COLUMN #212 アンビエンス・オーガナイザー
Topic: Column / Written by mashu yokoyama /
2025/11/28

僕は時々「良い感じの椅子になりたい」と思う。
大学を休学し、ゆっくり流れる時間に夢想ばかりしていたあの頃、僕はアンビエント・ミュージックにのめり込み「環境」にまつわる音楽をいろいろと試みていた。
公園に複数のスピーカーを配置し、バラバラに鳴らして遊んだのが始まりだ。真夜中の誰もいない公園に真っ昼間のような賑やかな遊び声を流すと、目の前の寂しい景色に日差しが入ったようで温かい気持ちになった。
そんな狭間的でどちらでもないような体験が好きだった。
思い返すとあの頃は、とにかく現実から目を背けたかったのだろう。
アンビエント・ミュージックの第一人者ブライアン・イーノは、大まかに4つの基準でそれを説明する。
- 環境という焦点:アンビエント音楽は空間の環境を高めることを目的とする。
- 無視可能であり興味深さもある:アンビエント音楽は聴き手の注意に応じ、「控えめな背景音」でありながらも、「興味の対象」ともなり得る。
- 中心となる要素の欠如:アンビエント音楽は「中心となる要素を欠いている」必要がある。それは聴き手を惑わす主旋律や焦点を持たないことを意味する。
- 静謐と内省:アンビエント音楽は 落ち着きをもたらし、思考のための空間を創出することを意図する。
あくまで彼のアンビエント・ミュージックの基準なのだが、なんだかMIDORI.soコミュニティオーガナイザーの仕事にも通じるところがあるように感じる。
28歳になった僕にとって、アンビエント・ミュージックは逃避の手段ではなくなった。
日常的な風景を音が彩ることによって、美しい毎日がここにあることを思い出させてくれるから。
アンビエントは「家具の音楽」とも呼ばれる。
だからか僕は時々「良い感じの椅子になりたい」と思う。
ーーー
余談ではあるが、知り合いの椅子屋さんにその気持ちを吐露したところ「変態だね」と笑われた。
MIDORI.so Newsletter: