵が一日ごとに変わったりしてもいいですし、自然な形でテクノロジーと組み合わせれば、人々の生活の中にうまく提供できる気もします」

Having lunch with Mr.Kurosaki

みどり荘についてどう思いますか?

竹元「すごく快適ですね。複数拠点があるから、拠点によって色が違うし、それが面白いです。色々な人に出会えるし、リフレッシュになります。自分と違う生き方をしている人に出会うと、この人楽しそうって。自由に生きるっていいなって思えます」


Ryota Takemoto

NEORT株式会社 代表取締役 / エンジニア

株式会社サイバーエージェントでのWebサービス・アプリ開発を経て、2019年にNEORTを創業。デジタルアートの可能性を広げるプラットフォームの開発を行う。

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