COLUMN #86 fortune

Topic: ColumnWritten by Hitomi Shibuya
2023/4/21
fortune

諸行無常と隣接可能空間

数年前、なかなか決断できない出来事があり、ひとりモヤついている時期があった。

周りに相談しても埒があかず、友人の勧めで、初めて占い師に見てもらうことにした。元々疑い深い性格で占いなど信じたことがなかったが、その占い師はネットで検索しても一切情報が出てこない。決まった料金も無い。ただ、信じられないほど当たるというとんでもエピソードを聞いて、どんな人物なのか興味が湧いた。

占い師は、群馬の田舎で農家をやってる一見普通のネコ好きなおじさんで、私の生年月日を見るや否やガチャガチャ計算し、「あなたは20年間寝てたね。一週間前に起きてる。」と言った。

「長っ!」思わず声が出た。

そしてそのネコ好き占いおじさんは「今までの20年間は夢だと思いなさい。今あなたは起きたばかり。すべてはこれから。」と続けた。

その瞬間、色々と悩んでいたことが吹っ切れて、20年の長い眠りから目覚めた私はようやく次の一歩を踏み出す決断ができた。しかしそれでも疑い深い私は心のどこかで「占い」といったものに疑問を抱いていた。本当に未来は予測できるのか?

都合よく私には尼僧の友人と、人工生命の研究者がいたのである日「占い」について聞いてみた。仏教的な視点と、科学的な視点、両者からの見解を知りたかったのである。

まずは仏教。尼僧の友人曰く人の運命で唯一決まっているのは「死」だけらしい。仏教では「諸行無常」すなわち「この世の万物は常に変化する」といった考え方が基本だから、変化するのが当たり前。よって、占いは必要ない、ということだった。なんだかかっこいい。

一方、人工生命の研究者の友人は「隣接可能空間」という概念を教えてくれた。隣接可能空間(adjacent possible space)とは、理論生物学者のスチュアート・カウフマンが提唱した概念で、現在の状況からアクセスできる未来の可能性の集合のことを指す。友人によれば、占いはこの隣接可能空間を広げる行為なのだそう。確かに私は占ってもらったことによって隣接可能空間を広げ、環境を変えるきっかけを得たのだ。

そして、その後も隣接可能空間を広げ続けた私は今、MIDORI.soに流れ着いた。数年前の私が全く予想もしなかった場所にいる。

ここから先も諸行無常。物事は常に移ろい行く。
占いの答え合わせはもうしなくていいや。
MIDORI.soは、異なるバックグラウンドを持つ人々や多様な考え方に触れ合える場所。そこで得られる知識や経験を通じ、自身も含め、関わる全ての人が隣接可能空間を広げていけるような、大きな循環を創っていきたい。

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