COLUMN #202 世界は友だちプロジェクト

Topic: ColumnWritten by emiko hirahata
2025/9/19
202

ーーーこれはもう、娘には世界中に友だちをつくってもらわないと。

6年前、私は妊娠高血圧症と3日間にわたる出産を経験し、心も体も「もう二度と無理」と悲鳴をあげた。結果、娘は一人っ子として育つことになった。


だからこそ、娘には世界中に友だちを持ってほしいと願った。世界を「友だち」だと思えたら、きっと優しく、オープンマインドに育ってくれるはずだと信じた。そんな想いから、娘が3歳のときに、縁もゆかりもないけれどインド系のインターナショナルスクールに通わせた。インドは人口世界一、英語話者数も第2位。


こうして娘の「世界は友だちプロジェクト」はスタートした。


入学したばかりの娘は英語をまったく話せず、異年齢クラスで少し意地悪をされることもあったらしい。先生に言いつけたくても言葉が出てこない。でも、その悔しさがかえって頑張るモチベーションになった。


そしてある日、ついに彼女は口にした。
“She hit me first!”(彼女が先に叩いたの!)
先生の返事はひと言。

“No complain.”(文句は言わないの)


娘は「自分に起きたことは自分で解決する」ということを4歳で学んだ。
この日以来、ずいぶんたくましくなったように思う。


今では、カフェで外国人に出会えばすぐに話しかけ、絵を描き合ったり、歌を歌ったりする。
先日もMIDORI.so NIHONBASHIに滞在していたインド出身の青年に、堂々とインド国歌を披露していた。タイに行ったときは、英語が通じない場面が多かった。そんなとき彼女は「ミャオミャオ」と猫語で話しかけ、よくお菓子をもらっていた。


今年の夏休みは、北陸の海沿いにある保育園に短期留学した。「おじさんの畑にきゅうりある?」と毎日話しかけて、宿のおじさんの暮らしぶりを探ったようだ。


ある日、彼女がぽつりとつぶやいた。「毎日いろいろな人とお話して、友だちになって、本当にたのしい。世界から人がいなくなったら、私、かなしいな。」


一方で私はというと、彼女が友だちの輪を広げている横で、だいたい一人でコーヒーかワインを飲んでいる。彼女は世界とつながりたい人で、私はひとり静かに眺めていたい人。そんな二人が並んで座っている。


このチグハグが、きっと親子ってことなんだろう。

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