COLUMN #18 unleashing creativity

自分を超える仕事
自分の仕事に周りからの評価やフィードバックがないとどこか空虚で、頑張っても意味がない気がする。そんな風に思っていた時期があり、友人にポロっと話した時だった。「他人の評価なんて案外適当だし、自分のことを一番わかってるのは自分なんだから、その日に自分がいい仕事ができたって思えることの方がよっぽど大切なんじゃない?」そう言われた時に、目から鱗が落ちた気分だった。たしかにその方が健全だよなあと納得して、それからというもの◎△×の基準は他人からの評価ではなく、今日の自分の仕事を◎だと思えるか、毎日そう思えることを目指して仕事をした。
10月にオープンした馬喰横山の拠点では初めて立ち上げからプロジェクトマネジメントに関わらせてもらい、これまで関わることのなかった設計者や施工者、職人、技術者の方々と一緒に仕事をすることになった。その中で印象的だったシーンがある。腕が良いと聞いていた塗装の職人さんが、1Fカフェカウンターの塗装をしてくれていた。カウンターに使う波板の素材が現場に届いた時、表面には素材を重ねた時にできた跡が無数についていた。私が現場に行くとかなりの頻度で見かけたその人は、その跡を消すために毎日黙々とヤスリをかけ続けていた。その姿は誰かからの評価ではなく、どれだけ自分が納得いくものに仕上げられるか、という気概を感じた。最後の塗装まで完成した時にその仕上がりの美しさに感動し、今でもふとその美しいカウンターを眺めては真剣に仕事に向き合っていた職人さんの姿を思い出し、気が引き締まる。
自分の周りにあるすべてのものは、誰かの仕事によってできている。自分が毎日使うお気に入りのもの、初めて入った時に感動した空間、居心地がよくつい通ってしまう場所。そういったものの裏には、他人からの評価ではなく、過去の自分を超えようとした誰かの仕事が隠れているのかもしれない。
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