COLUMN #183 愛着を纏う

Topic: ColumnWritten by mayuko hicotani
2025/4/25
183

家の中でいつも羽織る半纏(はんてん)がある。 肌寒いときは重宝していて、ブランケットをかぶってみたり他の服を羽織ってみたりもしたけれど、ふわりと軽く何よりあたたかいので結局いつもこれに戻ってしまう。


実はこの半纏、約30年前に私の出産を控えた母のために祖母が仕立てたもので、すべて手縫いでひと針ひと針縫われており、祖母の手仕事の丁寧さとぬくもりを感じる一着だ。


私が受験生のときに母がこの半纏を「これが一番あたたかいから」と渡してくれた。貰ったわけではなかったけれど、私が手放そうとしないから、すっかり私専用のおうち着になったというわけだ。


祖母は大変手先が器用で、かつては和裁士として働いていた。呉服屋さんから依頼を受け、着物を仕立てたりお直しをしたりする仕事だ。田舎の祖母の家には仕事部屋があって、裁ち台という長い机が置かれた畳の部屋からは、ほのかに衣香が漂っていたのを思い出す。


故郷を離れて暮らす母と私たち家族に、祖母は時折野菜やお米などと共に丁寧に縫われた品々を送ってくれていた。母にとっては、さぞあたたかい贈り物であっただろう。 私にも祖母の影響が少なからずあり、細かい手仕事が好きである。


一昨年から手編みとダーニング(「繕い」の意味を持つヨーロッパの伝統的な衣服の修繕方法)で作品制作を始めたのも、幼い頃から手を動かして"作る""直す"という行為がとても優しく、幸せな行為であることを実感していたからかもしれない。 もしかしたら、私の手も祖母の手仕事の力を受け継いでいるのだろうか。そう思うと嬉しい気持ちになる。


さて、そんな祖母が亡くなって7年が経った今年、その半纏にもほつれた箇所が見られるようになってきた。祖母と母のぬくもりとがつまったあたたかい半纏。これからも私が繕って着続けるつもりだ。


今年も来たる寒い冬までに、ちまちまと針仕事を進めることにしよう。

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