COLUMN #175 茶碗に映る広い世界

Topic: ColumnWritten by taito koizumi
2025/2/28
175

先日、久しく会っていなかった父と夜、食事に行った。特に仲が悪いわけではないが、都内に住んでいると「会おうと思えばいつでも会える」という感覚になり、基本的には何か用事がないと連絡を取り合うこともない。そんな距離感だ。


前回会ったのは、父の還暦祝いだったと思う。兄も一緒に、男三人で鬼怒川温泉へ旅行した以来だ。そのとき、父は茶道教室に通い始めたことを楽しそうに話していた。旅行の帰り道、陶芸体験でそれぞれ抹茶茶碗を作り、「いつか茶名をもらったら茶会をしよう」と約束をした。


あれから2年。父は今も茶道を続けているらしい。茶道には多くの流派があるが、父が学ぶ裏千家では、茶名をもらうまで一般的に10年かかるという。そんな話を聞きながら、ふと幼稚園の頃に茶道体験をしたことを思い出した。


初めて飲んだ抹茶は、特別な味がするものだと期待していた。お金持ちや限られた人だけが味わえる、高級な味がするはずだと。しかし、実際に口にするとただ苦く、なんとも言えない気持ちになったのを覚えている。


後になって、茶道とは単にお茶を点てるだけではなく、その空間すべてに意味があり、お客をもてなすことにつながっているのだと知った。そして気づいた。僕自身、このMIDORI.soというシェアオフィスで、まるで広くて深い茶道のような未知の世界に飛び込んでいるのではないかと。


一服のお茶のように、僕もまた、人と向き合い、この場を育んでいく。そんなことを思った夜だった。

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