INTERVIEW case#10 We Work Here "緩い矢が一緒に進んでいる感じ。でも折れない"

不動産広告会社のクリエイティブチーム「YARD」。 山崎裕大さん、中島優さん、小野梓さんから成るチームで構成されている。アートディレクション、デザイン、イラストも手がける何でも屋と自らを例えるが、彼らの望むものはもっと幅広く自分たちのデザイン性を試す働き方だった。会社に属しながらもインディペンデントな環境に身を置けている状況だからこそ、多種多様なクリエイティブを手がけていきたいと考える。みどり荘表参道メンバーYARDをインタビュー。
山崎「若い時からやりたいと言えば、やらせてくれる柔軟性と土壌がある会社で、自分の好きなことややりたいことをアウトプットし続けてきました。会社に属していると、極端な言い方だと、言われたことをやっていればいいと思っている人もいる中で、何もしないよりも色々試してみて失敗する方が得策だなと。不動産なんだけど、グラフィック、ウェブデザイン、空間デザイン、フォトディレクションも、多岐に渡ってデザインができるという意味では面白いと思う。けれども、みんな感じることだと思うんですけど、何度か節目節目に違和感は感じていて、独立しようか、フリーになろうか、転職しようかなっていうのはあったんです」
山崎「ちょっとコミュニティが狭かった。上司と同僚と後輩とお客さんだけみたいなのが、ずっと続いていた。だけれども、居心地はよかった。何度目かの違和感の時に、尊敬する上司から外に出てみないかという話をもらい、ちょうどいいかなと。より刺激を受け、知見を広めたり、クリエイターとしての感性を深めていきたかったので、外に出てみることにしました。最初は僕と中島は別々にやるって話だったんだけど、ある日、中島とこういう話あったよね、じゃあ一緒にやろうってなって。小野は最初から中島さんに付いて行くってことになっていた」
ー 2017年7月に「YARD」は立ち上がり、「YARD」という名は「手が加えられていない未整備の庭」という意味をもつ。凝り固まらず、自由な発想と想いをカタチにし、クリエイティブの新しい領域を目指したいという彼らの志す姿と重ね合わせている。また、「帆桁(ほげた)」という船の帆を張るための、横に伸びる一番大事な用材を意味し、小さなヨットから海賊船、豪華旅客船まで、自分たちと関わる人や仕事、それぞれの航海を楽しく面白く、進めていく。

ー 山崎さんは大学で法律、主に離婚訴訟について勉強していたが、卒業後はバーテンダーとして働きながら美術の専門学校で1年勉強をし、今の会社に入社をすることになる。中島さんは美大在学中、書籍を作るゼミに所属。紙媒体がやりたいという思いから、たまたま今の会社を見つけたという。小野さんは、もともと美大の専攻が油絵で絵を描くことが大好きだったが、イラストも描けるデザイナーを目指し、山形のデザイン事務所で働いた後、辿り着いたその延長線だったそう。
山崎「全く不動産ってことはわからず、デザインができる広告代理店だなと、これは良さそうだなって。入ってみたら、不動産広告だった(笑)。でも今の今まで続いているから、悪い道ではなかった」
中島「特殊な業界。複数のメニューを同時に進行させるっていう業務の仕方がやっぱり特殊で、普通のデザイナーさんよりメニュー数として多くなってくるってところが、デザイナーとして強みになるなって。効率的に進められるっていうやり方は、今後別のところに行ったとしても絶対に強みになると思った。そういうことを意識すると、5年そこらじゃ何も成し遂げていないなと20代後半の頃は考えていたから、働き続けている」
インタビューをしていると、まるで兄妹のような雰囲気を醸し出す3人。その空気は柔らかい。少人数のチームであるからこそ、その距離感は縮まると同時に濃密になる。今のチームをどう考えているのか。
山崎「チーム感はだんだん出てきた。最初から意外に不安はなくて。中島がやっている仕事や性格はみて取れたから、水と油みたいなことにはならないなとお互いにわかっていた。いいチームになったなあと、結果ね。兄妹っぽい感じ。性格は各々違うんだけれども、なんとなく似ているんですよ。ぼけっとしているところ。デザイナーにありがちなエキセントリックな感じがない」
中島「圧がない感じ」
山崎「緩い矢が一緒に進んでいる感じ。でも折れないみたいな」

ー 仕事をする上で大切にしていることは。
小野「考えたことがなかった。無心です(笑)」
山崎「小野ちゃんは末っ子だから、自由なんです。考え方や働き方も。あんまり色々考えずにできている。僕もそうなりたいなって。ストレスも感じず。もともと油絵を描いていて、そういう感性でやっている。そういう感覚が仕事に根付いているといいですね」
中島「割と押しに弱い方なので、なるべくこうしたいというのを言うように心がけている。たくさんある仕事の中で右から左へとついなりがちだから、どうしたいのかっていうのはなるべく考えよるようにしている。そういうのを最初に自分の中である程度強く持っておかないと、それを他の人に伝えるときに困っちゃう。他人の言うことはなんでも正しいみたいなって思うことがあるから。 さすがだな〜っていつもすぐ何も考えずに思っちゃう。そこはディクターとしてはどうなのかと思う時があるから、意識するようにしている」
山崎「ほわっとしているでしょう?いいチームだなって思います(笑)」
山崎「今(中島さんが)言ってることって、ずっと僕らは企業デザイナーだったから、その気質が抜けてない部分がはあって、みんなそうだけどクライアント様があってのお仕事。そこからどう脱却するかを考えています。クライアント主導、クライアントの意向だけをやっていても仕方がない。もっと自分達に染み付いた独自性みたいなものをどうやって出していけるのかっていうのを考えていけたらなって。チームでいうと、それぞれ個性があって、硬いデザインから柔らかいデザインまでずっとやってきたので、自分のデザインの得意な部分が出てくる。それを突き詰めていくと、こういう業種、こういうデザインに合っていくんだろうなって。そういうのを組み合わせて、いろんな仕事ができていくといいなと」
ー 会社に属しながらも、本社から少し離れて働くことは稀有なことだ。今後具体的に仕事をしていきたいか伺ってみた。
中島「ずっと言ってるのがあって、もう少し安いもののデザインをやりたい。パッケージや文房具とかもそうだし。今まで何千万何億と自分の想像の範囲外のものを頭振り絞って考えてきていたから、もう少しもっと身近なものを、顔を付け合わせてやっていくような、もう少しミニマムなもの。家を買ったことがないし。実感としてわかるものを作ると、また違った考えができるんじゃないかなって。同じ住宅をやるにしても、新築じゃなくて、団地リノベみたいなところでも。もう少し自分の中に降りてくる範囲なのかなって」
山崎「人の生活に関連した身近なものをデザインしていきたいっていうのあるかもしれないね。欲が出てきたよね。YARDになってから、イベントのデザインやショップのデザイン、不動産以外のことも色々やるようになってきて、もっともっとという欲が出てきているから、今営業はしています」
ー 今まで不動産の広告という金額の大きいものに対してデザインを手がけてきたからこそ感じる、より身近なもののデザインを手がけてみたいという思い。それは手を伸ばせばすぐ触れることができるコップだったり文具だったり、人の手によって触れられるライフスタイルの中に潜んでいるもの。
ー 3人にとって仕事とは?
小野「お金を稼ぐこと。もしアーティストとして食べていけるならそっち選ぶかもしれない」
中島「どうせやるなら楽しくやりたい。特にデザインとか、アートもそうだと思うけど、絶対に嫌いではできない。理不尽なこと言われる時もあるし、絶対こうしたくないのにこうなっちゃなったなって時もある。それを堪えられるのは、やっぱり嫌いじゃないからできること。だから、やるなら好きなことで、お金をもらいたいなって」
山崎「好きなことをずっとしてきて、それを仕事にしたいと思って今仕事になっていて、デザイナーとかアートディレクターにとって一番いいことって、世の中にアウトプットができること。表現をしたり考えたりする仕事って世の中にいっぱいある。作ったものを世に出せる。それがすごく一番いいと思っている。自分がいいと思ったものを世に出せて、それを見てくれた人が喜んでくれたりするかもしれない。だから働くってことを一言でいうと、好きなものをアウトプットしていることです。好きの具合が仕事によって違うけれども、ずっとそうやってやってきた。いろいろ作って、見せて、見てもらうのが好きなんだと思う。それの延長線」
ー みどり荘とは?
中島「みどり荘に決めた理由は楽しそうだったから。いろいろ見に行ったりしたけど、システム的なところやかっちりしているところとは違うかなって。半オープンな空間がいいなと思っていて、その辺は十分に楽しめている。自分ももうちょっと枠を外しても別に死にはしないなって。例えば、一人でフリーランスとしてやっている人もそうだし、知人もそうだし、みんな普通に楽しそうに生きているわけで。会社員としての自分もありながら、そういう景色がみれているってことは、すごいプラスだなって」
山崎「多種多様。いろんな人たちがいる。打ち合わせの声が聞こえてきて、面白いことやっているなあって。そういうのを聞きながら自分の仕事をしながら、自分のやりたいことに進んでいけたらなって。緩くて楽しそうっていうのはずっと一貫している」
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