COLUMN #197 Moment in Paradise

MIDORI.so Nakameguroメンバーの志村不動産です。(Read the previous column here)
2015年7月のこと。父が35年間つづけた小さな会社を引き継いだ、といっても、父は株をいくらか所有していたが、それはアメリカ本社に返還するように求められていたため、その対価が父の退職金となった。アメリカ本社の方針が変わり海外拠点の代表に株を所有させることを最近では拒んでいた。なので、僕は株を持てなかった、100%雇われ社長だ。しかし、当時のCEOは粋なはからいをした。特別に退職金制度を設定して、覚書も交わしてくれた。その額は想像以上の好待遇だった。
よし!僕の人生は安泰だ。この仕事を一生懸命に続けて会社とグループの繁栄に誠心誠意、努力しつづけよう!そう誓った。10年後には売上を倍にするとCEOに宣言した。
5年後、パンデミックの最中、従業員数はそのまま、ジャパンの売上は約2倍に達していた。当時のCEOとの約束は果たした。突如、アメリカの新しいボスからWEB会議の誘いがあった。時間帯は珍しく日本時間に合わせてくれていた。出席してみると、ボスと本社の顧問弁護士の2名がいた。「ハローハロー!」なんて感じで始まった。議題は知らされていなかったが、ふたを開けてみたら、僕の退職金制度の無効性がその議題だった。あれは当時のCEOが勝手に決めた内容で、承認も得られていないから無しだ、ということだった。
僕は怒りに怒り憤慨し、ほとんど憤死したうえイヤホンを噛みちぎって壁に投げつけた。
その後、個別に5人の弁護士さんに相談した。答えはどれも同じで、もし退職金の無効を認めなかった場合、速攻でクビにされるだろう。でもやるべきは退職金は無くても新しく別の仕事を初める準備を、今の仕事をしながらやるべきということだった。悔しかった、でもその通りだなって素直に思えた。
そんなとき、友人が宅建士を探していた。その会社にフリーランスで所属して、不動産営業をやらせてくれる話になった。宅建士の資格を取ったのが2019年だったが、これでようやく始められる、僕は5年で不動産仲介王になる、そう決めた。
人生というのは理不尽だ。ギャグのように思いっきり、ずっこけるときがある。それでも生きる、終わったわけでもなければ、いつもと同じように息を吸って、普通に呼吸をする。あの退職金を楽しみに、閉鎖的な環境で、たった1つのことだけに専念しながら老い果てていく人生は僕にとって楽しかったのだろうか。
おかげさまで、今ではMIDORI.soに席を置き、周囲のありとあらゆる人たちが、物件探しや売却の依頼をしてくれる。新しい仲間にも恵まれ、調子に乗ってバンドなんか始めたり。今の状況に感謝しながら深呼吸ができる。
あの退職金というのはロード・オブ・ザ・リングの「力の指輪」みたいなもので、失ってみれば、魔力から解放され、楽しい人生を再スタートできる。まだまだチャレンジしろって、神さまが期待してくれていると勝手に信じて。
つづく @megane_zine
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