COLUMN #211 水辺で生きる

Topic: ColumnWritten by mihi kudo
2025/11/21
211

私は小さい頃から隅田川沿いに住んでいる。今までも何度か引っ越してきたが、ずっと周りには隅田川があった。


小学校のマラソン大会は川沿いで開催され、中学生の頃は漫画『セトウツミ』のように川に向かって座り、日が暮れるまで親友と2人でずっと他愛もない話をしていた。10代の頃から悩み事があると必ず川沿いを散歩する。20年以上も川とともに生活していると、自然と川が生活の一部になる。


朝は川から感じる冷たさが背筋を伸ばしてくれる。日中は誰かの休憩スポットだったり、おばあちゃんたちの交流会場になったりする。夕方には夕焼けが水面に反射した輝きが波打ち、キラキラと光を放つ。夜は真っ暗で静かな中、波の音や魚が飛び跳ねる音が聞こえてくる。橋のライトアップが水面に反射するのも、日中とは違う美しさがある。私は川沿いがとても大好きだ。


時は変わり2023年、私はデンマークへ留学した。デンマークはドイツの上にあるユトランド半島と400を超える島々がある国だ。言わずもがな、水に囲まれた国。首都のコペンハーゲン中心部には川のように流れる運河がたくさんある。デンマークについて何も知らない状態で渡航してしまった私だが、初めて街に繰り出した日に「運命」だと思った。自分が水辺に生きる人間なのだと悟った。


デンマーク人は、だいたい年中水辺にいる。物理的に水辺の近くで暮らしている人も多いが、それ以外の人でも「水辺に行く予定」を作ることが多いように感じる。晴れた日にはレジャーシートと軽食とビールや本を持って水辺で過ごす。夏になると運河に飛び込む。日向ぼっこをする。冬でも飛び込む。寒中水泳をする人も少なくない。学校の近くには「Himmelsøen」という湖があり、よく友達と訪れた。日本語にすると「空の湖」という意味だ。その名の通り周りには高い建物がないため、空がとても広く見える。放課後に自転車で10分ほど走り、木道の上でぼーっとしたり、湖に入って泳いだりぷかぷか浮いたりしていた。


携帯電話を触らずに自分と向き合う時間や、友達と過ごした日々はとても人間らしい。日本にいたときの水辺の楽しみ方とは少し違って、マインドフルネスを味わえたように思う。そして、どちらの国にいても変わらないのは、水辺から帰ってきた私は、その前よりも少しだけ心が洗われた気がするところだ。


日本に帰国し、大学を卒業してから少し経った後に私はMIDORI.so Nihonbashiで働き始めた。MIDORI.so Nihonbashiがある東日本橋エリアも少し歩くとすぐ隅田川がある。そう、私にとって、完璧な場所。宿泊中のメンバーでタイミングが合った人とは、隅田川沿いを含めた街歩きツアーをしている。彼らにとって普段訪れる機会が少ないであろう東東京をめぐり、川沿いを歩き、ともに水辺で過ごす時間は、いつもより少し心の距離を近くさせる。今まで話したことのなかった話題で盛り上がったり、心の扉がゆっくりと開かれる瞬間を見ると、コミュニティオーガナイザーとしても嬉しさがこみ上げる。


MIDORI.so Nihonbashiにも、水辺のようにゆるやかな流れがある。日常を離れてここに立ち止まると、心の結び目が少しずつほどけていく。


その変化をそっと見守りながら、水辺のように誰の心にも開かれた場所でありたいと思う。


ーーー

水辺がもたらすストレスの軽減効果は多くの分野で研究が行われている。その中でもいくつかの効果をここで紹介したい。


身体活動の増加:水辺の近くに住んでいる人ほど、散歩をしたり、ジョギングをしたり、外で過ごす時間が長く、ストレスホルモンが低い傾向にある。


回復:波の音や水面のゆらぎなど水から得られる心地よさによって副交感神経が働き、心拍数や血圧が下がる。また、注意や記憶を司る前頭葉の活動も穏やかになりリラックス状態になる。また、自律神経のバランスも整いやすくなる。


環境:夏の気温が下がりやすくなる。空気がきれいになる。騒音が緩和される。


ーーー

MIDORI.so Newsletter: