COLUMN #88 コミュニケーション

Topic: ColumnWritten by Masatoshi Sawa
2023/5/12
コミュニケーション

とある学生から最近「コミュ力(りょく)ってあると思いますか?」と聞かれました。質問の意図は「自身にコミュニケーション能力が有るか無いか」ではなく「その能力自体が存在するのか?」の意でした。彼曰く、コミュニケーションはキャッチボールであり「一方が投げる事」が果たして能力といえるのか?という問いでした。たとえ一方が話上手な人だったとしても、もう一方の話しかけられた相手が応じなければコミュニケーションとしては成立していない。と。

私は以前、販売員をしていたので話し方や話す内容をかなり意識してコミュニケーションを図っていました。性格もよく喋る方なので、しばしば「コミュ力凄いですよね!」と言われる事があります、、、。言われる事はありますが「能力が高い」と思うことはありません。むしろ「能力を上げたい」と思うことがあります。野球で謂うなれば、自分がピッチャーだったとして「球速を上げたい」的な感じで。

ただ今回の学生の問いは、「いくら球が速くてもキャッチャーがいなかったらそもそも野球(コミュニケーション)じゃないですよね?」と言われたような感覚で、社会に出ていないピュアな彼の質問に「あ」という短い感嘆詞と同時に、心臓に突き刺さるような衝撃が走りました。

自分のしていた事は、球を投げてスピードガンで球速をただ測っている様なモノで、全体の輪を意識したものではなかったのか、と。まさにコミュニケーションからかけ離れたものでした。特に僕の場合、受け手のリアクションでかなり左右されるので、会話が上手くいかない時は随分心に残ります。そう思うと、日本人という自己アピールが下手な人種だからこそ「よく喋って、自分の考えを主張する人が目立つ」だけで、コミュニケーションを必要とする場合に積極的なコミュニケーションを仕掛けているように見えるけれど、海外であればむしろ傾聴の姿勢こそコミュニケーションが重要になるのでは?と考えさせられました。

昨今ホワイトカラーに分類されている一部のサービス業が今後無くなると言われているのは、本当の意味でコミュニケーションを必要としない、もしくはコミュニケーションが出来ていないからAIに取って代わられるのかもしれません。もっとも、この「職業が奪われる」という考え自体は「AIと人間」の対立関係を勝手に世間が作っているからなのではないでしょうか。古代ローマ時代の「市民と奴隷」の関係性がそうだった様に、AIと共存する事ができれば僕らは働く仕事、そして生活の考え方も変わるように思います。その未来では人間に唯一残された営みはコミュニケーションだけかもしれません。そんな世界線が来た時に問いを投げてくれた学生はコミュニケーションについてどう考えるのでしょうか?また新しい衝撃で私の心臓を貫いて欲しいものです。

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