COLUMN #241 わたしという翻訳
Topic: Column / Written by kyogo kato /
2026/7/9

わたしの言葉はわたしではない。
わたしの考えもわたしではない。
わたしたちは考える前に存在してしまう。
わたしは言葉を知っている、言葉はわたしを知らない。
「この」わたしは未だ哲学されたことがない。
わたしたちは答えを探す。
問い続けることで、近づけるように思える。
問いは、答えがどこかにあるように見せてしまう。
月に向かって歩いても、月にはたどり着かない。
歩みだけが、わたしに残されている。
生に答えはなくても、物語を求める。
バラバラなわたしを、因果がひとつに縫い合わせる。
意味は過去の大地で立ち上がる。
わたしはわたしを思い出す。
欠けた記憶に、感情と動機を書き足していく。
わたしという現象。
思い出すたび浮かび上がる、
ひとつの照明。
わたしたちは明滅を繰り返して交流する。
わたしという他者に、わたしを翻訳する。
翻訳されたわたしは、「わたし」を失いつつある。
誰もがわたしを翻訳する。
あたかも、どこかに「わたし」があるかのように。
意味だけの宇宙を泳いでも、
存在の岸辺には到底たどり着けない。
いまわたしは翻訳されつつある。
原文は無視され、記号がわたしを置いていく。
時間が通り過ぎていく。
肉体は、わたしを無視して走り去っていく。
果てしない流れの果て、
時間と空間に、
因果にさえ、
わたしは置いていかれる。
わたしは、どこかを漂っている。
振り返ると、そこには若さと記憶。
いつか、電燈は失われ、明滅だけが残る。
その明滅が、わたしたちの意志。
わたしも、だれも、知らない場所で、
原文のないまま、
わたしはわたしを翻訳し続ける。
わたしはわたしからは逃れられない。
強制された紐帯は、
愛の形をしている。
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